逃走、そして襲撃
(感づかれたか!)
ケンゴは素早く身を翻すと後を振り返らないようにして家への道を急いだ。
息を切らせて家にたどり着いたケンゴは、途方にくれていた。
「これからどうする……! 理事長の言い様だとすぐに何かしらやってくるだろうが対処しようがない」
そんな時、ポケットの携帯電話が鳴り響く。
(……だれだ?)
ケンゴが恐る恐る電話に出ると、声の主は聞きなれた父親のものだった。
「お、ケンゴか。元気でやってるか? 実は今度珍しく長期休暇が取れたんでな、久々にお前に会いに帰ることにした」
その言葉を聴いてケンゴはほっとしたが同時にどれくらいの期間家に来るのか心配になった。
「帰るって、どれくらい?」
「大体十日ぐらいだが……なんだ? 来ちゃまずいことでもあるのか? じゃあな 来週の日曜からそっち行くから迎え、頼むな」
「あ、ああ」
電話が切れてからケンゴはため息をついた
「狙われてる、なんていえないよなあ……」
その夜はまったく眠れなかったケンゴであったが、予想に反し、次の日、又次の日、と皆が何事にも無関心なこと以外は平和な日々が
過ぎて行った。
そうこうするうちに父親が久しぶりに帰ってくる日曜日になった。
ケンゴは空港まで父親を迎えに行くため、空港直結バスに乗り、国際空港に向かった。
「あ、親父、こっちこっち」
「おお、ケンゴ、久しぶりだな、ちゃんと元気にやってたか?」
「もちろんさ、まあ早く家に行こうよ」
「そうだな、懐かしい家に帰れると思うとわくわくするよ」
しかし、二人が家に帰ると想像を絶する光景が広がっていた。
「おい、ケンゴ。これはどういうことだ?」
彼らの視線の先には、何者かによってぐちゃぐちゃにされた部屋が広がっていた。
(まさか、理事長の手下が? しかし何の目的をもって?)
「これには深いわけがあって……」
ケンゴはこれまでに起こった一部始終を父親に話した。
「そうか、そんなことがあったか……」
「ああ、俺が思うに理事長はシステムとやらを使って生徒たちをマインド・コントロールしたいんだと思うんだ。何とかそれをとめなきゃ
いけない! 俺以外の生徒は全員システムに組み込まれちまってるんだ。こうなったら校外の人間に非公式でもいいから
協力してもらわないと十日たったら俺もシステムに組み込まれてしまうんだ。十日以内に、何とか阻止しないと!」
勢い込んで話すケンゴを父親は手で制して静かにうなずき、こういった。
「じつはな、俺の知り合いに腕利きのトラブルシューターがいるんだ。少し報酬は高くつくがきっちりと仕事をやってくれるやつだ。
ちょうど良く、今この近くに戻ってきているらしい。連絡がつくか判らんがやってみる価値はある」
「親父にそんな知り合いがいたとは初耳だよ。じゃあ連絡は頼んだよ。俺は部屋を片付けるから」
「まかしとけ、マア今日は久しぶりに帰ってきたし、いろいろ話そうじゃないか」
坂口家に珍しく笑い声が響く中、坂口家の目前の道を明らかに怪しいほどの低速で横切って行った黒塗りのベンツには、
誰も気がつかなかった。――