あるま じろうざえもん
毎日に追われる大人になった時、ふと ひらく絵本のページの中の優しさや切なさ。幼かった頃のあなたが、大人のあなたに寄り添ってくれるかもしれません。
人との繋がりが、変化している時代。あなたの隣に居てほしい人は、どんな人ですか。
アルマジロウの
『あるま じろう』は、
穴の中で、一人ぼっちで暮らしています。
外を歩くと村の皆んなが、
「どうしてそんなに大きなツメをしてるの。
怖いから手をひらかないでいてね。」
とか…
「いつもクンクン匂いをかいでいる、
吸い込まれそうだから遠くにいてね。」
とか…
「なんでそんなにカチカチの体なの。
ぶつかったら痛いからそばに来ないで。」
とか、言うのです。
だから『じろう』は、穴の中でいつも一人ぼっちでした。
ー僕に家族は、いるのかな… ー
『じろう』は、思います。
ー僕は、『じろう』 だもの
『いちろう』兄さんと
弟の『さぶろう』が、きっといる
そうだ家族を探しにいこう! ー
でもね『じろう』は、思います。
ーまたジロジロ見られるの、ヤダな… ー
そこで顔も体も、見られないように
三度笠に道中カッパを
着ることにしたんです。
名前も、
『あるま じろうざえもん』
と、変えました。
ーだって
『じろうざえもん』のほうが
強そうでしょ ー
さあ、出発です。
『じろうざえもんのじろう』が
山の近くまで やって来ると、
「助けてー
誰かー、助けてー。」
『いちろう』兄さんだったら、大変です。
『じろうざえもんのじろう』が、急いで走り寄ると
「助けてー。怖いよー。
閉じ込められちゃったよー。」
大変!洞穴の入口が、ふさがっています。
「待っててー。」
『じろうざえもんのじろう』は、大きな爪で
ほって ほって
ほって ほって
やっと 辿り着くと
そこには、鍛冶屋のクマキチが丸太の椅子に座って、
大きな声で、ウワーン、ウワーンと泣いています。
クマキチは泣きながら『じろう』の手をとり、
「ウワーン、ありがとう。ありがとう、ウワーン。」
でも…おや『じろう』の爪が欠けています。
クマキチは、
「ごめんなさい。」
そう言うと、
トンテンカン トンテンカンと、爪をつくって
『じろうざえもんのじろう』の欠けた爪に着けました。
キラキラ光る、とっても綺麗な爪でした。
クマキチにキラキラの爪で手を振って、
『じろうざえもんのじろう』は、旅を続けます。
森まで来ると
あれ、誰かがモソモソしています。
ー『さぶろう』が、困っているのかも ー
『じろうざえもんのじろう』が、走って行くと、
村から村に荷物を運ぶ馬のシュバルが、
「困った、困った、困ったなー。」
そう言いながら
パッパタア パッパタア
不思議な足音で、同じ所を
パッパタア パッパタア
行ったり、来たりしています。
「どうしたの?」
『じろうざえもんのじろう』が、尋ねると
シュバルは、ちょっと泣きそうな顔で、
「テイテツのクギがなくなちゃって、
上手く歩けないんだ。」
薄暗い森で小さなクギを見つけるのは、とっても大変。
『じろうざえもんのじろう』が
地面に鼻をくっつけて、シュバルに言います。
「待ってて。僕に任せて。」
『じろうざえもんのじろう』の小さな目は、
見るのが得意では、ありません。
だからね、クンクン匂いを嗅いで探します。
クンクン クンクン
クンクン クンクン すると
「あったよー。」
『じろうざえもんのじろう』は、見つけたクギを
キラキラの爪で、シュバルのテイテツに
カンカン カンカンとつけてあげました。
「ありがとう。ありがとう。歩くのとっても楽になったよ。」
シュバルはお礼に
『じろうざえもんのじろう』を
森の外れまで背中に乗せてあげました。
シュバルに手を振って、歩いて行くと。
「どうしよう。どうしよう。」
とっても困っている声が、聞こえてきます。
「大変だー。大変だー。」
困っている声は、二人です。
ー今度こそ『いちろう』兄さんと
弟の『さぶろう』が、助けを求めているのかも ー
『じろう』が急いで駆け寄ると
ウサギのおとうさんとおかあさんが、大きな岩の周りを
グルグル グルグル 回っています。
なんという事でしょう。
ウサギの家の前には、大きな岩が!
家の中では、子ウサギ達が、
「怖いよー。怖いよー。」
と、震えて泣いています。
ー大変だ。なんとかしなきゃ ー
『じろうざえもんのじろう』は 大きな岩を見つめ
ーでも、どうしたら、どかせるんだろう…ー
『じろうざえもんのじろう』は
うーん うーんと、考えます。
うーん うーんと考えて、
「そうだ。まかせて。」
そう言うと、岩のすぐ横を大きな爪で
ほって ほって
ほって ほって
すると、あっという間に
大きな岩と同じ、大きな穴が出来上がりました。
そして、ぐるっと反対側に周り
少し高い丘に駆け上がると
「行くよー。」
『じろうざえもんのじろう』は、
まあるく、まあるく、まん丸に丸まって
小さな岩みたいになると
ゴロゴロ ゴロリーン
勢いよく転がって
ドッドーン
大きな岩にぶつかります。
すると
グラ グラリ スッポーン
あら すごい!
岩は、穴に吸い込まれていきました。
ウサギたちは、びっくり
そして、大喜びです。
家から飛び出してきた子うさぎのカローレが
『じろうざえもんのじろう』に飛びついて、
「ありがと。ありがと。
ねえ、僕の、おにいちゃんになって。」
と、言いました。
今度は『じろうざえもんのじろう』が、びっくり、
「僕は、長い鼻をしてるんだよ。」
子うさぎのカローレは、
「僕は、長い耳を持ってるよ。」
『じろうざえもんのじろう』が、
「ぼくは、硬い爪と体なんだよ。」
子うさぎのカローレは、
「だから僕たちを助けてくれたんでしょ。」
『じろうざえもんのじろう』が、
「僕の目は、小さくて近くしか見えないんだ。」
子うさぎのカローレは、
「僕は、ぐるっと見えるから、なんでも見てあげる。
だからね、お兄ちゃんになって。
家族になって。」
『じろうざえもんのじろう』は、
なんだか フワフワ しています。
ー家族になるの?
僕に家族ができるの?ー
フワフワ フワフワ
カローレの体がフワフワだから
『じろう』は、フワフワするのでしょうか
それとも
ー『いちろう』兄さんに会えたら
弟の『さぶろう』に会えたら
やっぱり、フワフワするのかな ー
『じろう』は、手を引かれて
カローレの家に入ります。
温かい家族がいっぱいの
カローレの家に入ります。
そして『じろうざえもんのじろう』は
『あるま じろう』にもどりました。
でもね
『じろう』は、もう一人ぼっちではありません。
『じろう』は、家族と一緒です。
絵を描く事は苦手ですが、短い文章の中に思いを詰め込む絵本作家や児童書の作家に憧れています。
大人も子供も楽しめる絵本になればと『あるま じろうざえもん』を書きました。
楽しんでいただけると嬉しいです。