英雄
伊織に急かされて着いた先は、スケールの大きな戦い痕、その中に静かに車にもたれ掛かかる息絶えた宇久白。
涼風達は泣き出しそうな自分を押し殺しながら宇久白だった肉片に忍びのように静かに近寄った。
「宇久…白、さん?」
涼風が勝手にないと決めつけていた光景が目の前に実際にある。声にならない震えた嗚咽を漏らす。
すると、横にいた凛月が素早く駆け出した。
「何…やってんだよ、俺の事諭しておいてこれかよ!」
宇久白の肩を掴みあげ、怒りと悲しみの混じった拳で揺さぶった。
そんな凛月の肩へ、涼風はポンッと手を置く。
この後すぐに宇久白の遺体が回収され、警察との協力…なにより怪物達が不気味に思うほどに地面に間亀裂へと戻って行ったためにこの事件は速やかに終息していくこととなった。
だが、異能団の異能者にとって2代目の団長という存在は、今のメンバーの半数が彼に招待されて入団しているせいもあり、かなり大きかった。
涼風に引き継がれたといっても完全に全うできるわけが無く、責任などのプレッシャーで涼風の精神面もすり減っているのは確かだ。
そんな状況で、今回の怪物騒動で戦った異能者は皆、異能団本部へ招集を受ける。
涼風だけは少し家族の安否も確認する必要があったために遅れて行くこととなった。
黒い薔薇が描かれた、見るからに重そうで鉄壁と連想させる扉を開けると、その部屋にはもう椅子に腰掛けている東雲や、頬杖をついている神楽などが目立って居た。その2人に限らず、みんなの表情はびっくりするほど希望に満ちたもので、涼風は驚きを隠せなかった。
ーーどうしたらいい?どのような顔をしてみんなの前に立てばいい…?
そんな不安が頭の中を埋め尽くす寸前、異能団の皆が俺に駆け寄ってきた。
「涼風!家族の方は無事だったか?」
最初に声をかけてきてくれたのは神楽だった。
「え…あ!はい!!」
「ふふ…良かったな!」
首を傾け、にこやかに笑って見せた神楽のおかげで、なんだか少し気持ちが楽になっていく気がした。
「大丈夫だぞ涼風。リアなんかは海外に行く時、今の涼風よりも小心者でウザかったからな」
「おいごら!!」
東雲の発言に即座に反発するリア。周りの顔に微笑が浮かぶ。
気持ちを落ち着かせ、リアが涼風に向かって言う。
「まあ…すずっち。あたしらはこういう感じの雰囲気にしてくれる団長もいいなって思ってたところだ。」
リアをじっと見つめた涼風へ、背後から伊織と凛月が登場した。伊織はもう一度、涼風の肩へ手を置いてから語り始める。
「結局、恥ずいから処分しろって事だったんだよな。宇久白さんが俺に託したUSB。」
「え…?」
「涼風!俺たちは海外に行く!!見たいことやりたいこと…あとはちょっと調査に行って帰ってくる!」
「か、海外…?!」
ーーは?!
突拍子も無さすぎる。そんな言葉に呆然と立ちすくんでしまった。
「正直…涼風が海外に行ってみたいと思ってるって事は分かっていたからな。宇久白さんの計らいもあってタイミングは今って事だ。」
凛月が丁寧にそこはかとなく説明した。
「皆は…?反逆軍との戦いとか…」
伊織、凛月を見ていた目は、前にいるみんなを見つめた。
「任せろ。ぶっ飛ばしておくから」
やってやる。というのが表情から見て取れるリア。
その横で言葉発してないものの、同じ気持ちであるという事が分かる東雲。
「みんな…、」
在り来りな展開…漫画みたいだ。
なんてのを考えながら、零れそうな涙はまだ残して下を向いた顔をバッと上げた。
「強くなって…帰ってくる!海外で困ってる人ぜーいん!助けて来る!!」
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涼風が家族に説明しているなか、家の外で背を持たれながら凛月と話していた。
「そーいや…」
何か言いたげにして下に向けていた伊織は、いい終わりと共に顔を上げる。それと同時に凛月はなんぞやと首を傾げた。
「なんだ?」
「宇久白さんからもらったUSBの中身はさ、宇久白さんがメンバー一人一人へのメッセージだったんよ。んで涼風への言葉がさ……ーー」
「…!」
凛月の眉がぴくりと動く。そして涼風がドアを開けてこちらへ歩いてきた。
「お待たせ…〜」
「なんか…やつれてない?」
猫背でげっそりしている涼風を見兼ねた伊織が言った。
「いや、成瀬が…」
「あぁ…成瀬ちゃん…それがどうしたんだ?」
凛月は少し前に会ったことのある成瀬ちゃんをぱっと思い出して聞いてみる。
「安全確認として夜8時頃に連絡を入れること。んでお土産を大量に…それと、」
まだ何かありそうな顔をしていたので、伊織が予想だが話に割り込んでみた。
「お母さんに色々言われたのか…」
「そーだよ!!まじあの人語り始めると止まんねーんだよ!!!気をつけるべき点を100個くらい聞かされそうになったんだよぉ!!」
「まあ、心配される内が花だし、コンビニ寄ってこうぜ!!」
数10m先のコンビニへ3人で話しながらいつもの街並みが並ぶ歩道を歩く。
「俺さ〜雪国っていうか、南極みたいな雰囲気のとこ行きたいんだよな」
適当に涼風が喋って、適当に2人が返答するみたいなので成り立っている会話だ。
「俺も行ってみてえなとこあるしな、ちょうどいい。」
涼風と伊織は言った。2人はほぼ同時に凛月をじっと見た。
ーー何か視線を感じると思い、左を向くと2人が見つめてきていたため、凛月は何をしているのやらと驚いた。
「な、なんだよ」
「凛月は?行きたいとこ無いのか?」
「ないことは無いが…2人に着いてくよ。戦力は必要だろ?」
ちょうどよくコンビニつき、伊織が持ってたカゴへピュイピュイ食べ物を入れていく。
伊織は怪訝な目で見てきたが、お構い無しにグミを入れていく涼風。頭に1拳、ポカンと打たれた。
ーーすると外を救急車がサイレンを鳴らしながら道路を走り去っていく。
最近、少し救急車やパトカーをよく見るようになった。
その事を涼風が思っていると…
「最近なんか多いよな救急車」
凛月も同じことを言ってくれた。
「な。」
※※※※
空港へ集合するという手筈で1度分かれ、涼風は家に向かった。飽きるほど開けてきたドアを開けると、玄関に小さくまとめられたバッグが置いてあった。
「ただいまあ〜、ん?」
すると廊下からリビングへ通じるドアが勢いよく開き、ドタドタと足音が響いた。そして俺の胸辺りに長い髪を見せながら抱きついてくる人。
「おいおい…どうしたよ」
「しばらく会えないから!補給!!!」
ははっと笑って奥を見ると、開いたドアから母と姉が顔を覗かせていた。ムフフ…と苦笑いしながら。
「そういうんじゃねえよ!!」
突発的に叫ぶ。成瀬を離して一緒にリビングへ入り、冷蔵庫にあったメロンソーダを飲んだ。
「あんたの好きなメロンソーダ…ってもう飲んでるし」
「ん?あ!ありがとう!!」
1度口を離してそう言うと、またごくごく飲み始める。
リビングのソファに腰掛けると、洗濯物を畳んでいる母が喋りかけてきた。
「本当に、もう行くの?」
「…あぁ。早い方がいいしね」
「そう…。」
どこか悲しげな声色で返事をする母さんを見るのはデジャブの様に感じた。
すると半ば背を向けている母はこちらを振り向いて言う…「気をつけてね。」と。
「うん!行ってきます!」
成瀬、加えて姉ちゃんとも一言交わしてその家を後にした。集合時間の少し前だが、余韻を楽しみたいので早くに家を出る。
見知った通学路をゆっくり歩いて行く時、カツカツと自分の足音だけが聞こえてきた。
ーーここってこんなに静かだったんだ。
あの時の裏路地…ここであの薬を拾った。
薄暗い路地は、この時間帯もあってさらに暗くなって居た。
店の裏を通り、抜けていくとすぐに伊織の家が見えてくる。外にはもう凛月と伊織が居た。
「なんだ、早め来たのに俺が1番遅せぇじゃん」
「俺もさっき来たとこだよ」
車に乗り、空港へ向かう。パスポートは事前に受け取っていた。
「やり方分かるんだ?」
「教えてもらったからな!」
ドヤ顔を決めて2人を見る。
「まあ普通にすごいじゃん。んじゃ行くか」
飛行機に乗り合わせた今ーー
世界で起きている怪物と異能の混濁を晴らす英雄の誕生が確定した。




