カツ丼で暖を取る
雪のちらつくオフィス街。佐々木は上司である鳥山とコンビニへ向かっていた。
「先輩、なに食べます?」
「肉食いてぇな〜」
「あったけぇ肉、食いたいっすね」
「ああ、寒ぃもんなぁ〜」
途中、ラーメン屋が目に入るが、どう見ても彼らの休憩時間には収まらない行列だったため、予定通りコンビニへ歩く。
「いらっしゃいませ〜」
入店した2人に挨拶をする女性店員。
「⋯⋯ざす」
「ぞす⋯⋯」
それに対して何も返さないのも忍びないので、軽く会釈しながら挨拶の破片のようなもので応えつつレジを通り過ぎる2人。
4分後、買い物を終えた2人は揃って退店した。先に外に出て寒い中突っ立っているのが嫌なのだ。
「ちょっとそれ貸してよ」
「え? これですか?」
鳥山が指さしたのは、佐々木が提げているビニール袋だった。中にはレジで温めてもらったカツ丼が入っている。
「いいですけど⋯⋯」
「代わりにこれ持ってけれ」
「はー」
鳥山はサンドイッチとおにぎりとお茶の入った自分のビニール袋を手渡すと、カツ丼を受け取った。
「あったけー」
ビニール袋越しに、カツ丼を両手で受ける形で運ぶ鳥山。
「そんな持ち方して⋯⋯落とさないでくださいよ?」
「大丈夫大丈夫〜!」
嬉しそうな鳥山。その後も自分だけカツ丼で暖まりながら歩いた。
「先輩、そろそろ返してくださいよ」
「え〜、もうちょっとだけあったまらせてよ」
「もー、俺も寒いんですからね! はやく!」
「でももうそんなあったかくないよ? それでも返す?」
「言ってること矛盾してますよ。あったかくないならなんで持ってるんです?」
「うーん⋯⋯」
「自分のであったまればいいじゃないですか」
「サンドイッチで暖を取れと?」
「だいたいなんでサンドイッチなんですか。肉食べるって言ってませんでした?」
「でもこのミックスサンド、ハム入ってるやつあるよ」
「肉食いてーって言ってた人がミックスサンドのハムで満足するんだ」
「うん。ハムは肉だからな」
「へぇー」
「で、お前はなんでカツ丼? いつも『ここの丼物は上下で分かれてるからなんかヤなんです!』って言ってるのに」
「期限近かったみたいで、100円引きだったですよ」
「あ、そうだったですか」
「おちょくってます?」
「噛んだですか?」
「サンドイッチ、ぎゅってしますよ」
「そんなことしたらカツ丼ぶん投げるよ」
「こんな人の多い場所でそんなこと出来ます? その点俺の『サンドイッチぎゅっ』は誰にも悟られることなく出来ますよ。さあ謝れ」
「ごめんね」
「いいよ」
「なんか、平和だね」
「ですね」
「あったかくて、いいね」
「それは先輩が俺のカツ丼をずっと持ってるからですよ。俺はずっと寒いです。冷たいサンドイッチとおにぎりと2Lのお茶の入った袋ぶら下げて。指の血止まりそうですよ」
「ね」
ぎゅっ