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第1章 森の精霊セレスティア

昔——

荒れ果てた大地に迷い込んだ“初代王”は、

世界樹に住む“光の精霊”と出会う。


精霊は幼い世界を守るために王へこう言った。


「あなたの心が光を失わない限り、

私は世界樹の加護をあなたの血に宿しましょう。」


王はその手を取り、

精霊と“古い誓い”を交わした。


こうして 精霊の光を宿す王家 が誕生した。


 ◆ 誕生日の王子

 

世界樹の花びらが舞う儀式の間で、

若い王子が静かに目を閉じていた。


エルシオン・ルミナリア王子。


陽光を溶かしたような淡金色の髪。

眠り姫のように白く、柔らかな頬。

長い睫毛の奥には、

未来を映す“銀青色ぎんせいしょくの瞳”。

穏やかな光をまとう、民が愛してやまない少年。


彼はまだ十七歳。

だが、その佇まいはどこか儚く、

どこか“欠けている”ように見えた。


少し伏せた瞳には

誰にも言えない孤独が揺れている。


それでも彼は微笑む。

「大丈夫」と言うように。


 ◆ 儀式の準備

 

 側近がそっと告げる。


「本日、世界樹への感謝の儀……

 始めてよろしいでしょうか、殿下」


エルシオンは静かに頷き、

儀式用の白い外套を羽織った。


この儀式は、王族と世界樹の“古い誓い”を確かめるためのもの。

血の中の光が本当に生きているか、

世界樹が確かめるのだと言われていた。


 儀式の間から続く石畳の道を歩き、

王子は世界樹の根の前に立つ。


巨大な幹は、初代王の時代から変わらないまま

静かに世界を見守っていた。


風が枝を揺らし、光がこぼれる。


「——エルシオン様」


侍従が小さく祈りの言葉を捧げる。


王子は深く息を吸い、

枝に手を伸ばした。


その瞬間——

世界樹が、かすかに脈打つ。


 王子の指先が枝に触れた途端、

淡い光が爆ぜるように広がった。


「っ……!」


侍従たちが息を呑む。


王子の身体の周りで

光が羽のように舞い上がり——


そして、

その光は一斉に世界樹の幹へ吸い込まれた。


エルシオンの“光”が消えるように。


「殿下……!?」


 エルシオンの銀青の瞳が、大きく揺れ、

次の瞬間、力が抜けるように膝をついた。


倒れゆく身体を侍従が慌てて支える。


彼の唇は震え、

かすかに、

かすかに声が漏れた。


「……光の……君……」


誰もその意味を理解できなかった。


だが王子はそのまま

静かに目を閉じて——


深い、深い眠りへと落ちていった。


 ◆ 王子は「眠り姫のベッド」で静かに眠る


その後、王子は

王城の最奥にある“聖光の寝室”へと運ばれた。


白い帳が揺れる、

まるで時が止まったような神聖な部屋。


ここは、

初代王と精霊が誓いを交わした場所の近く——

王家で最も守られた休息の間。


エルシオンは、

世界樹の花を編んだ銀糸の寝衣に包まれ、

真珠色の寝台へそっと寝かされる。


金の髪が枕に広がり、

銀青の瞳は長い睫毛の奥で静かに閉じられたまま。


まるで——

眠り姫のように。


寝室の光が王子の頬を照らし、

漂う光の粒が

ふわり、ふわりと舞い落ちる。


侍従たちは祈りを捧げ、

静かに扉を閉めた。


その静寂の中で、

ただひとつだけ、微かな動きがあった。


王子の唇が、わずかに震える。


「……光の……君……」


しかしその呼び声は

誰にも届かず——


ただ白い帳の向こうへ

消えてゆくだけだった。


 ◆ セレスティアの目覚め


 (精霊が集まり、光の少女が生まれるシーン)


王子が深い眠りへと落ちたその夜。

“聖光の寝室”から遠く離れた森の最奥で、

世界樹がふたたび、かすかに脈打った。


風が止む。

星が瞬きを忘れる。

森全体が耳を澄ませるような静けさ。


その静寂の中心——

世界樹の根元に、ひとつの光が落ちていた。


それは

王子から吸い込まれた“光の残滓ざんし”のようであり、

しかし同時に、

この世界にまだ存在しない“新しい鼓動”でもあった。


やがてその光に気づいた小さな精霊たちが、

ひとり、またひとりと集まり始める。


風の精霊、

水の精霊、

木の葉のように揺れる小さな火の精霊たち。


彼らは光のまわりを円を描くように舞い、

小さな声で囁き合う。


「——めばえる……」

「——ひかりがうまれる……」


世界樹の根が、低く、優しく震えた。


その瞬間。

光がふわりと膨らみ、

まるで花がつぼみをほどくように、

ゆっくりと形を変えていく。


淡い金のひかりが細く伸び、

透明な羽が生まれ、

柔らかな輪郭が生まれ——


やがて、

夜明け前の雫のように静かな息をひとつ。


“セレスティア” が、

世界に生まれ落ちた。


指先ほどの小さな光の姿。

花の朝露よりも儚く、

星の瞬きよりも澄んだ少女。


はじめて開いた瞳は、

世界樹の光を映して揺れていた。


見上げた先、

樹の枝の間からこぼれる光が

どこか遠くへ導くように見える。


その方向に、

セレスティアの胸が

ほんの微かに、でも確かに、

“ざわり” と揺れた。


理由はまだ分からない。


けれど確かに——

その光の奥に、

『誰かが呼んでいる気配』 があった。


セレスティアは

まだ言葉も知らないまま、

小さな身体を震わせて

そっと囁いた。


「……だれ……?」


精霊たちは静かに微笑み、

光の少女を囲んだ。


世界樹の根はもう一度だけ脈打ち、

セレスティアの誕生を祝うように

光の花びらを散らした。


こうして——

王子の眠りと、精霊の目覚めが

ひとつの運命として

ゆっくりと繋がり始めた。


◆ ふたつの光、ひとつの夢


  世界樹の根が静かに脈動するたび、

 どこか遠く離れた“聖光の寝室”でも

 王子の胸がわずかに上下していた。


 深い眠り。

 戻らない意識。

 でも――その奥で、確かに“夢”は続いている。


 暗い水底のような夢の中で、

 王子は誰かを探すように手を伸ばす。


『……光の……君……』


 その声は、

 夜生まれたばかりのセレスティアの胸にも

 ふるりと届いた。


 理由は知らない。

 名前も知らない。

 けれど――


 胸の奥が、王子の声へ

 “ひかりの糸”でそっと結ばれる。


 セレスティアはちいさく震えながら、

 生まれて初めて

 夢を見るように目を閉じた。


「……だれ……?」


 その問いかけは、

 王子の夢の深い場所へ

 かすかに波紋として届いた。


 まだ姿は見えない。

 まだ触れられない。


 それでも、

 二つの光は同じ夢のはし

 そっと触れ合い――


運命の始まり

 が、静かに息をし始めていた。

挿絵(By みてみん)

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