キズにはキズテープ
「キズにはキズテープ」
キズテープ持参で探索に出掛けよう。
最初に出会ったのは三辻にちょこんと立っているお地蔵様。
首が折れていたので、キズテープを貼ると、
「よけいなことをするな、バカヤロウ」
と怒鳴られてしまった。
私はしょんぼりとキズテープをもって、探索に出掛ける。
たんぼのなかでカエルが腹をはちきらして虫の息になっていた。
それでキズテープを貼ると、
「死ぬ運命にあるんだ、こんなことになってしまったのは自業自得だから、哀れみはよしてくれ」
と断られた。
私は寂しい気持ちで、キズテープを携え散歩する。
空には黄緑色のバナナボートが浮かび、病んだ部分から血が出ている。
私はそれとばかりにキズテープを貼った。
バナナボートはかんしゃくを起こしてビリビリとキズテープをはがして、私に投げ付けた。
「この傷は勝利の勲章だ! 女々しく手当なんかするな!」
私はキズテープを持て余しながら散歩を続ける。
もう夕暮れて、人影もない。
手折られたひなげしにキズテープを貼ると、
「偽善はよしてください。手折られるのは私共の運命です。それにキズテープって臭いし、私には似合わないわ」
ひなげしたちは合唱しながら私を非難した。
バスの停留所のベンチに座り、私はキズテープを眺めてつぶやいた。
「私のしていることはむだなことなのかしら」
一本足の標示板が言う。
「そんなことはないけれど、運が悪かったただけさ」
夜道にパァッと明るく二つの目玉が浮き出して、ガタゴトと人をいっぱい乗せたバスがやってきた。
都会に揉まれて疲れた顔をしている青年に近づいて、心にキズテープを貼ってあげた。
青年はにっこりと笑って、私と握手すると、夜道のなかに消えていった。
私の心がキズテープなしでもいやされていく。
傷にはキズテープ。
だけど、キズテープよりも気持ちいいことはある。