【エピローグ】
「バカ十希ッ!!」
屋上にいづみの怒鳴り声が響いた。十希はいづみのグーを頬に喰らってしまい、よろよろとコンクリートでできた床に倒れこんでいた。
「不味いってどういうことよ!?」
いづみは顔を真っ赤にして怒っている。
「お、お前が正直に言えって言ったから――ぐぁえっ!?」
顔を踏まれた。
「正直にもほどがあるってのよ、この変態バカッ!!」
何故変態と言われなければならないのだ、と十希は反論しようとしたが、状況がアレなだけに上履きの底だけでなくスカートの中まで見えてしまった。
これではもう言い返すことはできまい。
「不毛」
十希といづみが騒いでいるのをそばで傍観しているのは楓だ。
二人はいつから弁当を作ってきてもらうほど仲良くなったのだろうかと首をかしげながら食事をしている。
「明日も作ってくるわっ」
蹴って殴って満足したのか、いづみは肩で息をしながら言ってのける。
「あんたが美味いって言うまで、毎日作ってくるから!」
「美味い! だから殺さないでくれっ」
「どういう意味よ――――――――――――――――ッ!!!」
頭を掴まれ、思いっきり振り回される。頭がくらくらして、思考が定まらない。
「わわわわかった! わかったから手を離してくれぇえええぇえぇ――……」
パッと手を離す。すると重力に逆らわずに十希は後頭部を床に強打して、再び悶絶した。
「わかればいいのよ、わかれば……」
腕を組んでうんうんと首を縦に振る。いづみは随分と満足気な表情を浮かべていた。
これからの日々がどうなるのか、十希にはまだわからない。
だけどこれだけは確信している。
いづみと出逢うことができて、本当に良かったと……。
「転校生を紹介するぞー」
チャイムが鳴り、朝のホームルームが始まった。
担任が教室に入ってくると、季節外れな台詞を口にする。その声を聞いて、クラスメイトたちが前を向いた。
廊下から姿を現した女の子の姿を見た十希は、目が点になった。それを不審に思いながら、いづみは教壇に佇む女の子を見つめる。
「みなさん、初めまして。御剣由良理といいます」
花のように微笑み、教室内を見渡す。
「……あ」
その名前を聞いた瞬間、いづみは思い出した。
御剣由良理。彼女は第一回時の迷宮全国大会の覇者であると同時に、十希の幼なじみだ。
もう一度、横を向く。十希の目は点になったままだ。
十希の視線の先に自分がいない。それが何故か悔しい。
何故だろう、胸の鼓動が高鳴っていくのを感じる。
「十希……」
この時、いづみは初めて自分の想いに気がついた。
敦賀十希が好きだということに――…
(了)