第12章 祝福と帰還の宴
◆ 王宮の朝 ― 回復した王子からの召集
翌朝、王都に澄んだ鐘の音が響いた。
セレスティアと三人は宿の玄関で呼び止められる。
「王子殿下より、三名の冒険者と精霊殿を王宮へお招きしたいとのことです」
ミロが目を丸くする。
ガイルは胸に手を当て、背筋を伸ばした。
フィンは静かに眼鏡を押し上げる。
セレスティアの胸の光は、ふるり、と震えた。
「……おうじ……」
その声は、昨日よりもずっと近い。
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◆ 世界樹と一体化した「王宮」へ
王宮は世界樹の根と建物が絡み合い、
室内でありながら森の中のような神秘をまとっていた。
天井からは光の葉が舞い、
壁は根と石が交互に重なり、
どこか懐かしい“森の息”が流れている。
セレスティアは一歩踏み出すたびに、胸が温かくなる。
(……ここ……しってる……
ゆめで……たくさん……みた……)
ガイルが小声で言う。
「迷うな。俺がいる」
ミロが笑う。
「こっちも先に泣きそうだよ……」
フィンが優しく言う。
「大丈夫。王子は君を待っている」
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◆ 王子の玉座 ― 三人への深い感謝
広間に入ると、
エルシオン王子がゆっくり立ち上がった。
昨日よりも血色が良く、
銀青の瞳には確かな意志が宿っていた。
まず最初に、王子は深く頭を下げた。
「……ガイル、フィン、ミロ。
そして……セレスティア。」
三人が驚いて固まる。
「王子、頭をお上げください!」
ガイルの声を遮るように、王子は続けた。
「僕は……眠っている間、
君たちの旅をずっと“夢”で見ていたんだ」
ミロの目が丸くなる。
「えっ……夢で見てたの!?」
フィンも驚いて呟く。
「……だから、あの時の……」
王子はセレスティアを見つめて微笑む。
「君が泣いた日、
笑った日、
仲間と喧嘩して、また仲直りした日……全部」
セレスティアは胸に手を当てる。
「……あなた……みてた……?」
「うん。
君の光が……僕の眠りを照らしてくれていたから」
その言葉に、セレスティアの光は静かに震えた。
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◆ 褒賞式 ― 三人の未来へ
王子は玉座の前まで歩くと、
「ここに、王国を救い、
光の精霊を王宮へ導いた三名の勇士に褒賞を与える!」
と宣言した。
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● ガイル=クレスト
「あなたには……正式に“近衛騎士”の称号を授けます」
ガイルが目を見開く。
「……わたしが……そんな資格……」
「あります。
あなたほど真っ直ぐに守ろうとする者を、僕は知りません」
ガイルの拳が震え、深く頭を垂れた。
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● フィン=アストレイア
「あなたには、“宮廷魔導士”として仕えることを願います」
フィンの息が止まる。
「……僕が……王宮に?」
「知識と冷静さで、仲間を導いたあなたの働き……
僕の眠りの中でも何度も見ていました」
フィンは、静かに微笑んだ。
「光栄です。……王子殿下」
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● ミロ=フェルド
「そして、ミロ。
あなたには“宮廷楽師”の任を。
そして……旅の吟遊詩人として世界へ出てほしい」
「えっ……両方!?」
王子は笑う。
「君の歌は……セレスの光を支え、
仲間を救い、僕の眠りにも届いた。
だから、この旅の伝承を世界に語ってほしい」
ミロの耳と尾がぶわっと立つ。
「……そんな……僕なんかが……」
「君だからこそだよ」
ミロは涙をこらえて頭を下げた。
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◆ セレスティアという“祝福”
最後に王子は、セレスティアの前に立つ。
「……そして、セレスティア」
セレスティアは胸を押さえて見上げた。
「……おうじ……」
エルシオンはゆっくりと手を伸ばした。
「世界樹が……僕の光を失った夜。
代わりに君をこの世界に授けた。
古い誓いの通り、“王家の血を濃くするため”に……」
セレスティアは小さく目を丸くする。
王子は優しく続けた。
「君は……この国の『祝福』そのものだよ」
胸の光が、涙のように温かく揺れた。
(……わたし……
いてもいいんだ……
このくにに……)
ミロが涙ぐむ。
ガイルは誇らしげに頷き、
フィンは静かに微笑んだ。
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◆ 世界樹の祝福と、旅の終わり
王宮の広間に光の花びらが舞い落ちる。
まるで世界樹そのものが、四人と王子を祝福しているようだった。
「セレス。
君が導いてくれたおかげで……僕は生きている」
「……わたしも……
あなたのこえが……
ずっと、おしえてくれた……」
二人の手は触れないまま、
ただ光だけが重なっていく。
恋と呼ぶにはまだ幼く、
けれど誰よりも深い絆の光。
それを三人は暖かく見守っていた。
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◆ ラストシーン
最後にミロが笑った。
「よーし! じゃあ帰ったら、今日のこと歌にしよっか!」
フィンが肩をすくめる。
「早すぎるよ……でも、いい歌になると思う」
ガイルは武器を整えながら言う。
「俺たちの旅は……今日で一区切りだな」
セレスティアは、胸の光をそっと抱きしめた。
「……ありがとう……
みんな……
だいすき……」
世界樹の葉が、
四人と王子の上に静かに落ちる。
それはまるで――
**“ひとつの物語の終わりと、別の物語の始まり”**を告げるかのようだった。
完




