黒松先生(30)はゴリラとチンピラと優しさを足して、優しさを引いたような方です。
程よい腹心地でクラスの皆の殆どがうとうと気分であろう五限目。
幸いなことに本日は座学という名のお経授業ではなく、保健体育である。
満腹感を解消するのに最適であるし、脳と目が覚めるし、何よりも俺は保健体育が三度の姉貴の便所メシよりも大好物である。……待て、別に保健体育といっても『ほほほっほ~ら、おっおおおぉおぢちゃんの可愛いアニマルを触ってごらん』とかそういうアダルトな保健体育が大好物なのではなく、あくまでアクティブな保健体育だ。
我が校も他所の例に漏れなく男子と女子は別々で体育を行う。
といっても本日はグラウンドで珍しく男女ともに授業を行っているので実質合同授業な感じである。そのお陰様で体操服姿の伊藤の可愛らしい二の腕をマジマジと観察できるという訳でございます……ありがとうございます、ありがとうございます、ご馳走様です。
「よーし、おらっ、男子どもー! ストレッチ的な体操は済んだかぁー!? てぇ抜いて怪我しても知らんぞー!」
色々と多感で敏感なお年頃の俺を含む男根生徒達に向かって、威勢の良い漢バリの声を上げる女が一人。彼女は俺達クラスの男子のゴリラ担当……ではなく保健体育担当の黒松貴理、彼氏いない歴=齢三十の独身ゴリラである。鉄拳制裁が大の大好物の危険ゴリラであり、威風堂堂を絵に描いたような雌ゴリラであり、付和雷同を毛嫌いするゴリラ教師である。
「センセー、センセー、テンテー、我、手は抜かないですけどテンテーで抜いていいですかー?」
「はっはっは。とっても笑えない面白い冗談を言うなこのグラサン、はっ!」
グギィ、ギリギリギリ
「ギュッギュッピィィィ……」
定年間際のピカ●ュウの断末魔みたいな声を上げる一之瀬。そして、周りの男根生徒は「うおぉおおおっ」と感心した声を上げる。一体何に対して感心しているのですかねぇこのおちん●軍団は?馬鹿さ加減にか?幼気で可愛らしい男根生徒にコブラツイストを掛けてくださる教師なんて、日本津々浦々探してもこのゴリ松先生くらいなもんだろう。セクシャル的なキャバクラならそういうイロモノ偽教師はいるかもしれないだろうが。
…………。
今ちょっと、伊藤が無理して俺にコブラツイストかけ、真っ赤な顔して『ふぬぬ……』とか吐きながら、プルプルしてる姿を想像したら興奮しちゃったでござるの巻。
「はぁっ、はあぁっ……ううっ、はぁ……あぁ……」
ゴリラ先生から解放され、ヨロヨロと俺の元に涎を垂れ流しながら這いよって来る一之瀬。……ちょっと顔がふにゃけてて嬉しそうなのと、ちょっとどころか大変に短パンの大事なところが膨らんでいるのと、何故かその大事なところにシミがついているのはきっと俺の幻覚だろう。
「一之瀬、大丈夫か?」
「ああ、松阪よぉ……我は黒松テンテェに愛のストレッチを掛けてもらったぜぇ……」
「俺もこれからお前に愛のストレッチを喰らわせてやろうか? バキバキって」
「いらんっ、いらんわいっ! 男の愛なんぞいらんっ! あと、その擬音がおかしいぞぉ! すね毛がボーボーな野郎と入れ歯を常着してる老婆と邪悪なお毛々が増殖してる十五歳以上の女は興味ありませんっ、只の女の人間には興味ありませんっ、この中に毛がない女、幼女、幼女がいたら我のところに来なさい、以上」
一之瀬は遠い昔何処かで聞いたことがあるようなアニメキャラの様な台詞で自らの性癖をカミングアウトする。何で幼女二回言っちゃったの?
「随分とストライクゾーンが狭いなこのポン毛。そのうち、新聞欄の隅っこの方に地味に登場する羽目になるかもしれんから程々にしとけよ。あとお前、ゴリ松は花の三十路だぞ? ボールどころか明後日の方向にお前の変態ゾーンから外れているが」
「手塚ゾーンみたくいうなっ。ふふん、まあ、我、調教もの大好きなのぢゃ……ぐふっ、ぐへへへ……あの得意気でナマ逝キなあのメス豚の顔を涙やら鼻水やら正体不明の水でぐぢゃぐぢゃにするのが我の夢なのぢゃぁああ……」
「……屈折しすぎでっしゃろお前の趣向。もぉいやだわこの変態ロン毛……今すぐ、お友達やめても宜しいですか?」
「何を言うかぁ松阪ぁっ! お前だって、毎日、頭の中で伊藤しゃんのことをオーラル的に汚してるじゃろぉ~!? 『Oh……オレ、今、伊藤のお口を汚してるヨォ……』的な」
「うっうわぁあああやめろぉおおおおお、お前が伊藤の名前をいうなっ、け、けがれる、汚れちゃうっ、俺の伊藤が穢れちゃうっ」
「……『俺の』っていうあたりお前さんも相当なもんじゃろ。ふんっ、我は伊藤のようなお毛々がジャングルぼっさぼっさな女子には興味ないからなぁ、安心せい」
「……なっ、なぁ!? い、伊藤がジャングルだと!? ぼっさぼさだとぉ!? 馬鹿野郎っー! テメッ、世の中には言って良いことと悪いことがあるのかわかんねーのですかアァン!? 伊藤はなぁ、生まれたての赤ちゃんみたくツルツルピカ丸でなぁ……」
「そうだなァ松阪ぁ、世の中には言って良いことと悪いこととがある……それには同意だぁ」
どす低い声がすぐ近くで聞こえる。
いや、近くというよりこれ背後……振り返るとゴリ松センセが仁王立ちで俺達を睨み付けていた。……あ、やばい、これ、やばいですよ、はい、死にました。
「ま、松……松阪……くん……や、やだ……やだよ……え、えっち……」
伊藤がゴリ松先生の後ろで真っ赤な顔して、胸元を両腕で隠し、泣きそうな瞳で俺を見つめている。
……き。
聞 か れ て た っ ! な に も か も っ !
も、もう……俺、出産しちゃっても……いい、かな……?
何を出産するのって?おしっこぉ……。
「テメーら何、爆弾トークをテメーらのうすぎたねぇちんちんの皮のようにおっぴらげてやがる……ムショにぶち込まれてーのかアァぁん?」
「ご、ゴリ松先生、落ち着いて……」
「そ、そうそう、ゴ里先生おちつくのぢゃ……」
「だ、誰がゴリ松だぁアァぁン!? おそ松みたくいうなゴラァ! ゴ里いうなあゴラァアア! ワザとか!? わざとやってんだろーがてめぇら!! テメーのくっさいおぞ松なアナルタス女王に大人のおもちゃ突っ込まれてぇのかおおぉお!?」
俺とエロ之瀬くんはサイコ状態の黒松先生に胸倉を掴まれ、容赦なく唾と罵声を浴びせられる。え、えと……か、完全にチンピラの所業ですよねテンテ……?あ、あと……片腕で人間一人を掴みあげるなんて……センセ、ちょ~力持ちぃ……(褒め)。
「罰としてテメェーらは授業終わりまで校外周を耐久マラソンだコラァー!!」
……はい、というわけでして。
折角の伊藤の二の腕観察の夢は叶わず。五限はエロ之瀬くんと仲良くマラソンタイムとなりましたとさ。……その後、伊藤には全力で土下座で謝り、カフェラッテを奢りました。当の伊藤は全然、気にしてない様子でしたが。しかし……体育終了後。
「あ、あのね……松阪くん。わ、私の……靴箱に謎の怪文書とこれがあったの」
日本人形の首と例と同じような怪文書を伊藤から渡された。
……うん、あの姉貴は一回どころか一億回、シバいてやろう。




