『我のプライベート用のアへ顔写真が集合写真の欠席者用の写真に無断使用されて悲惨すぎる』(byグラサンの人)
「はあ、はあ、はあ、はあ、ごっ、ごくりっ……」
獣の様な荒い息遣いと顔に降りかかる生暖かい息にキモさを感じ、目が覚めた。
そして、下腹部に微かな抵抗感──布きれの摩擦感とでも言えばいいのだろうか。
其れを肌で感じ取った俺は瞼をくわっと見開いた。最初に視界に入ったのはお天道様の優しくない紫外線攻撃に開けた青空。そして、俺は違和感を感じた己の逞しくない貧相なハンサムボディに視線を移す。
「……あっ」
俺の下腹部を覆い隠す水着に手を掛け、今にも擦り下ろそうとする黒髪ロングの痴女が一匹おりました。あの、ここはお口でサービスしてくれるおぢ様という名のパパ(隠語)が大好物な濡れ場的なキャバレェですか?いきなりの目覚めの一発にあまりにもあんまりな衝撃的シーンを目撃してしまった所為か、ありえない頭のおかしいことを考えてしまった。
「……あ、あのっ。ケンくん、その……これは、違うくてね。お姉ちゃん、違うの……おしめを履かせて、赤ちゃんプレイとかそういうのじゃないの」
俺が無言で目の前の痴女もとい姉貴に死線という名の視線を送っていると、姉貴はわたわたと両手をバタつかせて大人の顔色を窺う子供のような表情で何やら呟き始める。言い訳タイムですかね。あと、とんでもないことをカミングアウトされたような……気のせいですかね。何が違うのかしらんが、今の俺は目の前の人の形をした怪物をとっとと砂浜に埋めてしまいたい心情である。しかし、短気は損気とも言う。何とか黒い感情を抑えて、あえて心の中では冷静を装うことにする。
「そういうのいいから、いったいこれは何のつもりなのですかね、お姉様?」
「その、あのっ……け、ケンくぅん……顔が怖いよ……ううっ、言ってもいいけれど……ま、また……お、怒らない? ぶたない? 性的ないたづらしない……?」
姉貴は己の両手でサッと無駄にどでかいこれまた己の両胸を隠して、今にも泣きそうな表情で俺を見つめている。俺に怒られる前提のその台詞は何なのですかね。今の俺は目の前の人の形をしたサキュパスを馬の糞と一緒に耕して差し上げたい心情です。しかし、我慢だ我慢。短気は婚期、じゃなくて損気とも言う。何とか黒い殺意を抑えて、グッと我慢することにする。
「あの、そういう何時もしてるみたいな言い方止めてもらえませんか? 性的ないたづらとかそういう貴方の頭の中だけの被害妄想もやめてあげてね」
「そ、そう……? じゃ、じゃあ、言うね? あの、あのね……ケンくん、気絶しててその……息をしてないみたいだったから……人工呼吸をしてあげようと思ったの」
「わかった。一万歩譲って姉貴は俺を助けるために介抱しようとしてたんだな、うん、それは理解した。しかし何故、人工呼吸するのに俺の水着に手を掛ける必要があるのですかね」
「えっ。だって、人工呼吸するのに水着はいらないよね?」
「えっ。う、うん、うーん? ……ちょっと、貴方が何を言っているのか分かりませんな。もう一度、言ってもらえませんかね」
「下のお口で人工呼吸するのに水着はいらないよね」
「普通に聞いてんじゃねえっ!! 下品すぎるわ!! 貴方がおかしいのは頭か? 頭だけじゃなくてこの上のお口もおかしいのですかねっ、えぇっ、おい!?」
ぎゅうううううう
「ふえぇえ、ケンくん、いたぁいよう……怒らないって言ったのに……乱暴しないっていったのに……ひどいよぉ……お姉ちゃんの身体が傷物になっちゃうよぅ」
姉貴の頬肉をギュッと抓り、俺はストレス源を睨み付ける。冷静を務めようとする俺の頭が姉貴のキチ○イ発言についていけず、ショートしてしまった。明らかに貴方様が悪いのに、乱暴とかひどいとか傷物とか、あからさまに誤解を受けそうな発言は止めてもらえませんかね。もう少しで実の姉に傷物どころか、汚されそうになった俺の方が可哀想だわ。
「あー、悪いんだ。けんけんが幼気なゆめゆめをえっちにいじめてるー」
「健児。そういう行為は家に帰って両親が寝静まった時間帯を見計らってこそこそとしこしことしなさい。……軽蔑するけれどね」
俺が気絶している間に集合したのか、柚香や紅音さんも呆れるような視線を俺に向けた。あれ、軽蔑する相手を間違えていませんかね貴方達。そこ、そこでめそめそとわざとらしく泣いている頭のおかしな女に向けるべき視線ですよねー、ねー、ねぇえええ。
「あの、貴方達、今の一部始終見てましたよね……?」
「ああ、見てたわよ。あんたが夢さんに汚らしい剥けてないち●ち●を弄ばれそうになった場面ね」
「あの、あの……そういう直接的な行為を恥ずかしげもなく平気な顔して言うのやめてもらえませんかね……」
果たして本当にこの女は女なのでせうか?
何だか哲学的な問答をしてしまったが、柚香サァンという人格を被った……何者かがいるんじゃあないの?例えばありがちだが、背中辺りにファスナーがついてて、下ろすとその中身はあ~らびっくり、ただの干からびたおやぢでしたーとか。もしそれが本当だとしたら衝撃的でショッキングではあるが、そうと思わせるくらい柚香サァンは俺に対して、下ネタ発言が多すぎる。……いや、逆に考えてみよう。柚香サァンが女の子だと仮定する。女の子が男の子に下ネタ…………そ、そうか、もしかしてこいつ。
「柚香。もしかして、お前、俺にホの字なのですぶふぅっ、ふぁいっ、全然違いますよね、はい、暴力は止めましょう、僕達は平和が一番! 戦争反対!」
「そうね、私も平和は大好きだわ。但し、あんた対してだけは戦争も二の足踏まないわね、うふふ」
台詞を言い切る前に、無言で柚香サンに打たれる僕ちゃん。
言葉より先に手が出るタイプでしたね、柚香サン。
「あははは……大丈夫、松阪くん?」
ポリバケツを片手に伊藤も俺の下にやって来た。
ああ、白くて綺麗な生足いいなあ……生足。ブルマでないのが悔やまれるが、伊藤の至高の生足を拝める体操服姿はやっぱり目の保養にとっても素敵である。
「ああ、やっぱ、俺の愛天使伊藤は優しいなあ……思いっきり抱きしめてもいいですか?」
「あ、愛天使? え、えーっと……あはは、ま、松阪君? そ、そういうのは……軽々しく女の子に言っちゃだめなんだよ? 本当に好きな女の子に……とっておくセリフだと思うなあ……」
少し頬を掻きながら、はにかみ、そう言う伊藤。
うーん、なーんかかるーくいなされたような気がするが。本当に好きだから言っているんだけどな。しかし、口だけなら何とでも言える、男なら行動で示さないとな。そして、いつか伊藤を振り向かせてやるんだ……と恋する中学生みたいな台詞をツイートしてみる。
「おー、松阪よ、しょっぱい顔しやがって……元気出せよ、オラ!」
「ういっ!?」
いきなり背中を思いっきり叩かれる俺君。
振り返ると、煙草を咥えたゴリ松先生が笑顔で立っている。……何か、すんげえ機嫌がいいなこの人。パチかお馬さんのレースで勝ったのだろうか。
「いちちち……い、いきなり、なんなんすか……」
「はっはっはっ。なあに、気合注入ってやつだ、じゃあな」
叩くだけ叩いた後、俺の下から離れるゴリ松。
な、何だったんだよ、いったい。自分だけ気持ち良くなったらほなさいなら、ってな感じの人なのだろうか、あの人。
「健児、先刻はすまなかった……」
ゴリ松先生と入れ替わる様に今度は倫が俺の下へとやって来た。
「あ、ああ……別にいいよ、俺も余計なこと言ったし。馬鹿正直は損するって奴かな? ははは」
「……そういうのも、『余計なこと』ってなぜわからんかなあ、お前は……」
「いだっ、いだだだだっ、頭が、頭が、しまるっ、しまるぅううう!!」
倫にアイアンクローでお仕置きされる俺氏。
そして、「はあ、だからお前は……」とか言いながら、倫は俺から離れて行った。……あの、お願いですから言いかけは止めてもらえませんかね。お前は……何なんですかね。とっても、気になるんですけど。
「あっ、健にぃ、いた。何してるの、みんな待ってる、こっち来てー」
両手を思いっきり振って、俺に向かって声を上げる幼馴染ユキ。
ユキの周りには俺のみ知った顔が勢ぞろいしている。クソ姉貴、柚香サァン、愛天使伊藤、紅音さん、磯ヴェ君、倫、ゴリ松先生、その他諸々……。
「あれ、何かグラサン掛けた人いないな?」
「ああ、お腹痛いとかで厠に行ってるわよ。待ってても面倒だし、あいつ抜きで撮っときましょ。集合写真の右上の方にあいつのアへ顔写真でもつけとけば納得するでしょ」
柚香さんは平気な顔して、淡々とそう仰る。
「お前、鬼かよ……そんなもんつけられたら末代までの恥晒しだろ……」
「アイツの存在からして恥なんだからいいでしょ、別に」
……。
そういえば、あいつ『我のテクでアへ顔にしてやる』とかほざいていたな。
可哀想に……まったく、脈がなさそうだぞ。
「はーい、皆ー、集まれー、お前ら撮るぞー」
倫の合図で俺達は集合写真を撮ったのである。




