転生したが無駄なチートを授かることに……1
俺は今……青春してる……とでも思いました?
残念、僕は高校を二カ月で中退した、世間で言う。
ヒキコモリさ。
まあ、いいじゃないか。それで人生楽しんでるから。
でもさ……案外、人生って呆気なく終わっちゃう時もあるんだな……。
「ああ、マジでだるいわぁ」
俺は今、真っ暗な部屋の中、それと対照的な光を放つディスプレイをまじまじと見つめながら、無機質なキーボードを打つ音とクリック音を奏でていた。
ネトゲの真っ最中だ。
ちょうど今、パーティを組んでボスにチャレンジしている。
995回目のボス戦に……もちろん全てクリアしている。
そんな大事なゲームタイムの時にケータイの着信音が鳴り響いた。
母さんからの電話だった。
ここで諸君らに教えておこう。
ゲームの時、ママから電話がかかった時どうすれば良いか。
順を持って説明しよう。
電話に出ると……。
「もしもし、〇〇。悪いけど……」と、こんなクソみたいなお手伝いタイムに誘導されてしまう。
これは、お子様がよく引っ掛かる、テクだ。気を付けろ。
正しい選択はこうだ。
………………出なければいい。寝ている雰囲気や外出している空気を匂わせればいい。
さっそく実践してみよう。
チリチリチリーンと、ケータイの着信音が鳴り響く。
俺はそれを、見向きもせずゲームに集中した。
一分近く経ったが、しつこいな。
止まった…………。
皆、俺たちの勝ちだ。
俺たちのゲームタイムは守られた。
ふっふっふ、ざまぁだな、母さん。
悪いが、俺は英雄なんだ。
モンスターを倒し、人々の平和を守り続ける戦士なんだ。
もちろん、ゲーム内の話しだが……。
いづれにしろ、俺は暇じゃない。
暇だからゲームをするんだろ? いや、違うね。
暇を作ってゲームをするんだよ。
さて、無駄な事は考えず、続きっと……。
「チリリン~♪ メールが届きました、ご主人様」
おっと、メールだ。ん? ああ。
メールの着信音は気にするな。
俺はケータイを手に取り、画面を見た。
そこに書いてあったのは……。
「電話出ろやガキ……言っとくけど、お母さん今、あなたのパーティメンバーに居るから」
WOW!! こりゃすげー。
電話しよ……。
俺は母の恐ろしさが身に染みて、電話をかけた。
「もしもし、母さん。ごめんね、さっき大便しててね。出られなかったんだ。それで用件は?」
咄嗟のウソに母さんも納得して、俺に用件を伝えて電話を切った。
その用件は定番のあれだ……。
おつかい。
俺は自宅を出て、半年ぶりに外出した。
太陽の光が異常に眩しく感じた。
瞳孔が半年ぶりの太陽の恵みに悲鳴をあげているみたいだ。
「さっさと、済ませるか……」
俺がそう呟くと、路地の方から男の怒鳴り声が聞こえた。
何事かと、俺は足を急がせ路地に向かった。
路地に入り、そこには一人の少女を襲う、男の姿があった。
少女の年齢は、十二歳前後と推測出来る。
男の方は三十代半ばだろう、そして少女の態度から見ると、父親ではなさそうだ。
どうする……逃げるか? でも、小さな子を見捨てるわけには……。
待てよ、母さんが昔言っていた。
人助けをする時は、そいつを助けた時のメリットがあるか考えろと……。
最低だな。俺の母さん。
でも、メリットならある……。
俺は少女を襲う、男の下へ駆け出した。
クラスで二番程度の足の速さだった実力の俺は、事が起きる前に接近出来た。
「おい、おっさん! その子を離しやがれ!!」
男は俺の声にピクリと反応し、こちらに振り返った。
「ああ? おまえに関係ねーだろ!! 第一に助けるメリットなんか、どこにもねーだろ」
「おまえも母さん思考か……助けるメリットならある!」
「言ってみろよ」
俺は右手に握り拳を作り、右腕を引いた。
「上手くいけば、フラグ立つだろーがっっ!!」
右腕を一気に伸ばした。
拳は男の鼻に激突した。男は悶絶しながら言った。
「ろ、ロリコンかっ。てめぇは!」
「おまえに言われたくねーよ」
不意を突いた一発だったので、意外と応えたらしい。
俺は、怯え、涙を浮かべる少女に近づき言った。
「さあ、もうお帰り。ママが待ってるよ」
「うん。ありがとう! お兄ちゃん! …………危ない!!」
「え……?」
腹に熱い痛み……溢れ出る何か。
体の消化器官から、気持ち悪いモノが溢れてくる。
勢いよく、口から放出された。
赤い、血だった。
「きゃああああっっ!! お兄ちゃん!」
「は、やく……にげ、ろ」
「で、でも……」
「いいから……にげ、ろ、つってんだ……ガキぃ。ぶ、殺され、てーのかっ!」
俺はギロリと少女を睨み、殺気を出した。
少女はそれを感知し、本能的に逃げ出した。
ああ、これでよかったんだな。
カシャンッと、ナイフが落ちた。
そして、さっきの俺を刺した犯人であろう、男も逃げ出した。
腹の痛みは徐々に消えかけたが、代わりに俺の意識が薄れていく。
薄れていく意識の中、俺は少女の後ろ姿を眼に残し、意識を失った。
「おうおう、これはまた、良い死に方をしたもんじゃ……」
声が聞こえる……女の声だ。
「妾も、千年以上生きるが、こんな善人みたことないぞ」
女の声がさっきより大きく聞こえた。
もしかして、生きてるのかと思い、眼を覚ました。
そこは、病院でもさっきの路地でもなかった。
どこまでも、続く。真っ白な地平線……。
「俺……死んだよな……?」
「ああ、お主は確かに死んだ! じゃが、ここは天国でも地獄でもない」
後ろから聞こえた。
振り返ると、褐色の肌に琥珀色の瞳をした女……まあ、可愛い。
女は、俺の視線を感じて言った。
「惚れたか?」
「いや、そんな甘くねーよ」
「そうか、それは残念じゃ。あ、妾は神様じゃ。よろしくの」
「ああ、よろしくって、神様?」
俺は少し驚き、言った。
神様は、「ムフフ」と笑い、両手を腰にあてた。
「で、神様は、俺に何の用だ?」
「おう、お主は素晴らしい事をした。変態の手から、見事少女を救った。理由はあれじゃが、素晴らしい事じゃ。それのご褒美と言うか、敬意を称えて、お主を転生させてやろう」
「転生……。ああ、ラノベとかである。別の世界で生を受ける事か」
俺が言うと、神様は「おおお!!」と感心した素振りをみせた。
「話が速くて助かる、それでの、剣と魔法の世界。つまり、異世界に転生させようと思うのじゃが……お主に何か、授けたいんじゃが、どうじゃ?」
「おおお!! いいねえ! 何くれるんだ!?」
「いや、残念じゃが選ぶことは出来ないんじゃ。このルーレットで決めるのじゃ」
神様が指を指した。
その先には大きなルーレットがあった。
8分の1で区切られていて、いろんなモノが表示されていた。
魔剣や、チート能力。魔法のステータスマックスなど。
「さて、早速決めてくれ。よ~く、狙うんじゃそ!」
「おう、任せろ!」
俺はルーレットの前にでて、赤いボタンに手をかざした。
魔剣が欲しい。魔剣が欲しい。
俺は手に汗を握り、ルーレット盤を見つめた。
そして、ボタンを押した。
ルーレットの針は、ゆっくりと徐々に勢いがなくなって行く。
そのまま行けば、ドンピシャで、魔剣の位置だ!
これはいける!
神様もそう思ったらしく、グッジョブをしてみせた。
よし、夢の異世界ライフだぁぁ!
「ありゃ? 残念じゃのう」
「え?」
「ほれ、よーく見てみ」
俺はルーレット盤に視線をやった。
針は魔剣……ではなく、手前の所で止まった……。
「ああ、クッソォォ! ……まぁいいか。どんなのが手に入るんじゃ?」
「おお、これはすごいのぉ。究極チート詰め合わせじゃそっ!」
「マジか!? これなら……」
「まあ、無駄なチートばっかじゃが……」
ん? 今無駄って聞こえたような……。
気のせいだよな、うん。気のせいだ。
「よし、それじゃあ。転生を始めるぞ、こっちにくるのじゃ」
俺は、神様に言われるがままに、神様の目の前に立った。
身長は俺と一緒ぐらいで、顔との距離が近く、少しドキドキする。
「妾の手にお主の手を合わせるのじゃ」
「おう……」
その瞬間、俺と神様の手の間から、優しい光が生じた。
そして、神様は最後に告げた。
「達者でな、ヒメラギ・ハヤト。元気にしておれよ」
「そっちこそ、チートたくさん貰ったし、ありがとな」
俺の体は、ほとんど光に飲まれ消えかけていた。
そして、完全消失する前に神様が口角を上げ、優しく笑った。
「あれ、無駄なチートじゃがな!」
俺は言い返す、猶予もなく転生された。