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与太話(短編集)  作者: 一つ目小僧/三ツ目
前 オセロが好きな男
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エピローグ オセロが好きな男



 コインランドリーに部活用のジャージを取りに行って、籠に入れ、急いで帰宅した日に、メールが届いた。男の交友関係は極めて狭く、親、親類が少しと友人のアドレスが片手程とで、どれもメールを使うよりは、会話アプリを使う者ばかりの現代っ子だった。父などはメールの方が馴染み在るようだったが、そもそも父はあまり端末を触らない。だがメールではあるので、珍しく思いながら件のそれを開いた。アドレス表記のない怪しげさのあるそれに不信感を覚えた。

 中身は割と簡素で、読み終えると妙に得心いった気持ちになりながら、男はまず部屋の片付けをしようと手を伸ばした。だが、クローゼットにジャージを畳み入れ、服を眺めてみると大体は納まっている事に気付く。日頃からちまちまと片付け、酷くトッ散らかっている訳では無かった自室では、綺麗にしようにも取り掛かりようもなかった。手を出す程じゃない。夕飯前にして、まさか大掃除をしよう何て仰々しいだろう。


 それまでに為ておける事は無いかと勉強机の方を見ると、手をつけていない苦手教科の問題集が眼に入った。範囲に付箋をしてあるから、やはり終わっていない。全然進んでいなかった気もする。嫌なモノを見てしまった。そう思いながらも、何となしに机を眺めてみる。


 ふと男は思い至って、スポーツバッグに突っ込んであるだけのぺったんこな筆箱と大学ノートを取り出し、机に向かった。木製椅子に腰掛けて大学ノートを破り、本体は引き出しにしまって問題集を脇に寄せる。シャーペンを手に取った所で、はてと、男は手を固まらせた。


 何を書けばいいか。残念ながら頭が宜しくない自分が、手紙を書こうだなんて無謀を犯そうとしているのだ。何を書けばいいだろう。是は、一大事だ。

 男はどうも、苦手意識のある作文をしている気になりながら、拝啓皆々様と書き出し、父、母、友人に向けて書き連ねていこうとして、気恥ずかしくて虫唾が走った気になり、その大半を消した。恩人たる先輩にも何か書こうとしたが、やはりらしくないと全部消してしまう。自分の普段の口調で思った事を書いていくと、如何しても作り物っぽいと言うか、巫山戯ているようなものになってしまった。是も消してしまう。


 今までを思い返して感謝を伝えたい筈が、余計なモノがくっついて気持ちが悪いものになってしまうのだ。手紙くらい、もっと簡素で、分かり易いものにしたかった。

 男は色々なものを、大切にしたかった。だからこそ、長々と語りたくなかった。長くなる程キザったらしいし、かと言って大っぴらにもやりたくない。格好つけたい気はあるが、やはり短い言葉で表したかった。


 男は思い返してみる。


 馬鹿みたいな人間だったと。

 情けない駄目な奴だったなと。

 周りばかり嫌いだった欠けている奴だったと。

 でもどうしようもなく、悪くないなと、思っている。

 世話ばかり係る自分、甘えてばかりだった自分、助けて貰って人並みになって、くるっくる変わる二枚の顔面がある自分。

 上がって落ちると確信しながら、今か明日かと恐々としていた。


 何時落っこちるのか解らない。

 予定を教えて貰えないで、情けないままよりはいいんだろう。

 得をしてしまった気すら、している。

 寧ろ大盤振る舞いではと。


 迷惑メールならばそれはそれ、本当であるならやっておきたいのだ。



 おれ才能無いんすよね。運動ってか、サッカーの才能?スレてたから髪染めて煙草やれなくて取り敢えず不真面目にって。で、人の殴り方覚えて楽しくないけどそういうのと連んで。

 性に合わないのに何でスレちゃったんすかねぇヤバいっすよ中二?中二っちゃうの?ヤバい。右眼、右眼疼いちゃう。あれ、左眼だっけ、どっちがぽいっけ。わかんね、アニメ見ときゃよかった。


 才能は無いんだよなぁ先輩言ったらドつくけど。だって元は地味モブっすよぉ、んな急にスポーツメンにゃなれないって。お人が宜しかったなぁあそこ。人間出来上がり過ぎっすよヤバいっす、聖属性フィールドみたい。如何しても人手無いって感じじゃなかったでしょうに。ホントかっけぇ。イカす。

 

 心配あるっけ。ああ、あるわ。あのクソ不良。カノジョ出来たっつでてたけど今度はマジ

なのかなあ。泣き見て欲しくないなぁあいつ屑だし。やっべーあいつらにダチ出来たっつったけと是別の意味で泣かれない?泣いて心配されない?どんな苦行?ヤバ。


 大丈夫かなぁあいつ。ネガってるし拗らしてるしなー一週回っちゃわないかなぁ、心配。どうしよう。シノビないっす。


 


 対話アプリの個人に一言送り、先輩にも送って、夜中に送るとして、電源切って、潔くいこう。ツケが回ってきたと思えば、何もおかしい事はない。


 やっておきたい事は、後は何だっただろうか。


 「あ」


 やっぱり、是はやりたい。

 愛着のある、よくある遊びだ。


 「オセロやりたい」


 相手がいないなと、ベッド下のオセロ板に意識を向けながら、端末を弄る。ゲームアプリにある対戦型オセロで時間を潰すした。

 飯時まではやっていよう、多少夜更かししてもいいかもしれないと、驚くほど簡素な手紙の二つ折りと放置するに決めた問題集を頭の端に追いやった。



※※※※※




 『───命日予告メールを送らせて頂きます。』






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