館の双子
大きな街の外れに、屋敷が一つあった。
その屋敷は大きい。
確かに大きいのだが、同じくらい大きな屋敷など他に幾らでもあった。
不気味な様相だった。
まさに山の裾野にポツリと建つ様は不気味ではあったが、越えて不気味な屋敷など幾らでもあった。
だが、この屋敷は街の男達の中で群を抜いて名が通っていた。
『双子の館』
街の中でその言葉を呟けば、必ず誰かが振り返る。振り返った者は駆け寄ってきてこう聞いてくるのだ。
「おまえは、招かれた事があるのか」
街の男達の目は、ドブネズミのそれに似ていた。
ある秋の夕暮れ時、一人の若者が屋敷に招かれた。
その若者は街では少し有名な、靴磨きだった。小さな村の出の若者の身なりは悪く、言葉も少し訛っている。
だが、愛想があった。その愛想で他の靴磨きよりも少しだけ多くの仕事を貰っていた。
若者の目の前で、屋敷の門が開く。
今まで通ったことのない大きさの門を前に、若者は背中を丸くする。
「ようこそいらっしゃいました」
門を開けたのは一人のメイドだった。無表情に視線を落としている。
メイドは若者が言葉を返すのを待たずに屋敷の奥に進んでいった。若者は小走りにその背中を追った。
若者は屋敷の中に姿を消す。
日はまだ沈みきっていない。濃い橙を空に噴出していた。
しかし、屋敷の中にその色は入り込めない。
若者は、一つの薄暗い部屋の中で椅子に座らされ、後ろ手に縛られた。
それを見つめるのは二人の少女。
二人は同じ質素なドレスを纏い、同じ顔をして、同じ声で言った。
「今日は、ようこそいらっしゃいました」
しかし、一つだけ違うところがあった。
二人の髪の色だ。
片方は輝く黄金の髪、片方は艶を放つ漆黒の髪だった。
「それでは……」
唐突に黒髪の少女は言って、ドレスを脱いだ。
滑り落ちた絹の中から現れたのは、幼い女の裸。
若者はその体を見入る。膨らみ始めたばかりの乳房、なだらかな丘を窪ませる臍、そして薄毛に隠れた股。
若者は自分の胸に汗が滲むのを感じた。
小女の身体とは、こんなにもつぶらなものだったのか。熟れを知らぬ身体は硬さを残している。それが揺れる蝋燭の火に照らされて魚のように蠢く。その淫猥さ。
黒髪の少女はゆっくりと若者に近づく。若者はより克明に見える少女の裸を見回す。
しかし、そこで若者は別のものに目を奪われた。
それは黒髪の少女の乳房の先が若者の唇に触れようとした時。黒髪の少女の首筋の先に見えた。
金髪の少女は穢れない笑顔で、ただじっとこちらを見ていた。
「私の身体に、触れたいですか」
黒髪の少女は若者の耳に吐息を当てながら言う。若者は答えない。
「私の身体は今宵あなたのもの」
黒髪の少女は若者の胸に爪を立てた。服の上から掻かれているはずなのに、皮を裂かれる様な痛みを若者は感じた。
「望むならこの先永遠に」
若者の耳に少女とは思えぬ張り付くような声が流れ込んできた。それはまるで醜悪な老婆を思わせるような音。
「さぁ、私を汚して!」
黒髪の少女の余りにも大きな舌が若者の耳の中に入り込んでくる。
漸く若者は言葉を返した。
「彼女が泣いている理由を聞いてからでなくては答えられません」
若者がそういうと黒髪の少女は若者の首に噛み付いた。若者はそこで気を失ってしまった。
この屋敷には昔、美しい少女が住んでいた。少女は、美しい黄金の髪を靡かせていた。
若者が目を覚ましたのは、屋敷の外だった。若者の首には、野犬にでも噛まれたような後がくっきりと残っていた。
数日して、街から『双子の館』の話は消えた。