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主は言いました……寿司と寿司の間に挟むのは己の分身だけで良いのです、と。

「俺と付き合ってください」


何を血迷ったのか、俺は赤子がエプロンにポロポロと米粒を零すように先の台詞を口走ってしまった。

な、何を言ってるんですか俺は。い、いや、俺にとってはこの先に訪れるであろう予定調和な台詞なわけであるが、寄りにもよってこのタイミングで?心の準備くらいさせておくれよボーイ。し、しかし、しかしだ健児、逆に考えるんだ。この展開は俺にとっては早いか遅いかだけの話。つまりは、時間の問題。ここは、伊藤の反応を見る。そうさ、俺は授業中に限らずあらゆるイベントごとにおいて愛天使伊藤に対して散々、ウルトラ好き好きぶっちゅううう光線を股間から放っていたじゃあないか。何をいまさら焦るというのでせうか(いや焦るはずがないでせう)。反語を用いてまで勇気を奮え立たせる自分の気持ちとは裏腹に、俺のビーチクと股間はヴィンヴィンに奮え立っていた。どうもこんにちは、上のポッチが敏感な、こんな俺です。


「あ……ぅ。そ、その……あの……」


伊藤は俺の唐突な告白に胸の前で手を組み、真っ赤になって俯いている。

あ、あれれ?お、おかしいぞ……俺の予想では『松阪くん、そういうのはホントに好きな娘に言うべきセリフだよ?』とか少し照れ笑いしながらいつものように軽く俺の頭のおかしな発言をスルーするかと思っていたわけであるが。な、何ですかこの初心な反応は。も、もしかして。もしかしてもしかするともしかしなくとも一発逆手マン塁ホゥームランがあり得ますか(いいや、あり得ないでせう)。いやいやっ、そこは肯定しとけよもう一人の俺!


「うん、うん。ま、松阪君……」


伊藤は何か自分に言い聞かせるように、何かを決心したかのように俺の名を呼びかける。

……うっ、うぉっほおおおお。や、やっべえ!緊張する!緊張すゆよぉ!!緊張しすぎて脱糞しそうだっ!!どうもこんばんわ、下のお口がだらしない、こんな俺です。


「あ、あの……ね。私……」


今まさに伊藤の可愛らしく瑞々しい唇から俺の告白の返事が返って来る。

うっぎゃああああ。殺して殺してワタシを殺してぇええええ貴方も殺すゥうううう。メ、メンヘラ女子な気分で緊張している場合ではないっ。う、受け止めるんだ、伊藤の気持ちを。伊藤が、今、俺の事をどう思っているか。伊藤は俺の事が好きなのか、嫌いなのか。友達として?恋人として?俺は伊藤のどんな返事でも受け止める義務がある。俺は……。


「私、は……」


涙目で、そしてしっかりと俺の目を見つめる伊藤。

俺、は………。


「ど、どすこい」

「えっ」

「どすこい、どすこいっ。はっ、ふっ、はっん、う、うっす! い、伊藤はん。お突き合いしてくだしゃい!!」

「…………」

「お付き合いっ! お突き合いっ! 明るい未来のド突き合い!」

「あ、は。あははっ、や、やだ……松阪くん何それー……う、うぷぷっ」


俺は力士の張り手をジェスりながら(ジェスチャーしながら)、声を張り上げる。

む、無理だぁ。こ、こんな、『納豆を風呂に敷き詰めて思いっきり泳いでみた』みたいなユーチューバー的なノリで伊藤の返事を聞くのは無理だ、というか嫌だぁ!伊藤に告白するときは、しっかりとした気持ちで、そう落ち着いて、背筋を伸ばして、深呼吸して、すーはー、すーはぁはぁ……うぉおおおおんっ、お、俺のヘタレー!!


「ぷぷっ、ふふふ…………ふふふっ」

「あ、あの……伊藤さん? わ、笑い過ぎィじゃないですかね……廻しに憧れるどすこい係長のモノマネ」

「くくくっ、あはは……ご、ごめんね。ま、松阪君があまりにも寒すぎるギャグを真剣に披露するから、その必死な表情につい……」


脇腹を抱え、笑いを必死に堪える伊藤。

まあ、何とか誤魔化して有耶無耶にできたからいいんだけどな。いやっ、よくねええええ。うぉおおおんっ、ほんっとうにヘタレすぎる俺!一世一代じゃない意味不明なギャグで流すなんて!!本当に情けねええええよぉおおおお、しかし過ぎたことはどうしようもありません。俺はちゃんと伊藤に告白できなかった自分に後悔と、しかし心のどこかでホッとしている自分がいた。あかんな、こんな事を考えてたら凪咲さんに『そんな悪い事を言う下のお口にはこうだっ、びびびびびび~』とか言われながら電気按摩の刑に処されそうだ。


「あはは……と、とりあえず、お昼、食べよっか。私、お弁当持ってきたから」

「うっす、ごっつあぁんですっ。フレンチ的なレストランに行くのはどうっす……え? い、伊藤? 今、何て?」

「うん。お弁当持って来たの」


伊藤は俺の目の前に可愛らしいピンク地の白色水玉模様の小包を持ってそう口にする。

えっ……何、このラヴコメ展開。やだ、アタイ……とってもうれしい。


「そ、そう……なんだ。あ、ありがとな伊藤。お、俺の為に弁当まで用意してくれて」

「……。えっ、あっ、ち、ちがっ、違うのッ! そ、そういうのじゃなくて……。お、弟の! 弟が今日から野球部の練習試合だから! つ、ついでに用意したの!!」

「えっ……あ、そうなの」

「あっ……う。い、いや……な、何かこの言い方も松阪くんに失礼だよね。ごめんね……」

「いや! そんなことないぞ! 俺、伊藤の手料理を食べられるだけで大満足だから! 伊藤の弁当だったら弁当箱ごとバリバリィイケる口だから!!」

「あはは……弁当箱はできれば食べないで返して欲しいな……」


理由が何だって良い。

想い人の伊藤の手料理が食べられる。そのこれから起こるであろう事実だけが俺のぽっかり空いた胸元のスペースに幸福感というブロックが埋まっていくのだ……。人生は幸と不幸の積み重ねです!いや、何か本当に幸せってこういうのを言うんだろうな。普段は常に監視されるようにブラコンの権化のような輩に付きまとわれているせいで俺の心が汚染されまくっているが、伊藤はその汚染された心を浄化してくれる天使のような娘なのだ。


「とりあえず、場所を移動するか。公園……だな」

「うん、行こっか」


人通りの多いハチ公前を離れ、俺と伊藤は近くの公園に移動することにした。


────芝生公園────


「おおおおっ、こ、これが妄想にまで見た……! 伊藤の……手作り弁当!」

「あはは、夢じゃなくて妄想なんだ……。手作りって言っても、冷凍食品もあるけど……松阪くんのお口に合うかどうか分からないけれど、どうぞ」


緑の生い茂る公園のベンチにて。

俺は伊藤から小さな可愛らしいピンク色の楕円上の弁当箱とお箸を受け取り、今まさに実食する最中である。伊藤の手作り弁当の中身は色取り取りのオカズと白米が半々で成人男性にとっては少々物足りない感じではあるが、まさに家庭的な手作り弁当を地でいっているような内容であった。オカズはウインナーに卵焼き、そして唐揚げ、金平牛蒡、アスパラのベーコ巻き……これまた王道を地でいっているようなものである。あ、ああ……ある意味予想通りといったら予想通りなのだが、俺にとっては想い人の手料理を舌で存分に味わせるその事実が嬉しい訳で。俺は自らの太ももに乗せている伊藤の弁当箱を前にして両手で口を押えて、涙した。


「あ、あれ? ま、松阪くん……どうして泣いてるのかな。……あ、もしかしてちょっと量が少なかったのかな」

「あ、ああ……いや、うっううぅ……そ、そうじゃないんだ。俺は今、モーレツに感動しているんだ……こ、このままこの目の前の神聖なる食物を果たして俺が犬のように食い散らかしてもいいのかなって。本当は仏壇にでも飾って、仏様にこの食物を捧げた方がいいのかなって……うううぅ」

「な、何で? お供え物じゃないから、松阪くんに食べてほしいな……」


えへへ、と少しはにかみながらモジモジし、そういう彼女。

……お、俺は何て幸せ者なんだぁ。仏壇に飾るとかアホな事言ってる場合じゃないぞ。そ、そうだ……折角、伊藤が深夜二時に起きて作ってくれたのだから(←言ってない)、俺はその頑張りに大いに答える必要がある。ま、まずは……俺は震える手で箸を持ち、オカズの定番中の定番である卵焼きを口に入れる。


あ、あま~~い。


伊藤が作った卵焼きは甘めの味付けであった。柚香サァンが作る卵焼きはダシ系の卵焼きではあるが、これもこれでワルクナイというかうまいっ。卵焼きをキッカケに俺は次々とオカズ、ご飯の交互に口に入れ、咀嚼していく。偶にオカズを先に全部食べてから最後に白米だけを食べる奇抜な奴がいるが、ちょっとその人たちの思考回路がよく分からないですね。まあ、茶漬けにするなら分からないでもないが。あと、回る寿司屋で寿司と寿司の間にスイーツを挟む奴も。普通はスイーツは最後だろ……と、そんなどうでも良い事を考えながら食しているといつの間にか小さな弁当箱は空っぽになっていた。お、おおお……?な、なんだと……ものの数行で伊藤の素敵なお弁当を完食しちまったぞ。ち、畜生め……もっと、伊藤の弁当について思いっきり叫びながら実況解説したかったが仕方あるまい。だって言葉を忘れるくらい美味しかったですもん。量は伊藤が言うように少なかったが、腹だけでなく心も満たされたので俺のポンポンはいっぱいおっぱいです。これが俗にいう『幸せ太り』って奴かな……違うか。


「うっぷっぷ、ご、ごっつあぁん、です……あ、ありがとう伊藤。本当に美味かったよ」

「どうもお粗末でした。すごいね、松阪くん、掃除機みたいにお弁当平らげてたね。よっぽどお腹空いてたんだね」

「あっ……す、すまない。もっと、味合って食べたかったけど……あまりにも美味しかったから、つい」

「ううん、いいよ。私、美味しいって言ってくれるのも嬉しいけれど食べる人の幸せそうな顔を見るのも好きなの。いつも弟を見ていてそう思うの」


微笑みながら、伊藤はポットから暖かいお茶とタッパーに入ったワラビ餅を差し出してくる。

おお、料理がおいしいだけでなくこの日本の和服女子的な気遣い。本当に伊藤は何て素敵な女子なのせう……俺はっ、今、モーレツに感動しているッ、ぞおおおおッ!


「あ、ありがとう……うっ、うう……俺、伊藤のお嫁さんになってもいいかな……」

「あはは……お、おおさげだよ松阪くん。そんな、お嫁さんって……」


伊藤は少し苦笑しながら、俺の戯言に付き合ってくれる。

あゝ、こんなぽわぽわ~する日常がもっと続けばいいのになあ……。


「おーっほっほっほ! そこの公共のベンチでイヤラシイ情事をしているサカリ盛りのリア獣どもよっ!! この、ワテクシ……『ムッツリ仮面』が来たからにはエロコメ展開は……滅★殺、しちゃうぞ★」


黒のマントに、黒の蝶ネクタイ、蝶仮面、黒のスケベ水着、全身黒という黒の装備を身に纏った……ほわほわ~からかけ離れた変質者が突然現れた。……な、何ですかこの超展開?

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