クリサンセマム
『クリサンセマム』
ファンタジー系。転移もの。
争いに向かない超能力を持った、刮目君のお話。
1、どうにも。
がっかりさせてしまう。
到らないのだろう、がっかりさせてしまう。
やる気かな、気迫のようなものが足りていないのか。
嫌いな人ではなかった。嫌いな人は居なかった。嫌いになるほど近くに居なかった。
足りなかったり、遅れたり、出来なかったり。
がったりしたのがよく分かる眼で、見させてしまうのがおれだ。
期待してきれたのにそんなもんで、こっちをちゃんと見てくれたのにそんなもんで。
到らなくてごめん、ごめんなさい。こっちを見てくれたのにごめんなさい。言いたかったけど、言わなかった。
嫌いではないのだ。いい人だなと思っている。喜んでくれたらいいなと思う。
到らないから、がっかりさせてしまうのどけど。
何も出来ないんじゃなかろうか。ひょっとして、何の意味もないのに成るんじゃないか。
消しゴムで消えるのと、同じになりやしないだろうか。
もしもの話は凄く格好悪いが、成りたいのが無い訳じゃない。
誰かの─────
◆◆◆◆◆
思い出した。
至った答えを熟考するには、場が宜しくなかった。痩せた、ぼろぼろの子供。
親が居ない。そんな事がまかり通るのだろうか。治安はどうなって、法律はどうだと。
そんな事が些末に思えた。
何か食べたのは数日前。休むために寝たのは幾日前だったか。無機物めいた丸い眼を細める。水面に映った緑は、何だか作り物、紛い物のような気がした。
どうして宜しくなかったのだったか。
寄りかかると、感触。痛みもきちんと感じていた。それはいいとして、一つ気になる差異がある。
「…ちょうのうりょく、か?」
掠れた声。身長相応の高さがあった。
本格的に子供の態だな。
まあいい、それより。
手に力を込めた。生成されていくそれは無機質な結晶のような塊で、鱗のようにミキミキと宙に広がっていく。脆く、薄いものだとよく分かる。すぐ割れてしまうような強度の筈だ。
何の疑問もなく使っていた力だ。馴染み無い特殊な超常現象。
何か、何というか。
「……〈板〉、」
若しくは、まな板。
やりようによっては、そっくりに作れてしまうかもしれない。
詮無い思考は霧架かる。これは、宜しくない。何故だったか。
ぶち抜かれていた。血塗れで、ぼろぼろで、今にも死にそうな風体だった。
暗転し、べしゃ、と倒れ込んだ。
落ちる。落ちる。落ちるようだ。浮遊感。そういえば、エレベーターは嫌いだった。心臓の重心が乱れるようで、揺らされているようで、嫌いだった。
「───、」
浮遊感。声だ。誰かからもたらされたものらしい、浮遊感。
薄目でみればごつい腕で、抱えられている。そうわかると、踏みしめるブーツや砂埃が眼に入ってくる。歩いている。何処か、運ばれている。
吸い込まれるように、落ちるているみたいに眼が白黒とする。
「──粗大ゴミだな、たく」
善意でないと、漸く知る。
血だろうか。汚れた事が不快だったのか。嫌いな感覚。不調。投げ捨てられたのだと分かる。
呻き、縮こまる。すると、手先が固まって冷たいと気付く。
これはマズいかもしれない、と。
若しかしたら酷い状態なのかもしれない、と。
元々マズくて、酷かったけども。自覚を追いやっていただけで気絶する前も先程も、空元気でしかなかったのだけど。
マズいかもしれない、と思う。辛くなってしまう。自覚するほど重くなってしまう。辛くなってしまう。
よくある、いつものだ、大したことないと思えてなきゃやりきれない。やりきれなかったのに。
マズい事になった。
男は居ない。既に立ち去った。水気で見辛い視界どゆっくりと見回せば、溝と、石畳が見える。
良くは分からなかった。少し既視感はあったけども。自分はどの程度危険で、あとどのくらい時間が残されているのか。自分はどの程度自覚があって、どの程度死にたくないのか。
よくは分からなかった。
動かさないんじゃなく、動かせないのかもしれない。
若しかしたらもっと頑張れば、動ける程度の傷なのかもしれない。けれど動かない。動かないから、頑張らないんだなと幻滅して。
赤くなっているのは頭か、腹か。腹の方が少し冷たい気がした。もう血は流れ切ったりしたんだろうか。
何だったか、何か、そう何か、考えて。
既視感は、知っていた気がしたあれは、あれ、あれはそう。よく知っている。それ、あれはそう、似ている、似ているのだ。ああそうだ、そうだった、
───がっかりされために、にている。