香港
「着いた着いた着いた!!着いたぞ香港んんんんん!!!!!」
飛行機から飛び出てそう叫んだ涼風は、大きく息を吸い、空気の味を感じた。
「はしゃぎすぎだバカ。ゆっくり行くぞ。」
海外に来た理由は腐って怪物による被害を減らすため。日本は異能の先進国であるが故、他国へ戦力を回す余裕が多少はあるのだ。
ーーといっても香港もまた異能に関して諸々進んだ場所であることも確かだ。街並みを見れば分かるだろう。
「こいつに近づかないでくださいね!危ないんでー!」
早速街中に出現した怪物を処理し、市民たちからの歓声に酔った。そのままご飯を食らい、宿へ行く。
風呂に入ったりなどをして香港時間夜8時頃のことだ。
伊織自作の怪物を探知する機械が反応を示した。
明かりの灯された素晴らしい夜景が広がる香港で人間への憎悪に染まった汚らしい怪物が徘徊をする。
「アルさん!お願いします!!」
「はい!」
気泡の異能を持った香港の異能者。
触れてから集中すれば3秒程で相手を内部から爆ぜさせることが可能になったが…戦闘中なんかは集中できるはずもなく。
ーー手を掲げ、建物の屋上から自分めがけて降りてくる怪物に対抗しようとすると、横から飛んできた人とぶつかって怪物は左へ吹き飛んで行った。
駆け寄ると、そこには知らない顔の人が刀をもって頭部、及び心臓部を破壊していた。
ギロリ、とこちらを向くその人にビクッと体が反応する。その人は俺の見るや否や、グイッと顔を近づけてきて言った。
「貴方!!!もしかすると香港の異能者ですか!!?」
※※※
横でガツガツと飯を食らう、『涼風』という日本人。
その2つ、右隣に何も食わずに飲み物だけ頂いた日本人が2人…。
「警戒心抜群…か。そこまで警戒されても俺、強くないし」
「…そんな事ないですよ?」
「いや、いいんだ。正直言うと…さっきの怪物、俺じゃ無理だったから。やっつけてくれてありがとう」
涼風は少し右隣を見て、やっと警戒心を解いた2人を見て安堵した。
「…変な警戒をしてしまってすいませんでした。気分を悪くしたなら、これも何かのご縁ですしご馳走を」
「いやいや〜いいよそんなの。それだけ先進国な日本には危ない奴らが居たってことだろう。君たちの警戒は、そう思えば自然な事だ。」
凛月が丁寧そういうが、アルは別にそういうのを求めている訳ではなかった。アルが涼風を見て…呟く。
「ワンタン麺、美味いですか?」
「まじ美味い」
涼風が食したのをきっかけに店を出ると、アルがある話をもちかけた。ちょうど明日、香港の異能者の会議があるため、そこに出席して欲しい。というものだった。
断る理由も無いが、周りにどう思われるかだけが心配だったのだ。
時間帯は恐らく11時。時差により寝坊してしまい会議に遅れて参加した。
扉を開けると、全員の目が涼風達を捉えた。すると、どこからか声が聞こえてきた。
「あん?あんなガキぃ…呼んだん誰よ」
うへぇ見るからにガラの悪いやつって感じ。
「俺です…。彼らは……っっ!!!」
手を挙げて語り出そうとするアルへ、先程喋った男が拳を振り抜こうとする。
「…!」
「いきなり殴るのは飛んだ馬鹿だぞ」
ドア付近に居たはずの凛月は地面を蹴って、拳とアルのあいだへ割り込み、庇った。
「お前…絶対強いだろ?」
「香港の価値観は知らん。」
はっと笑う男は手をプラプラと振ってから敵意、そして殴る気はもう無いことをアピールする。
「なるほどなあアル!!だから連れて来たのかあこいつらを!こいつらがいりゃあワンチャンなんとかなるかもってなあ?!」
アルへ肩を組んで耳元で叫んでいた。その時のアルは少し震えていた。
みんなの前に立っているリーダー的な者へ、伊織が「なんとかなる…とは一体?」と尋ねた。
「この事で集まってくれたみんなにも言いたいんだ!!この人たちにも説明するために最初から言おう!!」
ーーそうして説明が始まった。
「この寬霊組という今、大きい力をつけているヤクザ、こいつらが中国銀行タワーへテロの犯行予告を出してきた。その予告がちょうど明後日なんです。警察とも協力し、異能者は主に外の警戒を強めるという手筈でーーー」
正直、涼風達からすれば後半の説明は聞くに絶えなかった。少し考えればタワー内部へ既に潜んでいるかもしれないと言うことはわかるはず。
だがいくら聞いたって外がどうたらとしか言っていない。
説明が終わり、解散という流れになって誰もいなくなってから言う。
「ねえ凛月、伊織。タワーの中にもう居るよね。ヤクザの関係者」
「まあ…十中八九いるだろうな」
「どうしたもんかね…」
それに明後日だ。もう時間が無いが、まあやれることはやろう。
次の日、リーダーには少しポジションを自由にさせてもらうと言い、伊織は監視カメラを全チェックするところから始まった。
警察が捕らえた寬霊の人員の声を聞き、音声を調節し、その声色を完全再現。
タワー内の放送で、再現した声色を使って隠語の様に寬霊メンバーへ情報を伝えた。
少なからず、タワー内に潜むメンバーは出来る方の奴だろう。なら、それを逆に利用する。簡単な事だ。
12階の東トイレの個室。という警察からの寬霊に関する情報を元に制作した隠語を流し、その場所付近に涼風と凛月を忍ばせる。
「けど、いいのか?無駄に刺激したら急な奇襲を受けるかもって」
「いや、このタワーに勤めてる余分な職員達は今日来ていない筈だ。来ているのは警察との話を進めているお偉いさんがたのみだそうだ。」
ーーすると遠くから足音が聞こえてくる。
トイレに向かい合っている壁に潜んでいる凛月。
寬霊メンバーがトイレに入ろうと背を向けた瞬間、首元へ刀を突きつけた。
「…!!なっ!?」
「動くな。恐怖心には素直に従っほうがいい。しなければどうなるか、言わなくても重々承知のはずだ。」
すると、視界の右でもう1人居た。
拳銃を持っているぽかったが、何かの蹴りに弾かれてその拳銃は飛んでいく。
「っ!こんのっ、クソがきっ!!!」
そんなことを鋭い声で弾むように叫んだ後。
うなじ辺りに思い切りの回し蹴りを食らい、顔面が床へ激突していた。ついでに鼻血も。
ーー縛り上げて香港の異能本部へ連れていくとお叱りを受けながらの褒め言葉を貰った。
「恐らく僕らが流した放送に全員が反応してきた訳では無いので、まだ内部にヤクザの関係者が潜んでるかと思います。」
「そうですか。至急、警察に共有しておきます!」
「はい。」
本部を後にして人で賑わっている道を歩く。昼間も夜も近未来のように見える街並みに涼風はぞっこんだった。店の横を通る度に窓ガラスに顔をへばりつけて中を覗く。これで3回は怒られた。
ーー凛月達で蔑んでいると…人とぶつかりながら突き飛ばし、何やら焦っている足付きで走っている人を見た。真っ直ぐこちらへ走ってきている人の手元に、光をきらんと反射して見せたナイフが握られていた。
「退けっ!!」
涼風たちの目の前にいるおばちゃんの腹部へナイフが
向けられる。刺される…と凛月は直感で思い、おばあさんを抱えて地面を軽快に蹴って避けた。
右手に握られたナイフを下げる為に、手首を肘で打って地面へ流すように転ばした。
「そのまま抑えとけ涼風!」
「おう!」
「離せっ…!!!」
両手を後ろで組ませてから押さえつけ、じたばたする足を凛月が抑えようと駆け寄ると…道路に止まっている車から反射した光に目がいく。
伊織も同様、銃で狙われているのが異能のコースで分かった。
「!!伊織!」
「わーってるっ!!」
凛月はそう言うと涼風を突き飛ばした。
次の瞬間、バン!と2発の銃弾がこちらへ撃ち込まれた。凛月は今にも走り出そうとしている車へと思い切り振りかぶった拳を喰らわせ、中にいる者を引きずり出す。
「ヤクザの連中で決定だろうな。結構派手なことをしたから狙ってきているのか。気をつけて行こう。」
「うす」
伊織が返事をしてから襲いかかってきた人を捕らえて警察署へまた行く。その道中で、市民からは拍手を貰ってしまった。
♦
宿での1泊。
伊織が無理を言って泊まる部屋を変えてもらって正解だった。変えていなかったら前の部屋に面倒事が運ばれていたのだ。至る所にヤクザに通じている人間が居るらしく、伊織が廊下に仕掛けた小型の監視カメラに俺たちのいた部屋へ押し入っていく者が3人ほど確認された。
「こいつら…多分素人だ」
無心で画面を見ていた伊織が前兆なくぽつりと呟いた。
「どうして?」
「なんつーか、俺しか分からないんだけど…攻撃のルートがずっとモロ出しなんだよ。ずっと」
「ルートって、確か伊織の異能の?」
「そう。日本の奴らがすごすぎて忘れてたけど、殺意による攻撃のルートって異能者とかの中でも常人の方の強さとかなら消しにくいんだよ。薄かったり…逆に濃すぎて丸わかりだったり。東雲とか、神崎さんとか、神楽とか…涼風も凛月ももちろん…ルートが見えないから見えないのが当たり前みたいになっててさ、俺の異能。でもここに来てからそいや見えるんだったって思って、そんだけ。」
「なるほどね。武器とか向けられてる時に、攻撃ルートとかも見えるんだっけ」
「それもあるね。分かりやすく言うなら、レーザーポインター…とかかな。銃とかで使うやつ。あれが半透明の線で見えるんだ。刀とかもそう、刀身の通る道が一瞬見える。その線をなぞって刀が通るんだけど…相手の抜刀がバカ早けりゃぁ…俺の反射神経とのバトルだね。」
ーー2人の世界が広げられている中、涼風がそこはかとなく言いよる。
「一瞬見えた線に反応できるか出来ないかの勝負…って事?」
「そう!」
伊織はぴしっと指を指して肯定する。それに涼風は少し誇らしく感じ、頬に熱を感じた。
「涼風さ、異能の方はどう?」
旅館によく置いてありそうなTバックを使ってお茶を飲んでいる凛月は、コップから愚痴を離して少し息を吸ってから涼風へ問う。
「皆はそんなに知らないと思うけど…炎魔さんが引くほど鍛錬したから!!異能もやる気になればは自分で発動出来るし!」
意味もなく、2人は感銘を受けた。
♦
中国銀行タワーの改装により、大規模の吹き抜けがかなり前に出来上がっていた。
その吹き抜けの上から一方的に見下ろす形で待機する3人。
3人…それぞれをカバーし合える距離感で待機し、何か言いたいことがあれば事前に受け取っておいた片耳通信機でとの事。
そして早速凛月から連絡が飛んでくる。
「性格悪いやつなら予告時刻より早くテロ起こしたりするのか?こういうの」
「予告守るプライドあるなら犯罪すんなよって言ってやりたいけど…まあ普通は予告時刻通りだろうな、予告までして犯罪起こすなら相当自信があるんだろ。」
「へぇ〜」
通信機だし片耳なので少しノイズが入ってて聞こえずらいが…確かに。と納得した2人だ。
「時間だな…」
予告時間ぴったりに時計の針が重なる。
正面玄関には厳重警備が敷かれ、他の出入口に警察と異能者の目が光っている。
タワー内部、そして外に緊張感が伝播し、異様な静けさを持っている中…その雰囲気を壊すように涼風達よりもさらに上の階から…音もなく何か大きい物体が投下された。
「!!?」
黒い袋に入った物体…?
凛月は吹き抜けには、上階からの射撃を警戒して体を乗り上げずに下を覗き込んだ。
大きさからして人…仮定するなら大人。…あの四角のボコボコはなんだ。
下層は落ちてきた謎の黒い袋を、比較的手の空いている者が確認し、ゆっくり近づく様、流石警察だ。不要に声を荒らげずに謎の物体へといい距離感で警戒をしている。
ーーそして、伊織はその物体を一目見て分かった。
と、同時に凛月も音を聞いて理解するが、確証が掴めていない様子だ。
そんな凛月もちらりと見て、伊織は静かに言った。
「あの袋、攻撃ルートが広範囲だ。恐らく…」
「!!爆発物…!!」
凛月は「涼風!!」と叫ぼうとし、後ろを振り向くがそこには誰もいなかった。
(悪い涼風、急かしちまうが…!)
そう心の中で思ってから、下層へ降ろされた物体に近づく異能者と警官へ、「それは爆発物だっ!!」と叫ぶ。
♦
は…っ?なんでバレ…ーー
下階からは見えずに上階から下へ見下ろす。
下へ捨てた死体と、そのまわりに巻き付けた爆弾へ、警官たちが歩みを止めたのを不可解に思っていると、自身の後ろから足音が聞こえて振り返る。
「…!!がはっ、!」
…これが…スイッチか!!
涼風は右腕の肘から手首にかけた場所を犯人の首へ押し付けから吹き抜けへ落ちないようになっているフェンスへ乗り上げさた。スイッチを奪おうと必死になるが、相手は取られないよう手を後ろへ伸ばす。
「下の警察と、異能者はこれでドンっ!だ。」
ーー親指が少し上に伸ばされ、赤色のボタンへ振り下ろされる瞬間、拳銃の音がしてから犯人の手のひらへ穴が開いてしまった。その穴から肘にかけて血が一筋垂れてゆく。
「…確かに、言葉通りのドンだったな。」
力を込められなくなった手のひらから落ちてくるスイッチを、空中でキャッチした伊織。拳銃をしまい、落ちそうな体を引っ込めた。
「っっ!てめえ!!!」
涼風のいる階層の物陰から拳銃を構えて忍びのような足取りで姿を現した者。
その銃口は言わずもがな、涼風へ一心の揺るぎなく向けられている。
ーー凛月は地面を蹴り、涼風のいる上階へと飛び上がった。その際にフェンスを破壊したが、その破片がちょうどいい目くらましになってくれていた。
刀は抜かず、鞘に入ったまま相手を撫でるように殴り斬る。
次に後ろか。
「少し殺意を込めた視線に驚くようじゃ…その業界生きていけないんじゃないか」
ーーー煽り気味に言うが、吹き抜けを挟んで向こう側にマシンガンを持ったものが1人たっていることに気づく。
涼風からは…みるみるうち、バク宙する形でそちら側まで行った凛月に華麗に膝蹴りで地面へ突っ伏されてしまっていた。
下層の警官達が何やら騒がしい。恐らく正面からヤクザに雇われでもしたチンピラ達が攻めてきたのだろうが、それじゃすぐに取り押さえられてしまうだろう。
♦
正面の入口から、両手を縛られて警察車両へ連れ込まれるチンピラ、そしてしょうもないことを企てた首謀者達を見ていた異能者達。
「ありがとうございました。…爆発物と言ってくれていなかったら恐らく僕は…」
あの爆発物の周りにいた者達が、凛月へ集まってそう言った。
ーー感謝されるのは嬉しいけど、ちょっと違うんだよな。
凛月は丁寧に訂正をしていく。
「いえ。そこにいる涼風、そして伊織のふたりが犯人からスイッチを奪い取ってくれたので…俺は何も。」
「では、貴方達3人に感謝ですね!!」
「…」
身長差の問題で、話し相手が元気よく見上げながら言ってくる光景に、凛月は少し恥ずかしさを感じて目線を逸らした。
ーー皆が解散していく中、最後に残ったアルが話をかけてくる。
「貴方たちのお名前を聞いてもいいですか?」
それは涼風へ向けられた言葉だったと思う。
「はい?…涼風です!!涼風斗真!!」
「俺は凛月です」
「颯伊織で〜す」
2人が涼風に続いて自己紹介していく流れの中、アルは細めた目に涙を浮かべていた。
「この恩はいつか、絶対に返します。」
「いえいえそんな〜…」
「もう行かれるんですよね?行先等はもう?」
「いえ…適当に行ってとりあえず過ごす感じですよ」
「そうですか。ご武運を!!またどこかで会いましょう!!」
「さようなら!!」
手を振って見送る。
まだ空は明るいので、涼風達は次の場所へと足を運ぶ準備を済ませて向かった。
「今度はどこに行く?」
凛月が聞いた。
「なんかしながら…貧しい地域に行こう。調べりゃ紛争地域とか、まだまだあるっぽいし!」
「紛争地域…ねえ、行きますか。」




