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令嬢と婚約者殿③旅の目的

 さて、あれから再び時は流れ勇者御一行が王都をたってから早くも四ヶ月。エリアーデが聞いたところによると、勇者たちは魔王に狙われている六聖女と呼ばれる六人の乙女のうち四人までを加護にいれることに成功したらしい。

 彼らの旅の目的は魔王討伐がメインというわけではなく、その六聖女の一人、我が王国で最も――エリアーデ以上に――尊き姫君、ベアトリス・フォン・ベックフォードの奪還にある。彼女が魔王にさらわれたからこそ『魔王討伐』という目的が出来上がったのであってメインはそこにない。とはいえ姫をさらうような危険な者を野放しにできるはずもなく、姫を救うあくまでもついで(・・・)に、勇者御一行は魔王討伐の討伐へと向かった。だがここで問題となるのは魔王を討伐するには、勇者たいの力だけでは足りぬということ。エリアーデが調べたところ、過去に魔王討伐を成功させたのは当時の勇者たちではなかった。




 ここででてくるのが『六聖女』である。




 六聖女―――地水火風光闇の六属性の大精霊を使役可能な六人の乙女

 この世界は、エリアーデの前世が喜んだ通り『剣と魔法』の世界である。だが生活がそれらで成り立っているのかと問われると、答えは否。正確には、クロードのような魔術師の使う『魔術』と、それから六聖女の使う『精霊術』とで成り立っている。とはいえよく知らぬものからしたら『魔術』も『精霊術』も同じと思うだろう。実際、エリアーデはその違いをいまいち理解していなかった。―――クロード曰く、魔術は魔力を持った人間が自らの力をもって技を発動させること。例外もあるが、大抵はこれに当てはまる。対して精霊術は精霊に愛された者しか扱うことができない術。魔術師は力の弱いもの(ピン)から強いもの(キリ)まで合わせればそれなりの人数――とは言えその人数もそれほど多くない――がいるが、精霊術師は現在確認されているのは六聖女のみ。力を理解していないものの精霊を使役することが可能なものはもう少しいると言われるが、だがそれでも世界中あわせても二、三人の両の手で足りるほど。つまり、稀少なのである。この話をしたとき、エリアーデが「貴方ほどの力をもった魔術師と稀少な精霊術師を比べたらどちらがより稀少なの?」と尋ねたところ、クロードから返ってきた答えは、後者。

 そもそも力の質が違うらしい。魔術はあったら便利、なくとも生活はないたたなくもないという程度のもの。それに比べ精霊術は、なくなりでもしたら世界が滅ぶと言われている。この世の自然のほとんどが精霊の恩恵であるがゆえのこと。


 そんな精霊術を使える六聖女が魔王の手に落ちたら。それこそ世界は滅ぶだろう。

 だが逆に、六聖女が魔王へ力を向けたら―――結果はおおよそ予想がつく。そんな簡単なものではないのかもしれないが、事実光の聖女(ベアトリス姫)が魔王の手に落ちたところ、世界から光が消えつつある。

 そのため彼ら(勇者御一行)は、世界に光を取り戻すべく、また光の聖女(ベアトリス姫)同様狙われている他の聖女を守るべく旅に出たということである。


 聞いたところによると、王城で筆頭占い師をしているという闇の聖女を含め地水火の三人の聖女を加護にいれたらしい。加護というのは勇者に備わる力らしく、四人をその力で守護しているとのこと。地水火の聖女たちはその力を勇者へと貸すべく旅に同行し、闇の聖女は王城で彼らの旅を支えるべく占いに励んでいるらしい。

 闇の聖女(ディアナ=デューター)ならばそれもありか、とエリアーデは納得し肯いた。あの女の占いは外れることを知らない。彼女の戦場は(世界)ではなく(自分の中)にあるのだろう。




 なかなかすごい旅になっているわね。これではいつ戻れるかわかるはずもないか、とエリアーデは深く息を吐く。


「せめて無事戻ってきてちょうだい」


 最近のエリアーデの望みはただそれだけ。そのとき遠くでガシャンと何かが割れるような音と侍女の慌てた声。何事かと思い立ち上がるも、何を思ったかエリアーデは顔を顰めその場に立ち止まる。

 控えめのノックが扉から聞こえそのままの体制で「構わないわ」と告げると、恐る恐るといった体で青ざめた一人の侍女が入室した。


「何かあったの?」

「も、申し訳ありませんでした!」


 首をかしげもう一度「何かあったの?」と尋ねれば、侍女は震える手であるものをエリアーデに差し出した。


「突然カップが揺れたかと思うとそのまま落ちてしまって……申し訳ございません言い訳にすぎませんね……どのような罰も受ける所存です」

「…………そんな、カップが割れたぐらいで叱ったりなんてしないわよ。ものは壊れるものなんだから。……怪我はない?」


 大丈夫です、と泣きそうな顔をした侍女を下がらせ、その前にその割れたカップを――丁寧にも布で覆われていた――受けとる。




「……嫌な予感しかしないのよね」


 前世の記憶(知識)曰くただの死亡フラグでしかない、割れたクロードのカップを見つめた。

 20150818//行間を修正しました

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