流雲
窓辺に佇む涼しげな横顔。
暑い日差しに緑栄える木々に向けられた優しい視線。
その関心が俺に少しでも向けられたら…と思うと少し胸が苦しい。
晴天に浮かぶ白雲のような髪。
乾いた風にサラサラと揺れ、乱れた前髪が額にかかる。
触れさせてくれと言えば、きっと触れさせてくれるだろうにそれが言えない勇気のない俺。
深く刻まれた頬の皺は、激動の昭和を駆け抜けた証。
涼しく動きやすいからといって、今でも珍しい着流し姿。
はだけた胸元に除く薄い肋骨をみて、高鳴る俺の胸…どうかしているよと自責の念。
始まりは白黒写真だった。
白黒の写真の軍服姿で敬礼する男性。
幼いとき、その写真を見た瞬間に魂がこれだと叫んだ…。
老眼鏡の細い銀縁からチラリと覗く、俺を見上げるときの上目遣い。
不器用な包丁捌きで、林檎を剥いているのを心配してくれている目。
無言のまま、俺の手からペティと林檎を取り上げて、スルスルと器用に剥いてしまう。
なんでもそつなくこなしてしまう綺麗な細い指。これがかつて銃を握っていたのかと疑う。
「卓哉。どうしたんだ? 私の顔になにかついているか?」
「ううん。なんでもないよ」
「フッ。高校生になったというのに、こんな年寄りの所に入り浸ってなにが愉しいのやら」
「そんなことないよ。俺、おじいちゃんのこと…好きだもん」
「そうか」
それは紛れもない告白…
でも、決して報われることのない想い……