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主は言いました……デートはお互いの身体の相性を確かめ合う前戯のようなものだ、と。

学畜イベント翌日、休日の朝。

俺、姉貴、柚香、ユキそれに珍しく叔母の凪咲さんはリビングの食卓に着いていた。凪咲さんは偶に食卓を共にすることがあるので柚香、ユキとも既に顔見知りである。今日も今日とて、柚香サァンが休日にも関わらず朝飯をこしらえてくれたのだ。無論、柚香の大の得意な和食である。ラインナップは、えーっと……アサリちゃんの味噌汁、アサリちゃんのソテーに、アサリちゃんの酒蒸しで、あとアサリちゃんの炊き込みご飯に、えーっと、えっと。……ゲェー!アサリの見本市じゃねえか!!アサリアレルギーの俺に対する嫌がらせかっ!!俺はこれは何事かと確認する意味で、柚香サァンの顔をちらっと見る。


「松阪健児くん? どうしたのかしら?」


な、何でフルネームなのですかね柚香サァン。

柚香サァンは目の前の己の作った料理に口をつけようともせず、頬杖をついて俺の一挙一動も見逃さないような、そんな佇まいかつ気持ち悪いくらいの笑顔で俺の顔をジィッと見つめてくる。えっ、やだ……こわっ。何でこの子、そんなワテクシを視姦してくんの、やめてください。まるで観察、いや監視されてるみたいだぞ。


「あ、いや……な、何でもございません……ホッ、ホホのホッ、きょ、今日の朝食も大変美味でございましゅるぅ……ズッ、ズズズー」

「うふふ、まだまだ沢山ありますから良かったら良くなくてもお代わりして下さいね。良かったら絶対に残さず綺麗に食べろ食べて下さいね」

「健にぃ、何でそんな麻呂みたいな口調なの? 変なの」


おかしい。絶対にこれはおかしいぞ。

呑気にマイペースにモヤッとボールみたいに口にアサリを詰め込んで頬張る幼気なユキちゃんの姿を尻目に見ながら俺はこの異常な現象について考えていた。柚香サァンが俺に対して上品に喋るなんて天地がひっくり返って地球が爆発してもあり得ない。と、いうことは……怒ってる?柚香サン、もしかして俺に対して何か怒ってらっしゃる?あれか、先刻のユキちゃんと褌プレイのことか……い、いや、いくら何でも根に持ち過ぎだ。柚香サァンは怒ったら怖いが、結構起こった後は清涼飲料水みたくサッパリしている。だからその件ではないとは思うのだが。


「……あ。セロリ、入ってる……苦いから嫌い。うぇ……健にぃ、あげる」


とぷん、とぷん、とぷん、とぷん。


ユキちゃんは顔をしかめながら、俺の珈琲にセロリを問答無用で投入している。セロリは黒い液体に次々と底なし沼にはまったみたいに沈んでいく……。どうして、目の前の幼女は俺の飲み物を瞬く間にゴミに変換するのがお好きなのですかね。赤ん坊が特に意味なく本能に赴くままに今は懐かしVHSデッキにありとあらゆるモノというモノを詰めたり、成人男性が本能に赴くままにいつの間にかPCの前で己の愚息を握っていたり、そんな感じなのですかね。


「ねえ、ケンくん。このアサリ……お姉ちゃんの大事なお豆に似てるよね……えっ、あっ。そんな、ケンくん……い、いやらしいよぅ」


姉貴は箸でアサリを掴み、恋人を見つめるような乙女の表情で独り言をツイートしている。

何にも言ってないのに勝手に本人の目の前で脳内で会話するのやめてもらえませんかね。最近、こいつ貝を見るとこんなんばっか言ってるな、近年稀にみられない病気だろ。集中治療室にぶち込んで一生閉じ込めておく必要があるぞ。


「あっ、あぁ……今、お姉ちゃんのお豆がケン君の上のお口に入りました……はあはあ、やぁん……そ、そして……ひと噛み、ふた噛み、甘噛みぃ……じっくりと、ゆっくりと、いやらしく、そして優しくケンくんの乳歯がお姉ちゃんのお豆をかみ砕いていきます……ほっほんとにやぁだぁ……そ、そしてお姉ちゃんのお豆は噛み砕き、舐られ、凌辱されながら、ケンくんのポンポンに……はいっ、ただ今、お姉ちゃんのお豆はケンくんに美味しく頂かれました!」

「実況するな!! 壊れた九官鳥みたくお豆お豆連呼してんじゃねえぞ!! しまいに捌いて焼き鳥にしたろかおどれ!?」

「や、焼き鳥……お、お姉ちゃんの胸肉かヒップ肉、もしくはモモ肉をご所望します……末永くよろしくお願いします……はあはあ」


……。

ホントにクスリでもキメてんじゃねえのかなこの方。


「うーん! やっぱ、柚の料理はおいしいねぇ。久しぶりに自分以外の手料理食べたから特にそう感じるなー」


そして凪咲さんはこのアサリ地獄を特に気にすることなく、パクパクと掃除機のように柚香の料理を口にしている。柚香が和食料理長とするならば、凪咲さんはインド料理長といったところかな。そして、俺とユキは食べる専門、姉貴は生ゴミ料理長である。


「あれ? 凪咲さんって倫と住んでるんですよね。倫にメシ作ってもらったりとかしないんですか」

「ああー、だめだめ。あの若年寄はジャンクフード至上主義な人だから。ご飯炊いてるのに『凪咲、主食ははんばぁがぁ一択だろ』とかトチ狂ったこと言う人だからさー。あはは、そんな味覚障害な人に料理任せられないよー」


凪咲さんは手をひらひらと振りながら、まるで人事のようにぶっちゃける。

そ、そうか……ボロクソに言ってるな凪咲さん。しかし、あの堅物が服を着て歩いているような人がジャンクフード好きとは意外だな。いや、姿的にはロリなのでそのまんまなのだが。性格的に意外という意味だが……まあ、メシに性格とかこれっぽっちも関係ないのだが。


「それよりさ、ケン。今日の伊藤おっぱいちゃんとのデートの事なんだけれど」


カランッ(何か金属的なものが落ちる音)

どんっ(床ドン)


凪咲さんがふとそんな台詞を吐くとリビングの空気が忽ち変化した。

えっ……なんすか、今のポルターガイスト。


「ちょっ、な、凪咲さん! い、今、この場でこのタイミングで何もそんなこと言わなくても……! あ、あと、おっぱいを勝手にフルネームに組み込まないであげてねっ!? 彼女の本名は伊藤環だから!!」

「えぇー、伊藤タマキンちゃん?」

「『ン』いらないっ、いらないよそれ余計!! すっげえ、卑猥な名前になってるからやめて差し上げて!!」

「……健にぃ、デートって何?」


俺と凪咲さんが会話していると横からユキちゃんが割り込んできた。

生セロリを右手に携えて……そ、そのセロリでナニをするつもりなのですかね。俺は何故か菊門がむず痒くなった。


「えーっと、デートってのはね。お互いの身体の相性を確かめ合う前戯みたいなものかな。これが合えば、オールオッケーってことで。そこからは入れたり差し込んだり出したりヘッコンだり」

「生々しすぎぃ!! やめてっ、ま、間違ってはいないけれど!! こちらの幼女にそんなアダルト向けな会話はかわいそすぎるからやめたげてよぉ!!」

「……健にぃ、私は、よ う じ ょ じゃない。健にぃや柚ねぇと一つしか変わらないし、馬鹿にしないで」


ユキちゃんは口に含むエサの分量を間違えた錦鯉のように頬を膨らませて、縋るように俺の胸元の服を掴む。しかし、ユキちゃんはとっても分かりやすいなあ……語調、表情で今、ユキがどういう状態なのか一目瞭然で分かる。そして、何気なく俺は柚香サァンを恐る恐る見る。


「…………」


笑顔で、まだ頬杖をついて俺を見つめている。

……よ、読めんっ。ていうか、怖い!!笑顔の奥でナニを考えているのか、全然分かんねぇ!!


「でさ、ケン。親戚の女の子の誕生日プレゼント選びって名目で誘ったよね。それ、私にしといてよ」

「はっ、はあ!? な、何でだよ……」

「フェラ●モのバッグでいいからねっ!」

「お前の私欲かよっ、知らんわっ、帰れ!!」

「あっ、ごめんごめん。ケンにはフェラ●モじゃなくてフ●ラ顔の方がよかったよね」

「やめてあげてっ!! それ発禁!! ファッ●ンだから!! 危険な発言はやめてあげてくださいっ」

「待って!! 健にぃ、凪咲、私を置いて話を進めないで。健にぃデート何て許さない……いや、許されない。け、健にぃは……どっどど童貞だから……童貞が美少女とデートとか生意気」

「何それ反対する理由が酷すぎないっユキちゃん!?」

「ああーっ、なるほどー。ほー、ユッキーは筆下ろしがしたいってことなんだね……ケンと」

「……っ!? し、ししししらないっ、けけけ健にぃの若ハゲッ!!」


ユキは俺に暴言を吐いて、真っ赤な顔してリビングから飛び出していった。

……だ、誰が若ハゲだよ。は、はげとらんわぁ……俺は毛を労わりながら心の中で泣いていた。


「元気出しなよ、ケン。ケンは禿てないから……股間以外は」

「は、生えとるわいっ、もっさもさじゃいっ、ホンマいい加減にせえよっ貴方!?」

「…………」

「はっ、背中から何か殺気を感じ……ゆ、柚香さん……あの、これはその……」


俺は静かにたたずんでいる柚香に向かって何故か言い訳を考えている。

別に柚香に断って言い訳する必要はないのだが、身体は恐れ感じて縮こまってしまっている。その己の姿はまさしく『蛇に睨まれた蛙』そのものである。


「……はあ。何よ、その情けない顔は……勝手にしなさいよ。帰るわ……」


柚香は溜息を吐き、エプロンを脱いでリビングから出て行く。

い、いつもの柚香に戻った……か?しかし、その見損なったよプゥンみたいな態度は何だよ……納得いかんぞ。納得いかんから今度会った時、貴様に思いっきりとびっきりの浣腸してやるっ……十年後になっ。


「まっ、あんまり考え過ぎずに気軽に楽しんできなよ。隙あらば、押し倒してしっぽり一発やってやるぜげへへ、みたいな考え方で」

「全然気軽じゃねえだろそれ!! もはや犯罪者の思考だっ!!」

「犯罪者は至高だ……? おー、ケンはヤル気まんまんだねー」

「字が違うっ、って……今度は変なピンク色の殺気……っ!?」


背後に嫌なオーラを感じた俺は振り返る。

そこにいたのは戦国武将のコスプレを身に纏った姉貴だった。左手に電動のこぎり、右手に鉈、そして鎧兜に藁人形を数百体装着している。そして心なしか目が赤く何やら瞳がギラギラしているようにも見える。こんなキチ●イな姿で街中に出れば一発で豚箱行き確定だろう。


「……松阪夢。伊藤氏殲滅を目標に戦線に赴きつかまつり早漏!!」

「早漏じゃねえよ!! くたばれっ、クソ姉貴!!」


そして、危険な姉貴を縄で縛ったのは言うまでもない。

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