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俺の股間が膀胱的及び社会的にヤバい。

「あ~~、ヤバいよヤバいよっ」


自宅マンションの一階のエレベータ前で意味なく地団駄を踏む、俺。偶に通りかかる近所のガキや老婆に奇特な目で見られたりした。いや、そりゃ客観的に見れば、なんか変なクスリをキメてる只のヤバいヒトなのかもしれないが、今はそんな世間体を気にしている場合ではないっ。


「くっそっ、つーか、まだ十階かよっ!! 何をちんたらのろのろちんたらのろのろ……!! 畜生っ畜生っ……!!」


俺の股間の王子さまが膀胱的に破裂寸前で社会的にヤバいっ。


この最近のラノベのタイトルみたいな一言で、殆どの美男子は俺が今どういう状況なのか絶望的かつ膀胱的に把握できたことだろう。自宅のマンションの一室は最上階もとい十一階に位置している。その為、自宅に向かうにエレベータを利用するのだが、その肝心のエレベータが一基しかない。しかも、その一基が中々に降りてこない。階段を使えばいいじゃんとか思われるかもしれないが、下半身に力を入れれば俺の膀胱がばちこーんと破裂すること間違いなしだろう。何だ、この四面楚歌……これならまだ、全身マッチョのガチホモ野郎に囲まれている方がまだマシだよっ!!


「あっーあっーうっー!! あ゛おぁー!! あ゛おぁっーー!!」


十、九、八、七、六……!

いやっ、別に汚い聖水発射のカウントダウンとかじゃねえからな!!エレベータ表示階数のカウントダウンだっ。オットセイみたいに鳴いていないと正気を保っていられないっ、ジタバタ動いていないと我慢できないっ、何か変な事を考えていないと気が紛れないっ……何という三重苦か!くっそっ、学校に出る前に便所にインしておけばよかった!!


「きぃ~~……キェエエエーー!! キェエエエーー!!」


五、四、三……!お、落ち着け、俺。

も、もうすぐだ……もうすぐだっ、もうすぐ汚いオアシスに不時着するっ。

あああぁ、おいっ、不時着したらおしまいだろうがっ、絵面的にっ、社会的にっ、発禁的にっ。と、とにかくだ……そ、素数、素数を数えろ……ニ、三、五、七、十一、十三……!!ああぁああ、階数が遠のくような気がするっ。


「おうっ、おうっ、おぁあああ、おあ゛っーー!!」


ニ、一……!!ほいきたそれきたっ!!

それからの俺の行動は早かった。一心不乱にエレベータに駆け込み、自室のある十一階のボタンを押し、掲示板の前で合格発表を心待ちにする高校生の様な面持ちで、エレベータが到着するのを待つ。実質的にはものの数十秒の事なのだろうが、今の俺にはその時間が数分経過している様に感じられる。そうして、天国へのヘブンズドアーが開かれたーー天国二回言っているとか野暮な突っ込みはなしだっ。ともかく、エレベータが開かれた瞬間、俺は薬厨患者の様に自宅へと走り出す。


「うぉおおおおっ、耐えろっ、俺のボウコォおおおおおお!!」


自分の息子に言い聞かす、『まだお前は大丈夫なんだよ……?』と脂汗にまみれた笑顔で。自宅のドアを蹴る様にして開け、便所に駆け込み、膀胱的にスッキリ……!


「できねええええええ、うおぉおおおおおん!!」


使用中、使用中っ、使用中ぅううう!?俺は便所前で情けなく咽び泣く。

だ、誰だあ!俺のおちん●んの聖域に土足で踏み込む不届きものは!!お、お袋かっ!?い、いやっ……奴は慰安旅行で北海道に行ってて、今、このハウスにはいないはずっ。親父は仕事だしっ……。


「そ、その声……け、ケンくん……!」

「てめえか姉貴ぃいいいいい!! 早く、出てこいちくしょうぅううう!!」


ああああっ。

何で、あいつは、俺が膀胱的にピンチなこんな時にっ!!


「……えっ、や、やっ! け、ケンくんそんな……! お姉ちゃん……ケンくん、そういうのはまだ時期尚早だと思うの……」

「うおぉおおおっ、何言ってんだお前っ、意味不明な事言ってねえで早く出てきて出てきてくださいおねがいしまぁああああああ゛!!」

「いやあっ!! ケンくんっ、ケンくんがそんな……お姉ちゃんの尿をじっくりテイスティングしたいです、とか、いやあああ、お姉ちゃん、恥ずかしいよう」


か細い声で何やらブツブツ呟いている姉貴。

あ、あかんっ、あかんでえ!こいつが何言ってるのか全然さっぱり理解できねえ!!うぉおおおんっ、尿漏れ寸前の描写を半分以上やらかして、最終的にはお漏らしする思春期男子の悲惨な図……とか誰得なんだよっ。読者も期待してねえよ、そんなクソ膀胱的展開っ!!ああああっ、余裕がなさ過ぎて自分でも何言ってんのかわかんねえけどぉおおうおぉおおお!!


「お、お願い……あ、あのね、うち……もう我慢できへん……は、はやく、おといれ、行きたいねん……せやからお姉ちゃん、開けて……ここ……」


トイレの戸をコツコツと叩きながら、俺は姉貴にそう言う。

だ、だめポ……もう、私の膀胱ゲージはゼロよ!!ゼロヨンダイバーよ!!


「えっ……ケンくん、も、もしかして……お、おしょんしょん……したい……の……?」


姉貴は合点がいったのか、俺に向かってそう問い質す。

お、おしょんしょんはヤメロッ、い、いや今はそんなどうてもいい突っ込みはいいだろっ。と、ともかく……アホの姉貴にも俺の意図が十二分に伝わったはず!


「ウンウンッ、ボク、オションション、シタイ、ダカラ、ハヤク、デテイケ、ココカラ」

「そ、そう……で、でもね……お姉ちゃん、今、オ●ニーしてるから、今は出られないかな……」


…………、…………。

何を、言ってはりますのん、この子。


「ふっ、ふっざけんなっ!! ごらあっ!! そんなもん止めてハヤクココカラ出てこいやああああ!!」

「……いっ、いやあ!! ケンくんはお姉ちゃんの恥ずかしい姿をマジマジ鑑賞して今夜のおかずでしこしこタイムにしたいのねっ! ケンくんのえっち!!」

「なあっ!? いい加減にそのトチ狂った被害妄想やめてくれませんかね!? あと、仮にも嫁入り前の娘がおかずとかしこしことかしこしことか言ってて恥ずかしくないんですかねっー!? ねっー、ねええええ、ねええええ!?」

「よ、嫁入り前……ケンくん、ケンくんはお姉ちゃんとトイレで挙式を挙げたいっていうのね……」


や、やだぁ……この子、全然、話がつうじないよぉ。

あ、あかん、あかんよ、あかんよう……この流れはあかん……こ、これはもう……限界、よ。俺はヘタヘタと床に座り込む。


「け、ケンくん……大丈夫……?」

「大丈夫じゃありませんよ……そ、それよりスッキリしましたか……? 早くでてきてくだしゃいましぃ……」

「うっ、ううん……ま、まだ、だよ……?」


トイレ前で姉のマスターベーションの終わりを心待ちにし、失禁を我慢する弟の図。

どんなだよ、どんな姉弟だよ、どんな会話だよ、トイレ前姉のか細い声を聴かされる身にもなってくれ……超絶に嫌過ぎる……。あー、うー……おしっこぉ……おっしっこしたいよう……心の中で失禁のファンファーレを執り行っていると便所の中からジャーという水音聞こえてきた。何を思ったのか、何の気なしに俺はトイレの扉に手をかけると、簡単にトイレの戸が開き……。


「……えっ」

「……えっ」


目と目が合う瞬間、ご対面。

瞬間、姉貴の悲鳴と俺の絶叫が木霊した……。

……そして、俺の膀胱は破裂した……。



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