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短編 三題噺

黒の竜と月の蜜

作者: Win-CL

 この世界ではその昔、空に“月”という星が浮かんでいたらしい。


 その月は、太陽ほどではないものの――

 世界を照らす役割を担っており、人々の暮らしを見守っていたそうだ。


 しかし、この世界は様々な脅威に晒されていた。


 その代表的なものの一つが――

 世界中の荒野から荒野へと飛び回っているという、“黒の竜”である。


 腹を空かせた黒の竜によって、人々は次から次へと食べられ。

 このままでは、数年で絶滅してしまうという所まで追い込まれていた。


 そこで月は、このままではいけないと――

 黒の竜に契約を持ちかけたのだ。


「私に満たされた蜜であなたの空腹を癒しましょう。

 その代わり、地上の生き物を襲うことを止めなさい」


 この世界で、それ以上に美味なものは存在しないという“月の蜜”。


 黒の竜はその契約を迷わず呑んだ。


 それからは、黒の竜は人や動物を襲わず――

 ただ月から零れ落ちる蜜だけを食べるようになる。


 満ち満ちた月から、一ヶ月使ってゆっくりと蜜を吸い上げ。

 そうやって空になった月は、また一ヶ月かけて蜜を満たす。


 空に浮かんでいる月は、こうして満ち欠けを繰り返すようになった。

 しかし、月はある時からこの世界に顔を出さなくなってしまう。


 黒の竜が、月の蜜を誰にも奪われないよう隠してしまったと考える者もいる。

 はたまた、月が耐え切れなくなり、人間を見捨てて逃げたとも。


 今のこの世界では。

 月が出なくなったため、太陽が一日中、空に浮かんでいる。


 当然、地上に夜は訪れなくなった。

 常に照りつける日光の熱さのため――

 動物たちが生きてゆくには、厳しすぎる世界になってしまった。


 更に悪いことは続く。

 月が表れなくなった今、黒の竜が再び人を襲い始めたのだ。


 そして、暮れることもない、明けることのない世界で――

 黒の竜と人は今も争いあっていた。





 ――その少年は、夜の世界に思いを馳せる。


 物語で語られる月に――


 暗い世界を照らす、眩しくも冷たい光に――

 とても興味を持ったから。


 もう一度でいい。

 この世界に顔を出して、夜の世界を照らして欲しかったから。


 子供用の絵本に書いてある、眉唾ものの話だけれど――

 それに縋って、世界中の荒野という荒野を渡り歩いた。


 そして、永い時間をかけて、厳しい暑さに耐えて。


 ――ようやく、昔見た物語に出てきた、黒の竜に会うことができたのだった。


「……なんだ? 人間がわざわざ、この荒野へ何しに来た。

 食糧になりにでも来たのか?」


「――月を返して貰いにだ」


 それを聞くなり、空気が震えるほどの音量で。

 ゲラゲラ笑い出す黒の竜。


 口の端から炎が漏れ出す。


 鼻先を少年に近づけるが――

 少年は目を開けるのも辛そうにしていた。


「月を返して貰いに?

  その台詞を言うのは儂の方だ」


 口を開いて話すだけで――

 熱気が少年の前髪をチリチリと焦がす。


「太陽と手を組んで、儂から月を奪いおって」


 …………


「…………今、なんと言った?」


 ――月を奪われた?


 ――太陽と手を組んで?


「あの“月の蜜”を口にして以来――

 それ以外の物は、とても不味くて食べられたものじゃなくなった」


 黒の竜の虚言ということもある。

 だが、人ひとり襲うのに、いちいちそんな嘘をつくだろうか。


「もともと、食事を必要としていなかったが……。

 どうしても、減るものは減る。空腹になるとイライラしてしまう。

 これはもう、呪いと言ってもいいぐらいだ」


 食事をする必要がないのに、人を襲っていた。

 そのことに、少年は多少の怒りを覚えたが――

 今はその話をするべきではないと堪える。


「それなら……」


 月を取り戻す為に戦っていた、人と竜。

 その原因となる月の消失は、どちらの手によるものでもなかった。


 竜の話が本当だとするならば――

 やらなければいけないことは一つだろう。


「俺と一緒に――

 月を取り戻さないか」


 手がかりもなにもないけれど。


 人と竜の争いを止めて、この世界に夜を取り戻す。


 そんな、荒唐無稽な目的の旅が――

 この一言から始まった。


続きません(大声)。

少なくとも今は、ですが。


リハビリ三題噺第九弾

[月] [竜・ドラゴン] [蜜]


お題を見たときには、

童話でいけるかなー、とも思ったのですが。

ドラゴン出ちゃったらねぇ……。


前半だけで纏められたらよかったのですが、

結局、『物語の中でのおとぎ話』みたいな、

そんな扱いになっちゃいました。


始まりと終わりは、パッと思いついたけど、

道中はどうすんの?って、

少し長い話を書くときのあるある。


なので、道中の話が浮かんだら、

連載で上げ直すかもしれません。



※2015/12/31 更新

タイトル変更しました


三題噺 [月] [竜・ドラゴン] [蜜]

黒の竜と月の蜜


まぁ、シンプルに。

『月の蜜』は、このお話で強調したい部分なので、

妥当なところなのではないでしょうか。



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― 新着の感想 ―
[一言]  新着から興味を持ち、覗かせていただきました。  月の満ち欠けを『蜜が滴り、それを飲み干し、欠け、また蜜が湧き、満ちる』とした発想。とても素敵でした。  きっとこの世界では、幻想的な夜が広が…
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