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第三章 聖女セリス3

 周囲の警戒は怠らなかった。だが守るべき対象であるリアがこちらを欺くとは想定外だった。無人の女子トイレから飛び出して桜井は即座に自身のスマホをタップした。


 リアが携帯しているスマホ。その端末に搭載されたGPSの位置情報を確認する。リア本人はGPSの位置情報をこちらが参照できることを知らない。反発するのが目に見えているため話していないのだ。桜井は不慣れな地図アプリを懸命に操作して――


 主たる少女の居場所を特定した。


「私は万が一に備えて駐車場から車を回してきます。桜井さんは――」


 冷静なルーカスに桜井もまた動揺を抑えつつ「分かっています」と口早に言う。


「私は一足先にリア様の元に向かいます。走れば五分で到着できる距離です」


「ただの悪戯かも知れませんが、桜井さんも十分に注意してください」


 ルーカスに頷いて桜井は喫茶店を飛び出した。彼女の右手には決して手放すことのない武器――黒塗りの鞘に納められた刀が握られている。聖女の後継者たる少女。彼女を守るための騎士たる証。桜井は全身の筋肉を躍動させて主の元へと走った。


 GPSの位置は頭にインプット済みだ。大通りから狭い路地へと入り、複雑に入り組んだ道をひたすら突き進む。時間にして四分弱。桜井は目的地に到着した。


 文字の掠れた看板を掲げている古びた喫茶店。珈琲王国。店内は薄暗く営業しているようには見えない。観察もほどほどに桜井は窓から店内を覗き込んだ。窓がくすんで視界が悪い。だがそれでも桜井は見つけた。窓際のテーブルにうつ伏せに倒れている――


 自身の主である少女の姿を。


 少女を視界に収めた時にはすでに体が動いている。喫茶店の入口には向かわず一直線に建物の窓へと向かう。少女の姿が映されている窓。その隣の窓へと駆け寄り――


 桜井は躊躇なくその窓を蹴り破った。


 派手な音を鳴らして破砕する窓。飛び散ったガラスの破片が桜井の頬を切りつける。だがそのような些末は気にしない。桜井は無人のテーブルにダンッと着地して――


 黒塗りの鞘から刀を抜刀した。


「あら、思ったより早かったわね」


 状況にそぐわない穏やかな声。桜井は聞こえてきた声に刀を突きつけた。テーブルに倒れている少女。リア・ホルトハウス・ヴァーゲ。その彼女を挟んで向かいの席にいる女性。リアと同年代の少女。ネットで何度か見たことがある。


 聖女と呼ばれているセリスだ。


「こちらの勘違いでないかをまず確認する」


 身動きのないリアに一瞬息が止まるも、少女の肩が動いていることに気付いてすぐ安堵する。ただ眠っているだけのようだ。主の無事を確認して桜井はセリスに告げた。


「私たちを撒いたのはリア様の意志か。それともお前の指示か。もしリア様が独断でした悪戯であればこの無礼を詫びよう」


「私の指示かと聞かれれば難しいところね」


 刀を突きつけられている異常事態。だといのにセリスに動揺の気配はない。ティータイムを楽しむようにセリスの表情には穏やかな微笑みが浮かんでいた。


「だけど彼女と二人きりで会いたいと話したのは私よ。そう話をすることで、彼女が貴女たちから離れてくれるだろうことも期待していた。これで答えになったかしら?」


「……十分だ」


 ネットで活動するセリス。彼女が何者であるか。それは分からない。だが主であるリアに害為す存在であることは確かだ。今はそれだけ分かればいい。詳細など後で彼女本人から聞き出せばいいのだから。桜井はそう考えて意識を研ぎ澄ませていく。


「噂には聞いているわ。桜井花奈。聖女の後継者を護衛する優秀な騎士だってね」


 セリスがポツリと呟く。こちらの正体は知られているようだ。だがこの状況において今更動揺などしない。桜井はセリスに向けて一歩足を踏み出そうとして――


「貴女が彼女の傍にいるというのに私が何の対策もしていないとでも?」


 根拠ない直感に従い、急きょ割れた窓ガラスから外に飛び出した。


 この直後、店内のカウンターに隠れていた五人の男が立ち上がり桜井に向けて短機関銃(サブマシンガン)を発砲した。建物の外に飛び出した桜井は即座に窓枠から身を隠す。その一瞬後、無数に放たれた銃弾が窓枠に残されていたガラスを粉々に砕いた。


「――くそ!」


 間髪入れずに放たれる銃弾。桜井は銃声の僅かな間隙を突いて窓枠から顔を覗かせ店内の様子を確認した。眠っているリアを腕に抱えた男がセリスと一緒に店内の奥へと歩いていく。店の裏口からリアを連れ去るつもりだろう。頬を掠めた銃弾に桜井は慌てて窓枠の下に頭を引っ込めつつも思案する。


(――どうする!?)


 思考を高速回転させる。店の裏口に先回りするか。だが土地勘のないこの場所で裏に回り込める道を簡単に見つけられるか怪しい。そもそも裏に回り込んだところで銃を手にした連中もまたついてくるだけだ。それでは状況が変わらない。だとすれば――


(強行突破だ!)


 桜井は窓枠の下に身を隠しながら右手に握りしめた黒塗りの鞘を意識する。窓枠の外にいるこちらの動きを敵は把握できない。桜井は慎重に呼吸を整えると――


 鞘を鋭く投擲して二つ隣の窓ガラスを打ち抜いた。


 窓ガラスが割れる音が鳴り響いてすぐ桜井は隠れていた窓枠から躍り出る。カウンターにいた四人の男――一人はセリスと一緒に先程店の裏口に向かった――が、ガラスの割れた二つ隣りの窓に視線を向けていた。気を逸らすことができたのは一瞬。だがそれで構わない。男たちの銃口が再び向けられるよりも早く窓枠を全力で蹴り――


 桜井は店の天井付近まで跳躍した。


 桜井の人間離れした跳躍力。虚を突かれた男たちがその銃口を迷わせる。窓枠からカウンター内まで五メートル強。それを助走もなく跳び越えて――


 桜井はカウンター内の一番左端にいた男を刀で斬りつけた。


「――がっ!?」


 一太刀で銃と男を切り裂く。袈裟懸けに斬られて崩れ落ちる男。内臓に達する傷ではないため致命傷にはならない。だがもはや動くことはできないはずだ。仲間を倒されて動揺する他の男たち。だがすぐ我に返ったのか彼らが一斉に銃を構えた。


(――まず一人目)


 狭いカウンター内で縦一列に並んだ男たち。目の前にいる仲間が邪魔で容易に銃を発砲できないはずだ。桜井は手前の男に接近して両足の筋線維を切断、それと同時に刀を振り上げて銃を切り裂いた。男が悲鳴を上げて前のめりに倒れる。


(――二人目)


 前のめりに倒れた男を盾にしながら桜井はさらに疾走、後方にいる男に接近してその両手の指を二本ずつ切り落とした。指を失くした男の手から呆気なく銃が滑り落ちる。


(――三人目)


 桜井は体を跳ね上げて指を失くした男を蹴りつけた。蹴られた男が後方にいる男と衝突。仲間をぶつけられた男が体勢を崩して明後日の方向に銃を乱射する。桜井は大きく踏み込んで銃を乱射した男に接近、素早く刀を走らせて銃と男の脇腹を切り裂いた。


(――これで四人目!)


 店内の男たちを全て始末すると、桜井はカウンターを跳び越えて店の奥へと進んだ。リアを連れ去ったセリスたちは店の裏口から逃げるはずだ。桜井はそれらしい扉を見つけるとその扉まで駆け寄り躊躇なく蹴破った。


 扉を抜けて店の裏側へと出る。横幅が二メートルほどの狭い路地。桜井は左右に視線を巡らせて路地の奥を確認した。そして桜井は発見する。路地の先に見える大通り。そこに停車された黒い車。その車に運ばれる――


 自身の主たるリアの姿を。


「――待て、貴様ら!」


 桜井は声を荒げて車へと駆けた。車との距離は三十メートル弱。リアを車に詰め込んで車を発進させるのに最低十秒は必要のはず。十分間に合う距離だ。桜井は冷静にそう分析した。そして車との距離が残り十メートルを切ったその時――


 桜井の頭上にひとつ影が落ちる。


 桜井は反射的に後退した。頭上から振り下ろされた刃が桜井の鼻先を掠める。危険を回避して正面を睨みつける桜井。彼女の目の前にいつの間にか一人の男が立っていた。


 黒髪を逆立てた長身の男だ。眉のない鋭利な瞳。顔中につけられたピアス。裸の上半身に黒革のジャケットを羽織っており、右手に握ったナイフをユラユラと揺らしている。


「いい反応するじゃねえかよ、おっぱいのデカい姉ちゃんよ」


 髪を逆立てた男が下卑た笑みを浮かべる。胸がなまじ大きいと異性から好色の視線を向けられることも少なくない。眼前の男からもそれと近い気配を感じた。欲望にまみれた粘り気のある視線。だが男のそれはこれまで感じたものと明確に異なる。こちらの全身を舐めるように観察する男の視線。そこから感じる男の欲望とは――


 殺意を孕んだ狂気である。


「銃を相手に刀一本で突破したか? 噂には聞いていたが大した腕じゃねえか。堪らねえな。クヒヒヒヒヒヒ。俺ってば興奮してきちまったぜ」


 男は頭上から現れた。恐らく建物の屋上に身を潜めていたのだろう。目的は周囲の監視及び敵の排除。低い建物とはいえ屋上から難なく着地したことから男の身体能力が一般のそれを遥かに上回ることが分かる。焦る気持ちを抑えて状況を整理する桜井。男が不気味に笑みを歪めて彼女にナイフを突きつけた。


「さあ遊ぼうぜ。胸にでかい脂肪をつけたままどれだけ動けるか見てやるよ」


「――っ……どけぇええええ!」


 男の挑発的に桜井は駆けた。男との距離を一瞬に詰めて刀を振るう。並の人間では反応すらできない速度。だがその刀は男のナイフにあっさりと弾かれた。驚愕する桜井に男がナイフを突き出す。桜井は咄嗟に首を捻り男のナイフを回避し――


 ここで桜井の鳩尾に男の爪先が突き刺さった。


「――かはっ!」


 涎を吐きながら桜井は一歩後退する。笑みを浮かべたまま間髪入れず接近する男。桜井は腹の鈍痛を堪えながら男が振るうナイフを懸命に刀で防御した。狭い路地ではリーチのある刀よりも小回りの利くナイフのほうが有利となる。男もそれを理解しているのだろう。桜井の懐に男が躊躇なく足を踏み込んでいく。


 桜井は舌を鳴らすと一旦後方に跳ねて刀を両手に構えた。男が間を空けずに距離を詰めてくる。桜井は腰を落とすと男めがけて刀を突き出した。突きならば道幅など関係ない。刀の先端が男の左肩へと迫る。必殺の一撃。そのはずだった。だがしかし――


 男がその迫りきた刀身をあっさりと左手で掴んで止める。


「急所を外してくれるなんざ優しいねえ」


 男の嘲りに唖然とする桜井。刀を素手で掴むとは彼女にも予想外であった。刀を掴んだ男の手から血が滴り落ちる。だがそのようなこと歯牙にもかけず、男が奇声を上げながらナイフを突き出した。刀を掴まれているため後退して回避できない。桜井は左手を刀から離すと、右足を軸にして体を回転させた。


 男のナイフが桜井の左肩を掠める。桜井はそのまま体を捻じり左足を振り上げた。男の左肘を桜井の左足踵が蹴りつける。男が表情を歪めて掴んでいた刀から手を離した。


 桜井は体勢を立て直すと改めて刀を構えて男を睨み据えた。今になって切られた左肩がズキズキと痛む。痛みを無視して慎重に呼吸を整える桜井。男がクツクツと肩を揺らして血に濡れた自身の左手をべろりと舐めた。


「やってくれるじゃねえか。あやうく指が全部なくなっちまうとこだったぜ?」


 男が気楽にそう話す。痛みなどまるで感じていないようだ。桜井は刀を構えたまま瞳をギリギリと尖らせた。彼女の鋭い視線に睨まれて男が愉悦交じりの笑みを浮かべる。


「クヒヒヒ。上等上等。ゾクゾクするな。さあ続きを始めようぜ」


 男がナイフを構え直す。衰えることのない男の殺気に桜井もまた意識を最大限に集中させた。互いに睨み合うこと数秒。二人が同時に足を踏み出そうとして――


「そこまでにしなさい、ケイジ」


 ここで落ち着いた声が聞こえてきた。


 大通りに止められていた黒い車。その後部座席の窓からセリスが顔を覗かせていた。熾烈な戦いを繰り広げる桜井と男。その二人を冷めた目で眺めつつセリスが言う。


「足止めはもう十分。貴方も早く車に乗りなさい。でないと置いていくわよ」


「ああ? 冗談だろオイ。ここまで火が付いてんだぜ。簡単に引けるかよ」


 表情を渋くして返答する男に、セリスが嘆息して車内に顔を引っ込める。


「それなら勝手になさい。でも貴方、アジトの場所なんてろくに覚えてないでしょ? お金もないからタクシーも拾えないでしょうし、どうやって帰るつもりかしら?」


「いや……そう言われちまうとな……」


「分かったら早くしなさい」


 セリスが後部座席の窓を閉める。彼女の言葉に男が「うぎぎぎ」と足をばたつかせる。明らかに不満を見せる男だが、しばらくして諦めたのかガックリと肩を落とした。


「……つうわけだ。テメエとの勝負はお預けってことにしてやるよ」


「……逃がすとでも思っているのか」


 相手にどのような事情があろうと関係ない。騎士として主であるリアを取り戻す。男との距離をジリジリと詰める桜井。戦闘態勢を崩さない彼女に男が肩をすくめる。


「恋しいのは分かるが終いだ。俺だって寂しいんだぜ? まったく――」


 男が右手のナイフを逆手に構えて――


「お互い我儘な聖女には苦労させられるな」


 ナイフを頭上に投擲した。


 桜井はハッと頭上を見上げる。投擲されたナイフが路地の隙間に張られていたロープを切断、そのロープに吊るされていた青いバケツが落下してくる。警戒してバケツから距離を取る桜井。バケツが地面に落下してバシャリと赤い液体を路地にぶちまけた。


「――……これはペンキか?」


「クヒヒヒヒ。驚いた?」


 いつの間にか男が車まで退避している。桜井は自身の失態に歯噛みしながらも車へと走った。だが時すでに遅し。男を乗せた車があと一歩のところで桜井の前から走り去る。


「くそ! ふざけやがって!」


 危険な薬品かと思えばペンキだと? 桜井は苛立ちに歯ぎしりした。だが今はそんなことで腹を立てている場合でもない。どうにかして車を追跡しなければ。そう考えていたところ桜井の横に一台の車が停車した。


「桜井さん! 遅くなり申し訳ありません!」


 車の運転手はルーカスだった。予定通り駐車場から車を回してきたのだろう。桜井は車の助手席に乗り込むと運転席のルーカスに「すみません!」と口早に謝罪した。


「リア様を車で連れ去らわれてしまいました! すぐ後を追ってください!」


「分かりました! 桜井さんはGPSの位置情報で方向を指示してください!」


 ルーカスが車を発進させる。桜井はすぐさまスマホを取り出すとリアのスマホに搭載されたGPSの位置情報を確認した。丸いマークで示された位置情報が大通りをまっすぐ進んでいる。距離はおおよそ五百メートル。追いつけない距離ではない。


「ルーカス先輩。どうして裏口のほうに車を移動させたのですか?」


 位置情報を確認しながら桜井は気になっていた疑問を口にした。ルーカスがちらりと桜井を一瞥して「仕方がありませんでした」とまた正面に視線を戻した。


「リア様のいた喫茶店――珈琲王国は狭い路地の先にありました。車で通るには時間が掛かるため、多少遠回りになりますが大通りに近い裏口に車を回したのです」


「そういうことでしたか。助かりました。あ、その十字路を右に曲がってください」


 桜井の指示により車が右折する。道路の交通量はそれなりで渋滞こそしていないが速度制限を無視して走れるほど空いてもいない。信号も守らなければ事故に巻き込まれるだろう。桜井はそれを理解しながらも停車と発進を繰り返す車に苛立っていた。


(落ち着け……条件は向こうも同じだ)


 GPSの位置情報を確認する限り、セリスの車もまた停車と発進を繰り返している。赤信号に何度か止められているのだろう。少しずつだが互いの距離も縮まっている。今は決して焦らず車の誘導に集中すべきだ。桜井はそう自身に言い聞かせた。


 そして二十分ほど経過する。セリスの車との距離は三百メートルにまで縮まっていた。いつの間にか交通量の少ない道路に出ており、これを機にさらに差を縮めようとルーカスが車を加速させる。だがその時、桜井はセリスたちが運転する車の異変に気付いた。


「ルーカス先輩! リア様を乗せた車が停車しました!」


 大通りから外れた人気のない場所。そこに停車したセリスの車。彼らのアジトに到着したのか。それとも別の理由か。何にせよ桜井はセリスの車まで自身の車を誘導する。


 セリスの車はすぐに見つかった。歩道に乗り上げて停車した黒い車。リアを連れ去られる際に車のナンバープレートも確認しているため間違いない。セリスの車から少し距離を空けてルーカスが車を停車させた。


「……罠でしょうか?」


 桜井の呟きにルーカスが頭を振る。


「分かりません。しかし私たちには引き返すという選択肢はありません」


「……そうですね」


 桜井は覚悟を決めて頷く。助手席のドアを開けて車の外に出る桜井。ルーカスもまた運転席から車の外に出た。そして二人同時にセリスの車へと歩いて近づいていく。


 セリスの車に誰かが乗っていれば桜井たちの存在にはすぐ気付くだろう。だがセリスの車からは何も反応がない。桜井とルーカスは車の真横まで歩いていくと、その場で立ち止まり窓から車内を覗き見た。そして――


「……やられましたね」


 ルーカスが苦い口調でそう呟く。


 車は無人だった。簡単に車内を見渡した限りで荷物などもない。ただ唯一、助手席には一台のスマホが無造作に置かれていた。確認するまでもない。


 GPSが搭載されたリアのスマホだ。


「私たちがGPSで追跡していることに気付いていたのか」


「というより、気付いていたからこそスマホを処分しなかったのでしょうね」


 ルーカスの言葉に桜井は眉をひそめる。ルーカスが助手席の扉を開いて――鍵も開いていた――席に置かれているリアのスマホを手に取った。電源も入ることからスマホが壊れている様子はない。ルーカスが胸ポケットにリアのスマホを入れて嘆息する。


「アジトの場所を絞り込ませないため、リア様のスマホを利用して私たちを誘導したのでしょう。恐らく途中何度かあった停車中にリア様は別の車に乗せ換えられていた。そしてこの車を運転していた人間も役割を終えて車を乗り捨てたのだと思われます」


「……つまり」


 表情を沈める桜井に――


 ルーカスが残酷な事実を告げる。


「私たちはリア様を完全に見失いました」

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