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閑山自撰詩篇

木耳(きくらげ)女房

作者: 竹井閑山

不束(ふつつか)者ですがどうかよろしくお願いします」

世の若い女性が口にしなくなったこの言葉

絶えて久しく耳にしなかったこの言葉を

まさかおいらの女房から聞くとはな


遠く山ん中を散策して

見つけた 崖のにわとこの

木にすずなりに生えた木耳

酒好きのおいらが歓喜して

採り漁っていたそのときに

ふと うしろから声を掛けられ

見ると反対側の枝に

つくねんと腰掛けておった


こんな人っけのないとこに

にわとこの精かいなといぶかしみ

寄ってじろじろ観察したが

湯文字一枚羽織っただけの

娘に怪しいとこはなく

何ともいえずめんこいので

木耳と一緒に籠に入れて

背負って家まで持ち帰った


家に置いてみるとほんとの不束者で

自分の汚れ物を洗濯するほかは

家事を一切しなかった

食い物までこちらが用意せねばならず

しかも肉しか食わんのだ

こりゃえらい手間のかかる女房だ

けれどおいらは手放さなかった

えっ どうしてかって?

そりゃ聞くだけ野暮ってもんよ

子どもに向けたおとぎ話が

R15でどうするね


こうしてしんどいながらも充実した

夫婦生活を送っていたが

ある朝見ると女房の体が

うすく消えかかっておってな

どうしたお前とおろおろ聞いても

布団の上の女房は

首を横に振るばかり

きっとあのにわとこの木に

何かあったに違いない

慌てて出掛けようとすると

「待ってお前さん行かないで」

女房は引き止めようとするが

じっとしててもらちはあかず

何とかしてやりたい一心で家を飛び出した


女房を見つけたにわとこの

木が生えていた辺りには

ショベルカーやらクレーン車やら

数多の重機機材が入り

すっかり整地されていた


ちくしょう おのれの利権のために

人の幸せ奪いやがって

急いで家にとって返すも

すでに女房の姿はなく

あるのは布団の上の湯文字一枚


おいらはとぼとぼと家の外に出

ぼうぜんと天をふり仰いだ

またぞろぼっちになっちまった

さあてこれからどうするね

すると天の合唱がこれに応えた

さあてお前さんどうするね

おいらはしばし考えた

そして不敵に笑ってみせた


なあに これしき へこまんよ

女房にはきっとまたどこかで会える

世話をするのが大変で

少々息が詰まっておったからな

ほとぼりが冷めたころにもういちど

よいめぐりあわせがやってくるさ

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