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積極的な童貞はお嫌いですか?

私立鬼頭相武高等学校。

他所の高校と同じく三学年からなる。一学年につき四クラスから五クラスまであり、全校生徒約420人が在籍する特に特徴という特徴が見当たらない俺達が通う高校である。まあ強いて言うなれば、一応進学校で私学の癖に空調機やエレベータを設置しやがらないけち臭いところとか、体操服がブルマじゃなくて短パンだとか、食堂のメシが豚のエサだとか、高校の名前がセクハラで犯罪的だとか……ネガティブな特徴を挙げればキリがない。ポジティブな特徴といえば……男子生徒に対して女子生徒が割かし多くて上物揃い……なとことか?まあ、それもピンキリなのだが。俺は隣ですまし顔で歩く幼馴染の顔を一瞥する。


「まあ……こいつはピンなんだけどなあ。性格がアレなのが残念ですかね、うん」

「……何よそれ? 喧嘩売ってんなら全力で買うわよ」

「ごめんなさい」


俺が何気なく呟いた一言が癇に障ったのか、柚香は阿修羅みたいな顔して俺を睨みつける。……あの、それ、一介の幼気で純情な女子高校生がする顔じゃないですよ?指サックとか装着する女子高生とかみたくないですよ?俺は口は達者なのだが、メンタルはハ●太郎なのでお口をチャックすることにした。


「ちょちょちょちょっ、ちょいっ、ちょい待ちんしゃい!! ぜぇはあぜぇはあはあはあぁん……♡」


俺達がクラスルームへの道中の廊下で歩いていると、背後から長い黒髪を振り乱し、息を切らしながら敗走中の兵士みたいにヨロヨロと走って来る野郎が一匹いた。全身がマトリックス的でエージェントな黒服を身に纏い、イケてないグラサンとイケてない耳ピアスを装着しているロン毛野郎。こんな背後霊がいたらすこぶる厭である。どうでもいいけど、何で最後喘いじゃったの?


「今ふと思ったんだが、お前、便所で大する時、その長い髪にウン●とかついちゃったりしないわけ?」

「ファーハッハッハ……朝の第一声がその台詞とは流石、親愛なる同志よ。だが、心配ご無用!! 我がウ●チする時は、ツインテールにするからネ!!」


目の前の黒ずくめの男はズレ落ちそうなグラサンをクイッと上げ、奇声を上げながらそう答える。男根野郎のツインテールとか想像するだけでも、気持ちが悪くて虫唾が走るんですけど。


「健児、そんな馬鹿は放っておいてさっさと教室に入るわよ」

「ファァーハッハッハ、馬鹿とはひどいな小鳥遊女史よ。我ほど、馬鹿という境地から程遠い言うなれば……そう、神などいないのになぁっ、ふぁーっハッハッハ、ファァッ!?」バキッ


『ファァッ!?』のところで柚香から顔面にグーを入れられる馬鹿。こんな神コンプレックス的な馬鹿野郎を紹介するのは、夜寝る前に餅をたらふく喰うくらい嫌なのだが、軽く紹介しておこう。野郎の名は一之瀬廻航いちのせかいこう。俺達のクラスメイトで、モブい不審者、以上。


「軽いっ、とってもかるぅぅぅいぞぉ松阪よぉ! もっとぉ、もっとお友達の我を存分にご紹介してぇえええ!? 頭の先っぽから足のつま先までじっくりねっとりとご紹介してくださいましぃいいい!?」

「なあ、柚香、今日の一限目の授業って倫ちゃんの英語だったっけ?」

「そうよ……あんた、倫ちゃんはいい加減止めなさいって。あの人、自分の幼い容姿がコンプレックスみたいなんだから」

「あっ、ごめんなさい。無視は止めて、無視は心が痛い。ついでに我も痛い」


ブリッジの体制で雄叫びを上げる一之瀬を尻目に、教室の扉を開ける。

野郎の紹介なんざ誰得で、毛虱並みにどうでもいい案件なのだからこれくらいでちょうどいいだろう。


「……あ、松阪くんに小鳥遊さん、おはよう」


俺達が教室に入ると、まず目に入ったのが黒板の日直欄を黒板消しで処理する美少女が一人。愛嬌のある笑顔、栗色のさらさらなショートへアー、出るとこ出ていないがでも出過ぎでもなく出ていなくもなく丁度良い体系、健康的ではないが綺麗な色白の肌、今すぐお嫁に出しても文句のつけようのない……彼女の名は伊藤環いとうたまき。このクラスのいいんちょであり、同時に俺の長年の(一年ちょいだが)想い人である。


「伊藤さん、おは」

「伊藤、おはよう。俺に熱い手作りのお味噌汁をフーフー冷まして赤ん坊の様によちよちと喰わせてくれ」


柚香が挨拶を言いきる前に、ちょっと被せ気味で挨拶する俺。


「……あいっかわらず、伊藤さんに対しては前衛的な挨拶するわねあんた。昨日の台詞は……『伊藤、おはよう。お義父さんとお義母さんに挨拶する日取りは何時がいい?』だったっけ……傍からみたら只のストーカーだからもうやめなさい」

「何をいっておるか柚香サァンよ。俺は自分の気持ちに素直なだけなんだよ。だからこの甘酸っぱくて暖かい俺の気持ちを是非ともその気持ち良さそうな胸で受け取ってくれください伊藤」

「あははは……い、今のところはとりあえず、ほ、保留……かな?」


苦笑いしながらそう答える伊藤。

ち、ちくしょう!ちくしょう!伝わらないっ、なっ何故っ、何故、俺の気持ちが伝わらないのだあ!……と心の中で大げさに狼狽してみるが、一年の頃からこういうやり取りをしているからそう落胆もしていない。伊藤もソレが分かっているのか、それなりに相槌を打っている。今、俺が素直と言ったがあれは嘘だ。素直じゃないから素直に告白したいのに素直に告白できないヘタレな俺。柚香の言った通り、傍から見れば気色悪いことこの上ないだろう。


「ほら見なさい。伊藤さん、引き気味じゃないのよ。豚箱にぶち込まれる前に止めなさい」

「俺のは一種の伊藤に対する愛情表現なんだよ。チワワみたいに『クゥゥン……ぼ、僕をめいっぱい愛してよぅ』的な」

「知らないわよそんな屈折したあんたの気持ち。それにあんたの場合は愛情表現じゃなくて異常表現になってるのよ」

「ヤダァー、ボク、イトウサンガスキナノー、アイシテクレナイトシンジャウノォー」

「ふ、ふたりとも……? 皆がこっちみてるからそろそろ止めよう……ね?」


教卓の前で言い争う俺と柚香に対して優しい伊藤さんはまあまあと止めにきてくれる。ああ……なんという俺の愛天使。俺に手作りハンヴァグを作って、食わせて差し上げて下さい。日本語がちょっとおかしいのは気のせいだ。


「そ、それに、松阪くんは私の事、好きって言っても、ラブじゃなくてライク何だよ……ね? だから、小鳥遊さんも落ち着いて……ね?」


俺の愛天使は笑顔で柚香に向かってそう言う。

ヤダァー、俺の愛天使は全然俺の気持ちを分かってくれてないじゃないですかー。


「……まあ、伊藤さんがそれでいいならいいけど。けど、このチン●スがなんか変なことしてきたらすぐ私に言ってね。バールのようなものをもってきて処理するから」


柚香は何だか釈然としない表情でそう言う。

バールのようなもので……処理?い、一体、ど、どんな処理をされるのですかね。俺はほんんのちょっぴり漏らしてしまった。


「あははは、大丈夫だよ。松阪くんは酷いことなんてしないよ。優しいから……」


伊藤はほんの少し頬を染めて、そんなことを呟く。

て、天使やー。ものほんの天使やでー、この娘。俺はホンのちょっぴり立ってしまった、びーちくが。


「ところで、松阪くん……私の机の中にこんな怪奇文書とフランス人形が入ってたんだけど……」


伊藤は遠慮がちにそう言うと、俺に折りたたまれた封書とフランス人形を見せてくれた。……このフランス人形、胸元に釘が刺さってるんですけど。気味悪っ。そして、俺は封書の紙を開いて、目を落とす。手紙は赤字で次の様に記されていた。


『ワタシノケンクン二イロメヲツカウメギツネハゼッタイニゼッタイニユルサナイユルサナイ……ノ ロ ワ レ ヨ』


最後に血判みたいな手形が押されたいた。

……何なんですかね、この寒気がする悪趣味なホラーレターは。略して『ホラレタ』。別に兄貴に、うあ゛ア゛ァッーされるとかじゃなくてな。


「よし、ちょっと待ってろ伊藤。原因の元を今から断ち切ってくるから。奴を打ち首にして伊藤の前に差し出すわ。そしたら、婚姻届けの欄に実印押してくれな」

「だ、だめぇー!! ま、松阪くん!! もうすぐ授業が始まっちゃうよ!! サボりは大罪なんだよ!!」

「……そういう問題なのかしら。健児は相当アレだけど、伊藤さんもちょっとズレてるような……」


伊藤に必死で止められる俺。

くそう、あのブラコンメルヘンキチ姉め……俺の想い人に悪の触手を伸ばしやがって。愛の触手を伸ばすのは俺だけで充分なんだよ!!や、違った。そんな悪の触手からは俺がゼッタイニ守ってくれるぜ伊藤!!


「ファァッーハッハッハ! ……あの、ごめんなさい。我、これ、何時までムシキングされるのですかね」


教室の隅っこで体育座りで居座っている一之瀬を尻目に、俺は姉貴の魔の手から伊藤を守り抜くことを誓ったのである。

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