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人間でも朝からミルクは出るよね、と幼馴染は真顔で俺に問う。

柚香に市中引き回しの刑に合いながら、我が家のリビングに入ると仄かな珈琲の香りと味噌汁の香ばしい匂いが混ざったような何とも如何し難い臭いが漂っていた。せめて珈琲は食後にしようぜ……と贅沢な思考に浸っていると、リビングにある四人掛けのテーブルに借りてきた猫の様に着席している女子がいた。その女子は入室してきた俺達に気付くと、ぱあと蕾が花開かせるように微笑を浮かべる。


「おっはー」


古っ。

両手を挙げて、俺たちに第一声をむける女子。こいつこそが二匹目の幼馴染である。

名は小鳥遊ユキという。性別は勿論、メス……で、俺と柚香の一つ年下。名は体を表すを地でいってるような奴で、その名の通り大雪原を思わせる銀髪ショートカットでくせ毛……て前に言ったら『これはくせ毛じゃなくておしゃれー』とか言って、無理して口にエサを含み過ぎたリスのように頬を膨らませて怒ってたな。まあ、男の俺にとっては、ギャランドゥと腋毛の違いと同じくらいどーでもいい案件なのだが。


「おっはー、ユキちゃん。今日も一段とちっちゃくて可愛いねえ」

「お前も乗ってんじゃねえですよ姉貴。そしてユキ、前にも言ったと思うがそこは俺の特等席です。今すぐお退きなさい」

「……フフフ、健にぃのお席は私のひっぷで人肌程度に温めていおいた……感謝するといいよ」

「あんまり有難味を感じられないとっても素敵なオプションをどうもありがとう」


ユキは意味深な笑みを浮かべ、そそくさと俺の席から立ち上がり、定位置につく。

ちなみに柚香と同姓であるが、血の繋がりはない。とある事情で小鳥遊さんちに預けてもらっている状態なのだ。直接の血の繋がりはないが、柚香とも姉妹同然に仲が良い。見た目はロリだが、少々達観した物言いが何かかちんとくる時があり、偶にいぢってやりたくなる時があるんだがな。


「あ、姉貴。冷蔵庫から牛乳とってくれ……珈琲のストレートは胃にきつい」

「……え、えぇ!? け、ケンくん……中年男性の熟れに熟れた乳首の絞りたて人間牧場ミルクはちょっと……ないかな。お、お姉ちゃんのは……で、でる、よ?」

「気持ち悪っ! 朝から犯罪的に食欲を低下させるようなこと言うのやめてもらえませんかね!? グーパンで殴っちゃってもいいですかねっ!? えぇ、おいっ!?」

「……健にぃ、健にぃにも人間ミルクは出るよね」

「うん、幼女が朝から平気な顔して下ネタはちょっとアレだから、幼女はちょっと黙っておこうね、幼女」

「……むう、私は幼女じゃない」


ユキはちょっと口に含むエサの配分を間違えたハムスターの様に頬を膨らませながら、ジト目で俺を睨む。ほんまにこいつらなんや……下ネタばっかですよ、下ネタ王国ですよ。特にユキなんか真っ赤なランドセル持たせて、黄色の帽子とブルマ的な体操服を履かせたら見た目は犯罪的に小学生に様変わりするんだから、下的なネタは止めてもらいたいぞ。何かとってもイケないことしてる気分になっちゃうぜ。


「健にぃみてみて~……まが~~る~~……」


ヨコシマーなことを考えていると、ユキは銀色のスプーンを持って、そんなことを言う。……何時の時代の人ですか?そんな超能力、今どきのマリックでもやってないぞ。


「ま~が~る~~……」

「…………」

「まが~~……る……」

「…………」

「まがっ……まがるっ……まがれっ」

「…………」

「まがるっ……まがっ……まがらない、ぐずっ」


カラッカラーン……

ユキは涙目になってスプーンを手から離し、床に落とす。

な、泣いたっ!?泣きおったでえ、こいつ!高校生にもなって泣きおったあ!!

どう反応したら良いのか……姉貴も苦笑いしてるし。困っていると、背後に何やら物騒な気配が。


「…………」


振り向くと、エプロン姿で仁王立ちで腕を組んでいる柚香サン。……あれ、何でそんな邪鬼みたいな怖い顔して、俺を睨んでいるんですかね、はい。今からもしかして花も恥じらう乙女の告白タイムとかそんな感じですかね、はい。そんな訳ないですよね、はい。もしかしてマジモンのタマとタマタマをとったるぞワレェ……的なかんじですかね。やだぁー、怖い。


「…………ふんっ」


ぐにゃっ

柚香サンはユキの落としたスプーンを拾い上げ、力技でスプーンを曲げる。

さらに柚香サンはアートオブジェみたいに折り曲がったスプーンをユキに手渡す。


「まがったー」

「わっ、わあ~~……こ、こりゃ、すっすっご~~い」


ドヤ顔でスプーンを見せつける様に上げるユキ。

柚香サンにキッと睨まれて、パチパチと拍手し、半ば強制的に感心させられる俺。

……何なんですかね、この茶番劇。姉貴も「わあ~ケー●ー」とか言い、全力で拍手しながらマジなリアクションで感心してるし。柚香は柚香でどーよ?みたいな顔して威張っている。馬鹿ばっかだな、この国。


「……さあ、朝から下らない事してないでサクッと食べなさいよ」

「おい、ユキ。お前の姉貴今、お前の行いを下らない事って一蹴したぞ。一言何か言ってやってやれください」

「柚ねぇ、大好き」


柚香もエプロンを脱いで、自分の席もとい俺の隣の席に着く。

座った途端、隣からストロベリーな香りがした。柚香を見ると、髪を掻き上げているようだが……。


「柚香、何かお前からストロベリーな体臭がするんだけど……いちごじゃむでも塗りたくった?」

「……っ!? へっ変質者っ!!」


ばちこーん

はいー、本日二度目の理不尽ビンタ、入りましたー。


「ケンくん、女の子に向かって体臭は無いと思うなー……でも、嗅ぐんならお姉ちゃんの脇の下にしてね」

「健にぃ、デリカシーなさ過ぎ」


本日二度目のビンタに傷心中の俺に畳みかける様に目と言葉で非難する女子二人。

俺?俺が悪いんですかね。あと、俺の姉貴はキ●ガイ何ですかね。うーん、おれの女の子の起爆スイッチって俺よくわかんないや……。


「ま、まったく、馬鹿なこと言ってないで早く食べなさいよ、ふんっ」


柚香は少し頬を染めて、黙々と食事に手をつける。

うーん、ツンデレ。それはともかく、せっかく作ってもらったのだし冷めない内に早く食わないとな。ほうほう、今日の朝飯のラインナップは……ご飯、オクラと豆腐の味噌汁、アジの開き、ヒジキの煮物、納豆……ふむふむ、何かおぢぃちゃんの侘しい朝飯みたいで渋いラインナップな感じだが、朝から実に手が凝ったヘルス朝飯である。柚香はこういういかにも日本のごはん!的な和食が得意中の得意である。無論、洋食や中華もできるやり手な女だが、本人曰く、『中華とか洋食とかって冷めたら壊滅的にまっずいんだから』らしい。いやあ、和食も冷めたらまずいと思うがなあ……。本当に美味しいもんは冷めても美味いと思うがな。兎にも角にも本人は和食派なのだろう。あと、和食とコーヒーを同時に出すのは止めてくだせい。


「うえー……ひじき、嫌い……」


ユキはひじきの煮物を俺の珈琲にひじきをパラパラとフレッシュを入れる感じで投入する。コラコラ、ユキちゃん?嫌いなブツを俺に寄越すのはもちろん、そのひじきを俺の珈琲に入れるのは止めてくれませんかね。せめて、ご飯の上とか……うっうわぁああ、ひじきが珈琲の中で泳いじゃってエライことになってるじゃありませんかー、えぇー、俺がこれからこのゴミを処理するのぉー?やだあー。


「コラ、ユキ。好き嫌いしちゃダメよ。ひじきを食べないと……将来この男みたいになっちゃうわよ」

「そうだそうだ、ひじきクンを残すんじゃない。ひじきを食べないと俺みたいに……えっ、それは一体どういう意味ですかね、柚香さん?」

「はぐはぐっ……ケンくん? だめよ、ひじきもちゃんと食べないと……そんなだから、ケンくんはパイ●ンなんだよ?」

「……はっ生えとるわいっ、もっさもっさじゃい!!」

「……むー、分かった、頑張って食べる……」

「はいはいはいはいっ、そこ! 言いながら、俺の味噌汁にひじきをぱらっぱらっ入れないっ」


……こんな感じで、偶の幼馴染との朝食が進むのである。

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