転生したが無駄なチートを授かることに……4
俺とセレナは、荒れ地でひたすら足を動かし、オークとの鬼ごっこを繰り広げている。
オークは大して速くないが、時間も時間だ。
何もしないと終わる。
では、俺なりに何かしようじゃないか。
「チート発動――スライムボディ!」
発声と共に、スライム状の粘液が俺の体を包んだ。
そして、体の表面はスライムのようにツルツル。
そう、俺はスライム人間になったのだ。
水色っぽくて、気味悪いが……。
俺の姿を見た、セレナの第一発声。
「うわっ、キモいです! ハヤト」
「我慢してくれ……」
俺は後ろ眼で、追ってくるオークを見た。
奴らは、筋肉質で屈強な体を持ち、盾と棍棒を装備している。
革製の防具も装着している。
その数、十体。とてもじゃねぇが、勝てない。
だが、俺とセレナが協力しあえば、何とかなる。
「セレナ、俺が奴らを引き寄せるから、魔法でぶっ飛ばしてくれ」
「で、でも、ハヤトが……」
「大丈夫だ。ちゃんと、策はある」
「そうですか……そうですよね。安心しました! お気を付けて!」
俺は無言で頷いて、返事を返した。
そして、オークの群れへと突っ込んだ。
正直に言うと、策なんてない。
セレナを安心させるための嘘である。
でも、秘策ならある。
「さぁ、来いっ! てめぇらの根性試させてもらっ……」
俺の喋っている間に、オークの棍棒が俺の顔面前、数センチに迫っていた。
ここまで、速かったとは想定出来ず、言葉を失った。
致命傷は避けようと、腕で防御の姿勢をとった。
「フゴオッッ!?」
オークの驚きを示すような声が聞こえた。
そうだろうな……驚いて当然だ。
当てたはずの棍棒が滑り落ちたからな……。
「ハヤト! 大丈夫!?」
「ああ、問題ない」
「フゴッォ、フゴッゴッォ!?」
「何だ? タネを教えてほしいか? いいだろう。まず、俺が使ったチート――スライムボディ。これは、スライム人間になると同時に、ツルツルになるという効果がある。つまり、打撃技は全て滑り落ちてしまうんだよ。すごいだろ?」
俺がわざわざ、剣を使わず腕で防いだその意味……。
それは、この特性を上手く使うため……そんなところだろう。
では、反撃しますか……。
俺は剣を抜き、先ほど、俺に棍棒を叩きつけた奴の腹に、剣を突き刺す。
剣は肉体の中へと侵入し、体内の組織を巻き込み貫通した。
オークは発狂し、その場に倒れ込んだ。
返り血が顔に飛び散った。
拭うことなく、オークの群れに再び突っ込んだ。
次々襲撃に来る、オークの棍棒は俄然、無意味。
それを改めて理解したのか、一部のオークは引き返して行った。
「フッ……俺に恐れて逃げたか……セレナ! 魔法の援護頼む!」
「はいっ、分かりました!」
そう言うと、セレスは杖の真ん中のやや上の部分を握り、こちらに向けた。
そして、一呼吸し、叫んだ。
「フレイム・ストームッッ!!」
セレナの握る杖の前に、炎が出現した。
炎は徐々に規模と、火力を増して、放出された。
風と共に融合し、渦を描いて舞い上がる炎。
飛び散る火の粉は、雨。
吹き荒れる炎は、嵐。
まさに、ストーム。炎の嵐だ。
炎の嵐は、段々と俺に近づ……え?
「ハヤト! そんな所にいたら、巻き込まれるよっ! 速く逃げて!」
「そ、そうか! 嵐だ、嵐。逃げなきゃ!」
俺が立ち去ろうと足を上げた瞬間。
何者かに掴まれた。オークだろう。
その反動で、俺は転倒した。掴まれた足にある手をさかのぼって、犯人の顔を見た。
さきほど、俺に刺されたオークだった。生きてたのか……。
「フゴッフゴッ! フゴゴゴォォォッッ!!(タダでは死なんぞ! 貴様を見連れにして死んでやる!)」
「おい、止めろ!! 離せ! 死にたくねぇ!」
「フゴッフゴッ。フゴッゴッゴォォ。(フッ……共に、地獄のそこにデートだ。さあ、行こう)」
「クッソオオ!! 離せえええ!」
「フッゴッゴッゴッゴッゴ! フゴゴオォ。(ハッハッハ! そんなに照れなくていいんだよ? 俺が優しくしてやんよ。ああ、今夜は盛り上がりそうだ)」
何か、こいつの顔……やらしいなぁ。気持ち悪っ。
って、そんな場合じゃない……。
俺が振り返る頃には、もう寸前まで来ていた。
熱気が感じられ、額には汗……。
「クッソォォォ!! マジで離しやがれ!!」
「フゴゴゴゴォォォォ! ゴッゴッゴ。(おぉ、照れてる顔も最高だぜぇ)」
「なーんちゃって……テヘッ」
「フゴオッ!? (何だ!?)」
「俺は、スライムボディだ。スライムは熱を通さない……つまり、俺は大丈夫だ」
炎の嵐は俺とオークの群れを巻き込み、爆熱した。
燃え盛りながら、空に舞い上がるオーク。
まさに、焼き豚。滑稽だ。
俺は自分の体の異変に気付いた。
何か……俺、空飛んでる? え?
「ハヤトォォォ!!」
セレナが俺の名を呼び、駆け寄った。
そして、大きく口を開き、叫んだ。
「熱は通さなくても、嵐だから、吹き飛ばされるよぉぉぉぉ!!」
「それを、速く言えぇぇぇぇぇ!!」
俺は、熱くはないが、嵐に巻き込まれ。
現在、空へ昇天されてます。
でも、まぁ。依頼完了でいいかな……オーク討伐が目的だったし。
さっさと、ギルドに行って報酬貰おうっと。
すると、俺の脳内に文字が浮かんだ。
念じても無く、ただ必然的に。
――報告――
冒険者レベルが上がりました――Lv2。
チートレベルが上がりました――Lv2。
新しいチートを覚えました。
・精神破壊――相手の精神をぶっ壊して狂わせるが、HPが0になる……あれ?
・激怒プンプンの代償――激怒になってステータスが全てマックスになるが、HPが0になる……あれ?
・暗黒魔波千龍剣舞
――眼にも止まらぬ、華麗な剣舞はまさに千龍。暗黒の魔波が加わって、さらに進化したチート。ヒットすれば、相手に絶命的なダメージを与えるが、HPがゼロになる……あれ?
………………。
これで、分かりました。
チートはとうとう俺を死なせたいそうです……。
オークとハヤトの会話は、両者理解出来てないです。
…………のはず……。