クオリア
今日は喫茶店に行こうか。
君の手を取って部屋を出る。
君の好きな紅茶と音楽に浸って、他愛のない話をしよう。
今日は晴れのち晴れだってさ。
ほら、彼処に猫がいるよ。
空がとっても高く見えるね。
向かいの席でニコニコ笑う君の手に自分の手を重ねた。
君が好きだよ。
やはり君は笑って、私もとその唇が動いた。
今日は本屋に行こうか。
君の手を取って部屋を出る。
君の好きな作家の新作を探して、ありふれた話をしよう。
この本は人気だったね。
これは何かの賞を取ったんだっけ。
僕はこの作家が好きだったんだ。
隣でニコニコ笑う君の頬に指を這わせた。
君が好きだよ。
やはり君は笑って、私もとその唇が動いた。
今日は散歩に行こうか。
君の手を取って部屋を出る。
君の好きな道を通って、いつものように話をしよう。
すっかり暖かくなったね。
良い天気だ。
何処まで行こうか。
「あら、○○さん。奇遇ね、こんなところで会うなんて」
大家だった。
買い物帰りらしい。
「またお一人なの?たまにはお友達と遊びに行ってらっしゃいよ」
大家は朗らかに笑って、それじゃあね、と去って行った。
僕を見上げてニコニコ笑う君の手を繋いだ。
君が好きだよ。
やはり君は笑って、私もとその唇が動いた。
二人肩を寄せ合って歩く。
誰からも見える場所を、誰からも見えるように。
二人いつまでも一緒にいよう。
君がいれば、僕は生きてゆける。
僕の世界を。
僕だけの世界を。