呪い送り先輩
何やっても上回って帰ってくるというのは、それなりに道理が通っている。
よく言うだろう。人を呪わば穴二つ。案外紛い物じゃないのだ。やった事は倍返しに帰ってくると言っているだけ。それは良い事も、勿論悪い事も。斜に構えて聞こえるだろうか、だとしたら俺は、ちょっとごめんとしか言いようがない。
サッカー部一軍で後輩の教育を主に俺は任されている。体育会系を地でいくちょいと手が出る俺の指導は、それなりに効果があるらしい。部長でも副部でもない。サッカー部二軍という、ある種隠れ蓑に引っ張り込んだ素行が悪い一つ下の餓鬼共。不良ばかりの其奴らを、蹴って殴ってパシらせて、背筋伸ばせとネチネチ言ってるだけだ。何だこによ悪役みてーなパイセン。引く。
どうしようも無い餓鬼共だった。学校も行かねぇ勉強しねぇ、煙草吹かしてみれば、酒まで手を出していた。勿論全部ゴミの日に出してやったけども、当然拳骨一回ずつやったけども。何も遣らねぇなら部活でもしてみろと半ば強引に引き込んだ餓鬼共は総じて、不健康そうだった。路地裏に屯するような奴らは、健康何か気にしやしない。寝不足で不養生で拗れている。そういう面倒を引き摺ってくるのを、許容した副部は一生の恩人だろう。足向けて寝れない。
俺はどうにも、見つけてしまう所があった。それをほっとく、器用さも無かった。
色んな事に気付く時期。
中学校時代、どうにも、大多数に弾かれたようなぼへーっとした面の奴を、俺は不意に見つけている。どうにか、どうにかと望んで。良い事も悪い事も倍になって帰ってきたし、下手打って後悔したことも少なくない。
けれど、辞めないだろう自覚があった。
穴二つ。四つ五つと空く穴を、俺は幻視している。
後悔の一つは高三にある。
呪ってしまった自覚が俺にはある。
引っ張って蹴っ飛ばして放り込んで、勝手に苛ついて呪ってしまった奴がいる。うじうじしていて頭の悪い、才能が無いことを自虐するやさぐれた男だった。とりあえず体に悪そうな物をとジュースばかり飲みながら、朝飯を食わずにはしゃぎ回る男だった。気に食わず活を入れ怒鳴りつけていた。努力が性に合っている奴だった。
万年不良と連んでいて、そろそろ一軍に上げるかと話していた。実を結んだ結果だが、分かりずらくクソ不良もそれを喜んでいた。
呪い返しは倍返し。
俺は知っていた。何をやろうが帰ってくるものは帰ってくるし、それは良いも悪いも同じだというのを知っていた。
責任を持って構えていた筈だった。奴が猫っかぶりのクソまともな、まともが子供だったから拗れた餓鬼だったとも知っていた。
俺は呪っているんだと、分かっていた筈だった。
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『メール』
『恩人です。めっちゃ感謝していました』
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「聴いてくれるか」
「何を?」「どうしたのパパ?」
理想をぶち壊す事を言う。幻滅される事を言う。青臭い過ちを犯す俺を、妻と息子はどう思うだろう。
連れ添った妻は欠片を知っている。
軽く話を見られ、見てきたように語られるような、そんな最悪を片隅に置き、俺は呪いを口にする。浅ましい俺を、如何したいのか。嫌気が差しながら吐き出した。