昔のお話
プロローグみたいな感じとしてみてください。
「ねえ、なまえはなんていうのー?」
世界がオレンジに染まる夕暮れの時間。
おさげの少女が純粋な瞳で少年を見つめる。
物腰の柔らかそうな少年は一瞬の戸惑いをみせるが、元気な笑みとともに白い歯を浮かべ、静寂な公園に声を響かせる。
「おれのなまえは、こみやはじめ。はじめだ!」
少年としては少し長い、茶色のさらさらの髪はふわっと風でなびく。前髪ではっきりとは見えなかった彼の顔が少女の目にうつる。
太陽のようにあたたかく、まぶしい笑顔は少女を惹きつけた。
こみやはじめ。少女は彼の名前を心に刻む。
かっこよくて、優しい私のヒーロー。
「おれと、ともだちになってくれませんか?」
ちょっと照れくさそうに、彼は少女にとって素敵な言葉をつぶやいた。
少女は満面の笑みで応える。
「わたしも、はじめのことすき。ともだちになりたいな」
春のあたたかい風が彼ら包む。
「じゃあ、ともだち!これからさきもずっと、ずっとよろしくな」
少年は手を少女にむける。
「うん!よろしくね」
少女も少年に手を伸ばした。
夕日が消える直前の世界。桃色の桜も、淡い緑の葉も色づき、紅緋の世界が彼らを祝福する。
これが、中村彩葉と彼との最初の思い出。
11歳のあの日に出会った彼は彩葉にとって友達で、ヒーローで、初恋の人だった。
彼と過ごしたその一年はかけがえのない思い出として、今も夢で蘇る。
あれから3年の時が経った。
「今日は会えるかな?」
朝日が顔を照らし、夢から目覚めた彩葉は窓に向かってつぶやいた。
窓の外は彼と出会った時と同じ、桜の季節が世界を彩っていた。
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