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与太話(短編集)  作者: 一つ目小僧/三ツ目
二章 雑多、短編。
7/10

クリサンセマム



 『クリサンセマム』


 ファンタジー系。転移もの。

 争いに向かない超能力を持った、刮目君のお話。

 


 1、どうにも。


 がっかりさせてしまう。

 到らないのだろう、がっかりさせてしまう。

 やる気かな、気迫のようなものが足りていないのか。

 嫌いな人ではなかった。嫌いな人は居なかった。嫌いになるほど近くに居なかった。

 足りなかったり、遅れたり、出来なかったり。

 がったりしたのがよく分かる眼で、見させてしまうのがおれだ。


 期待してきれたのにそんなもんで、こっちをちゃんと見てくれたのにそんなもんで。

 到らなくてごめん、ごめんなさい。こっちを見てくれたのにごめんなさい。言いたかったけど、言わなかった。


 嫌いではないのだ。いい人だなと思っている。喜んでくれたらいいなと思う。

 到らないから、がっかりさせてしまうのどけど。


 

 何も出来ないんじゃなかろうか。ひょっとして、何の意味もないのに成るんじゃないか。

 消しゴムで消えるのと、同じになりやしないだろうか。


 もしもの話は凄く格好悪いが、成りたいのが無い訳じゃない。

 誰かの─────



◆◆◆◆◆


 思い出した。

 至った答えを熟考するには、場が宜しくなかった。痩せた、ぼろぼろの子供。

 親が居ない。そんな事がまかり通るのだろうか。治安はどうなって、法律はどうだと。


 そんな事が些末に思えた。


 何か食べたのは数日前。休むために寝たのは幾日前だったか。無機物めいた丸い眼を細める。水面に映った緑は、何だか作り物、紛い物のような気がした。


 どうして宜しくなかったのだったか。


 寄りかかると、感触。痛みもきちんと感じていた。それはいいとして、一つ気になる差異がある。

 「…ちょうのうりょく、か?」

 掠れた声。身長相応の高さがあった。

 本格的に子供の態だな。

 まあいい、それより。


 手に力を込めた。生成されていくそれは無機質な結晶のような塊で、鱗のようにミキミキと宙に広がっていく。脆く、薄いものだとよく分かる。すぐ割れてしまうような強度の筈だ。


 何の疑問もなく使っていた力だ。馴染み無い特殊な超常現象。


 何か、何というか。


 「……〈板〉、」


 若しくは、まな板。

 やりようによっては、そっくりに作れてしまうかもしれない。


 詮無い思考は霧架かる。これは、宜しくない。何故だったか。

 

 ぶち抜かれていた。血塗れで、ぼろぼろで、今にも死にそうな風体だった。

 暗転し、べしゃ、と倒れ込んだ。



 落ちる。落ちる。落ちるようだ。浮遊感。そういえば、エレベーターは嫌いだった。心臓の重心が乱れるようで、揺らされているようで、嫌いだった。

 「───、」

 浮遊感。声だ。誰かからもたらされたものらしい、浮遊感。

 薄目でみればごつい腕で、抱えられている。そうわかると、踏みしめるブーツや砂埃が眼に入ってくる。歩いている。何処か、運ばれている。

 吸い込まれるように、落ちるているみたいに眼が白黒とする。

 「──粗大ゴミだな、たく」

 善意でないと、漸く知る。

 血だろうか。汚れた事が不快だったのか。嫌いな感覚。不調。投げ捨てられたのだと分かる。

 呻き、縮こまる。すると、手先が固まって冷たいと気付く。


 これはマズいかもしれない、と。

 若しかしたら酷い状態なのかもしれない、と。


 元々マズくて、酷かったけども。自覚を追いやっていただけで気絶する前も先程も、空元気でしかなかったのだけど。

 マズいかもしれない、と思う。辛くなってしまう。自覚するほど重くなってしまう。辛くなってしまう。

 よくある、いつものだ、大したことないと思えてなきゃやりきれない。やりきれなかったのに。


 マズい事になった。


 

 男は居ない。既に立ち去った。水気で見辛い視界どゆっくりと見回せば、溝と、石畳が見える。

 

 良くは分からなかった。少し既視感はあったけども。自分はどの程度危険で、あとどのくらい時間が残されているのか。自分はどの程度自覚があって、どの程度死にたくないのか。

 よくは分からなかった。

 動かさないんじゃなく、動かせないのかもしれない。

 若しかしたらもっと頑張れば、動ける程度の傷なのかもしれない。けれど動かない。動かないから、頑張らないんだなと幻滅して。


 赤くなっているのは頭か、腹か。腹の方が少し冷たい気がした。もう血は流れ切ったりしたんだろうか。

 

 何だったか、何か、そう何か、考えて。


 既視感は、知っていた気がしたあれは、あれ、あれはそう。よく知っている。それ、あれはそう、似ている、似ているのだ。ああそうだ、そうだった、


───がっかりされために、にている。

 




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