主は言いました……彼女の家電にコールしたらデリヘルに繋がったがまあ気にするな、と。
「おーっほっほっほ! そこの公共のベンチでイヤラシイ情事をしているサカリ盛りのエテ公どもよっ!! この、ワテクシ……『ムッツリ仮面』が来たからにはエロコメ展開は……悦★殺、しちゃうぞ★」
伊藤の手作り和菓子なるワラビ餅に舌鼓を打っていると、いきなり俺と伊藤の目の前に視覚的に大変宜しくない痴女が現れた。
「げふっごふっ……えっ、えーっと……?」
いきなりの奇天烈お下劣お姉さまのご登場に俺はワラビ餅の粉も相まって蒸せてしまう。
えーっと、えーっと、えっと。やばい、次の言葉が出てこねえ。えーっと、ストリップ小屋の回し者ですか?人間は自分の予期せぬ事態に思考が停止するというが、まさにこのことである。チラリと横目で伊藤の様子を窺うと目を丸くして固まっている。やっぱり普通の美少女には色々な意味で刺激的すぎるな。と、兎に角にも冷静になろう。深呼吸深呼吸、すーはーすーはーすーはぁはぁ。ポリスを呼んでしょっ引いてもらうのが常套手段である。しかし、あまり騒ぎを大きくしたくないのもある。身元を聞いてさっさととっとこ早急にこの世界から退場してもらおう。
「どちら様ですか………?」
「よくも、ワテクシを前作のヒロイン候補から外してくれたわねこのラヴコメ野郎。絶対に、絶対に…………ノ ロ ッ テ ヤ ル デ シ」
パントマイマーみたくゆらゆらと円を描くように不気味に動きながら俺を睨みつけるムッツリなんたらかんたらさん。ひょっとして、このお方は日本語が不自由なのかな。
「いや、あの……そんな恥激的な格好して脈絡のない意味不明な脅迫はやめて下さい」
「ちょっと、今、貴方、私のたわわなオッパイを視姦しながら自分の猛々しくて汚らしくてとっても美味しい粗びきウインナーを隣のメス豚の頭の上にのせて、『ほーれ、ちょんばげお嬢様侍』とか言ってびったんびったんやってやろうとしていたのでしょう…………ふぅ」
自分の両胸を揉みながら恍惚の表情を浮かべるムッツリなんたらかんたらさん。やべえ、この痴女がナニを言っているのか全然わかんねえ。姉貴を呼んだ方がいいのかな?頭がオカシイのと頭がとってもオカシイのをブツケといたら綺麗に相殺されて、この場もスッキリクリーンな公園に生まれ変わることだろう。……あ、頭がオカシイのととっても頭がおかしいのをブツケたら頭がオカシイのしか残らないぞ、しまった盲点だった。ちなみにとっても頭がオカシイのは姉貴である。
「……はっ。ま、松阪君っ、松阪くん! 変態! へ、変態さんだよ……!!」
数十秒、石像のように固まっていた伊藤は我に返り、震えながら助けを求めるように俺の服の裾を掴む。そうだ、守らなければこの肢体……じゃなくて、笑顔。俺は伊藤と異世界語を宣うムッツリスケ兵衛の間を塞ぐようにズイッと身体を動かした。
「おい、いい加減にしろよ。他人のほわほわ時間を台無しにしやがって……あっちいけ、しっしっし」
「なっ……ワテクシのたわわなオパーイに皮剥け三太夫を挟み込んで『ほーら、肉棒サンドウィッチをゆっくりお食べ』とかやるつもりなのでしょう! ああ……そんな、変態プレイ……いいのよ、ごゆっくり召し上がれ?」
キチ●イだろ、この女。
「あ、あああぁ……えと、えーっと……こ、こういう時って119番だよね」
「伊藤、落ち着こう。ある意味其れも間違ってはいないがこういう時は117番だ」
俺は冷静になって、スマホに電話ダイヤルに117と入力する。
すると、電話越しから『午前十一時十一分十秒をお姉ちゃんがお知らするよう……はあ、はあ、はあ、チーン!!』という聞き覚えのある変態の声が聞こえてきた。時報である。俺は全然冷静ではなかった。
「な。なに……『072(おなにぃ)』ですって! まあ、なんて……健全なのでせう!! 健全なのでせう!! ば ん ざ い ! さ あ み な さ ま ご い っ し ょ に ば ん ざ い !」
「ヒッ、ヒェ……! へ、変態……!」(←通りすがりの幼女)
目の前の頭のおかしな痴女は一人で万歳三唱しながらエキサイトする。……白昼夢かな。
殆どかすってねえだろ。ていうか、何なんですかねこの誰も得しない時間は。そろそろこの邪悪な空間から離れないと頭の中が正体不明の毒物で汚染されそうだ。目の前の世界観が場違いな痴女は一般の美少女にとって百害あっても一利なしだろう。俺は茫然としている伊藤の手をギュッと取り、声を掛ける。
「(伊藤、そろそろここから逃げよう)」
「(う、うん)」
「なんだなんだ、この痴女は。とりあえずスマホでとっとこハ●太郎」(野次馬A)
「ギャハハハハ、何あれ、すっごいコスプレなんですけどー。タイムラインにのせちゃる」(野次馬B)
「……あっ。さ、撮影はダメよ。と、撮らないで。あっ、け、ケンくん! 待ってえ!! た、助けてよ~~!!」
ベンチの上で立ちんぼで万歳三唱を繰り返す痴女の目の前に野次馬が集まってきた。
このチャンスを見逃さなかった俺と伊藤は無事、公園から逃げ出すことが出来たのである。……ところで、あの痴女、最近何処かで聞いたことがあるような声だったが……よしっ、気のせいである。
──大手百貨店前。
痴女から命からがら逃げだした俺と伊藤は百貨店前にいた。
隣にいる伊藤を見ると胸を抑えて小さく繰り返し呼吸をしている。走り過ぎたかな。
「はあはあ……伊藤、大丈夫か? あの痴女のせいで気管支炎とか喘息とか出てないか? なんなら『富士の空気』の缶詰あるけどいる?」
「あはは、お、大げさだよ松阪くん。私は大丈夫……って、松阪くんってそんなの常備してたんだ」
「よっしゃ。じゃあ、気分転換にカラオケでも行こうか。俺の『男でもドン引きィ!するアニソンメドレー』を披露するぜ」
「うん、そうだね。そろそろ、松阪くんの親戚の女の子のプレゼントを買いに行こっか」
「んっ」
「えっ」
……。
おおうっ、忘れてたあ!すっかり、ふっつうのデートだと思っていたが本来の目的を忘れていたぞ!
「あ、ああ……そ、そうだな! プレデント! うんうんっ、プレゼントを買わないとな!!」
「う、うん。それで、一応参考に聞きたいんだけれど松阪くんの親戚の女の子はどんな子かな」
「ど、どんな、そうだな。俺の年上なんだけど、常にエネルギッシュでちょっと悪戯好きなんだよ」
「うんうん、元気なお姉さん……いいよね、うらやましいなあ。小悪魔的なお姉さんなのかな?」
「それにことあるごとに会話の節々に下ネタを入れてくるんだよ、所謂下ネタ大好物人間」
「うんうん、下ネタ大好ぶ……えっ?」
「あとフェ●ガモのバッグを欲しがってたかな……ブランド物も好きなんじゃないかと思う。って、あれ? 伊藤、どうした?」
「う、うんうん……そ、そう。松阪くんに親戚のお姉さんって小悪魔的で物欲的なし、下ネタが好きな人っていう認識でいいのかな……?」
伊藤は苦笑いしながら俺にそう問う。
うん、間違ってはいない。その言葉に嘘偽りはないのだが、改めてこう客観的に考えてみるとただの卑しい人間にしか聞こえないな。すまん、凪咲さん。思いっきり、第一印象悪くしちまった。
「えっと。松阪くんはこういうのをプレゼントしたいってのはあるかな。私もおすすめのお店は紹介するけれど、まずは松阪くんの希望も聞いときたいかなって」
「あ、ああ……そ、そうだな。アカフンとか……いいかなっ?」
「……………」
「……………」
伊藤は俺の返事を聞いた瞬間、笑顔で固まってしまった。
……ああああっ!しまったあ、今朝見た夢の願望をそのまま言ってしまったぞ!!
な、何が……いいかなっ?だよ!!アフォか俺は!!麗しき女子の目の前でアカフンがいいですとか新手のセクシャルハラスメントもいいところだぞ!!うおおおんっ。今日の俺は失言多すぎィ!
「……ごめん、間違えた。み、水着……俺は水着が良いですはいっ!!」
「あはは、は……い、今のは聞かなかったことにするね? 水着、水着かあ……でも、どうだろ……親戚とはいえ女の子に肌着をプレゼントっていうのはちょっと、ね」
失言で微妙な空気になる中、さらに微妙な空気になる。
センセイ、失言をフォローしたつもりが微妙にフォローになってなかったです、はい。失言を失言でフォローしちゃいました、はい。
「あっああ! そ、そうだよな!! 水着何てだめだめだっ、よし、やめよう!! 俺は水着をやめるぞぉおおおおお」(←半ばヤケクソ気味)
「あ、い、いいよ! 松阪くん。私がプレゼントするんじゃないから、ごめんね。ちょっと言い方悪かったね。そろそろ、夏の新作もあると思うし……私なりにおススメを言うよ? ……いこ?」
伊藤はまた天使のような笑みを浮かべて、俺の手を取る。
あっ、とっても優しいです。俺は伊藤の気遣いに感謝しながら、伊藤と共に百貨店の中に入ってのだった。伊藤の手のぬくもりにドキドキしつつ、幸せ気分な俺であった。しかし、俺はこの時、まったく気付いていなかったのである。
「くぬぬぬぬ……健にぃ、幸せそうな顔してる……! ゆ、許さない……絶対に許さないんだから……!」
「くっくっくっ。一人だけ、抜け駆けはナーシだよ……けんけん」
「あの。紅音さん、あのおちん●野郎、肥溜めに沈めて思いっきりドつき回してもいいですか」
三人の女豹の視線もとい死線を……。




