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青い俺と紫の女

「よーし、落ち着けー俺。」


俺はフル回転している頭を一旦落ち着かせ、冷静に状況を判断しようと試みた。


「相違点1… 場所だな。」


俺が飛び込んだのはナントカ大橋の下を流れる河のはず。だが今いる河には橋なんてかかっていない。それにこんな足がつくほど浅くもないはずだ。


「そして相違点2… 時間か。」


俺は出版社帰りで、夕日を見ながら黄昏ていたはずだ。だいぶ陽も傾いていたはずなのに、今はさんさんと日差しの降り注ぐ真昼間だ。第一… 俺が今までの人生で見てきた太陽はあんなに(黒く)なかった。


「そしてラスト、相違点3… 俺の身体。」


俺は人間だ。それは変えようもない事実… のはずなんだが、現段階ではそうじゃないらしい。体のあちこち、特に右手から何か青いオーラのようなものが出ている。


「んー… 考えても全くわからんな。とりあえずあの街に行ってみるか。」


赤は大嫌いだが街には懐かしささえ感じている。何かしら理由があるに違いない、そう考えた俺は河から這い出し街へと歩を進めた。




その街は一言でいうなら要塞だった。10mはあろうかという壁に取り囲まれ、窓からは剣や槍を持った兵士がうろうろしているのが見える。壁の周囲には畑がいくつもあって、それぞれに誰の所有物かを表す立て看板が立てられている。壁に沿って歩くと、少し先に大通りと門らしきものが見えた。門の中に入るためか、いくつか馬車… いや、(馬ではない二足歩行の何か)が引く荷車が数台止まっていた。


「あのー、すみません。これはいったい何ですか?」


好奇心に駆られて荷車の持ち主に尋ねてみる。が、言った後に気づく。日本語通じるのかな…


「おめぇ、巨人族も見たことねぇのか。俺達商人は重たい荷物を巨人族を雇って引っ張ってもらうんだよ。さてはおめぇ…」


商人の目が鋭くなり、これはヤバかもしれないと感じた。


「田舎者だな!はっはっは、安心しろ!ここ王都イグナントじゃ色んなやつがいる。まず人間じゃないやつもたくさんいるからおめぇみたいな田舎者なんて対して珍しくもねぇよ。」


田舎者呼ばわりされてちょっとムッとしたが、この人はいい人なのだろうと感じていた。


「おじさんは何しに?」


「もちろん俺は商売で一山当てるために来たんだよ。そこの門の通行料だけで馬鹿にならない額だがな!」


商人は豪快に笑っているが俺はそれどころじゃない。入るのに金がかかる?財布の中身を確認してみると1万と少ししか入っていない。これで足りるだろうか…

列は進み次は商人のおじさんの番になった。


「じゃあ坊主、俺は一足先に入ってるから向こうで会ったらやよろしくな!ちゃんと買ってけよ?」


商人のおじさんは番兵に革の袋を渡す。番兵は中身を確認すると、近くの箱から下げ札のようなものを取り出しておじさんに渡す。簡単な流れだがはたしてどうなるのか。


「通行料を出してもらおう。」


「えーっと… これでいいっすかね?」


俺は手持ちの金を全部出して見せる。


「何だこれは。どこの国の金かはわからんが王都じゃ使えないぞ。ちゃんとイグナントの通貨に替えて持ってきてくれないと。」


「そうですか… すみません。」


そう言って立ち去ろうとした時だった。


「ちょっと待て、お前その右手の魔法はなんだ?」


「え、これ魔法なんですか!?」


「知らないところを見るとお前自身から出ている魔力なのだろう。普通ならそれだけの魔力の持ち主、こちらから願ってでも王都に入って王に謁見してもらうところだ。普通なら、な。」


「俺が普通じゃないってことですか。」


「そういうことになる。兵卒の私は詳しいことは知らされていないが、お前のような者が門を通ろうとした時身柄を拘束することになっている。すまないがしばらくの間自由を奪わせてもらう。」


番兵が おい と呼びかけると、壁の内部から5人の兵士が出てくる。そいつらはロープで俺の手首を固定すると壁の中へ連れていった。

これだけ高い壁なのに内部も広いなんて… どれだけ金をつぎ込んだのだろうか。


「俺はこれからどうなるんだ?」


「君の魔力は異質なんだ。それ故密偵の容疑がかけられている。これからその真偽を確かめるんだ。」


「なんだよそれ!俺はスパイなんかじゃねぇ!そもそもここがどこかとわかんないんだ!」


「我々も詳しくは知らないから説明はできない。おとなしく従ってくれ。」


鍛えている兵士達に腕力で敵うはずもなく、ズルズルと引きずられるようにしてある部屋に連れていかれた。応接室のような場所だ。


「君に会わせる方を連れてくるから君はちょっと待っていてくれ。」


そう言った兵士以外の4人は部屋を後にする。残された俺ら2人は何もしゃべらず、部屋は静寂に包まれていた。


「待たせてしまいましたね。」


5分ほど待った頃だろうか、ドアが開くとともに女性の声が響いた。


「あなたが密偵かもしれない子ね。ちょっと頭の中を探らせてもらうわ。」


紫の髪に紫のローブ、全身紫の女が近づいてきて俺の頭に手をかざす。不思議と嫌な感じはせず、逆に暖かく気持ちがいい。


「ふーん… なるほど、あなたこちらの世界の人間じゃなさそうね。」


兵士達に えっ というざわめきが広がる。


「あー、それは俺もうすうす感じてたわ。」


「あら、どうして?」


「俺が住んでるところにこんな城と街なんてないしな。」


「まぁなんにせよ、あなたの密偵容疑は晴れました。疑ったこと深くお詫びします。」


そう言って女はちょこんと会釈する。その顔は思ったよりも幼く、それにめちゃくちゃかわいい。


「他人の頭の中覗いといて軽いな…」


「私は疑うことが仕事ですからしょうがないのです。あ、申し遅れました。私近衛兵団所属魔道士特一級 パメラ=シュメリアです。」


「その肩書きからしてだいぶお偉いさんなんだな。俺は都立青國学園大学文学部近代文学部科2回生兼見習い小説家 綿石 隼人 だ。」


「わざわざ対抗しなくてもいいのに。」


ふふっとパメラは笑う。その笑顔には男の目を惹き付ける魔力がありそうだ。


「ところで、なんで俺にスパイ容疑がかけられたんだ?」


「あなたの魔力が青色だったからです。青は亡国のシンボルカラーなのです。昨年、我が国との戦争に敗北して王族が皆殺しにされて滅びた(青の王国)の残党が最近この辺りで悪事を働いているのです。そのような輩を王都に入れないために青い魔力を持つ人間は皆調べているのです。」


「なるほど… ってことは俺にも魔法が使えるのか!?」


「あなたが来た世界がどのようなところかは知りませんがこちらでは赤子でも魔法を使う事は可能ですよ。ちゃんと訓練しないとコントロールすることは難しいですが。」


訓練が必要と聞いて俺はがっかりした。素性もよくわからない俺はこの後王都から追い出されるのが関の山だろうと考えていたからだ。しかしパメラは予想だにしなかったことを口にした。


「私自身、あなたのような存在にすごく興味があるのです。あなたのことを調査しても良いという条件で、私の弟子になりませんか?」


本日2度目のざわめきが、今度は俺の声も交えて広がる。

今回、1作目とのつながりを匂わせる名前が出てきます。探してみると面白いかもしれません(o´・ω-)b

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