第11章 眠りの王子、ひかりの君と出会う
王都の夜は静かで、風の音だけが淡く響いていた。
セレスティアは宿の窓際で胸に手を当て、
かすかに震える光をじっと見つめていた。
「……だれかが……
わたしを……よんでる……」
その響きは、世界樹で触れたときの
あの優しい“息”と同じものだった。
ミロが心配そうに近寄る。
「セレス……また胸が痛むの?」
「……いたくない……
でも……あったかい……」
ガイルは外の気配を探る。
「光が反応している。
近い……誰かが、確かに近づいている」
フィンは静かに頷いた。
「……王子が、目覚めたんだ」
セレスティアの羽がふるりと震える。
「……おうじ……?」
その瞬間だった。
宿の入口から
“こつ、こつ” と静かな足音が聞こえてきた。
誰かが階段をゆっくり上ってくる。
ミロが身構える。
ガイルは剣に手を添える。
フィンは光魔法の準備を整える。
セレスティアだけが
胸の光に導かれるようにドアを見つめていた。
そして――
“とん” と軽い音とともに、扉が開く。
月明かりを背に、
ひとりの青年が立っていた。
金の髪。
白い肌。
深い青の瞳。
眠りから覚めたばかりのように
柔らかな光を帯びている。
その青年はセレスティアを見つけると、
驚いたように目を見開いた。
そして、震える声で言った。
「……やっと……会えた……」
セレスティアは息を呑む。
胸の光が、
まるで抱きしめられたように温かく脈打つ。
「……あなた……」
青年は一歩、また一歩と近づき、
彼女の前でそっと膝をついた。
「夢の中で……ずっと君を見ていた。
泣いて、笑って……
仲間と歩いて……
僕を……迎えに来てくれたんだね」
セレスティアは震える指先を胸に当てた。
「……あなたが……
ゆめの……こえ……?」
青年は優しく微笑んだ。
「エルシオン。
ルミナリア王国の……眠っていた王子だよ」
ミロとガイルとフィンが
驚きと混乱で固まったまま言葉を失う。
しかし青年はセレスティアから目を離さず、
そっと手を差し出した。
「君が……光の君なんだね」
セレスティアの瞳が揺れる。
王子は続けた。
「ありがとう……
君が触れてくれた瞬間……
僕は目を覚ました」
セレスティアの胸の光が、
涙のように柔らかく揺れた。
(……あぁ……
わたし……
このひとを……ずっと……)
「……わたし……も……
あなたの、こえ……
ずっと……きいてた……」
王子の表情が驚きと喜びに変わる。
「……僕を……呼んでくれていたの……?」
セレスティアはこくりと頷いた。
王子は胸を押さえ、震える声で囁いた。
「じゃあ……
僕たちは……ずっと……繋がっていたんだね」
セレスティアも胸に手を当てる。
「……ひかりが……
おしえてくれた……
あなたの……ところへ……って……」
二人の光が、そっと重なった。
声も、気配も、温度も、
まるで夢で重なっていたあの瞬間そのままに。
ミロは目を潤ませ、
ガイルは静かに剣から手を離し、
フィンは深く息を吐いた。
「……よかったね、セレス……」
「やっと……会えたな……」
「これが……導きの終点……なんだね……」
セレスティアと王子は、
同じ光に包まれるように向き合ったまま動けなかった。
王子はそっと、囁く。
「……もう離れないよ。
君を……迎えにきた」
セレスティアは、
瞳をそっと閉じて答えた。
「……わたしも……
あなたに……あいたかった……」
光がふたりの間に静かに舞い降りた。
こうして——
精霊の少女と眠りの王子は、ついに初めて出会った。




