後悔
瓦礫の山の上で3人が同時に安堵の息をつく。
「怪物が本気になる前に殺せたのが良かったな…本気出されてたら俺らが死んでいたぞ」
少し渋い顔をしながらも、平然と不吉な事を言い放った凛月。すぐに通信機から怪我などの状況をしつこく聞かれた。
「大丈夫ですって…、はい。油断してる間に倒しました。…骨と内蔵は無事ですよ、、、はい。じゃっ」
所々に司令部からの応答で『はい。』などが混じりながら涼風が慣れない様子で通信を終えた。
「新しい情報が入ったよ。聞いて喜べ!」
涼風は凛月と伊織が2人で周囲を警戒してる時、後ろからがばっと覆い被さるように飛びついて言った。
「カテゴリー数値のある怪物を倒し始めてから雑魚怪物はだんだん退いていってるらしい!!神楽が後を追って地震によって空開いた亀裂に怪物が入ってくとこ見たって!!俺たちは深追いはせず掃討だと!!!」
「あー…了解!」
「行くか」
カチャと刀を構える凛月を横目に涼風はふと思った。
ーー案外早めに終わったな、なんて。
それからは実に省略的で、問題なく掃討が進んでいった。
急な怪物たちの撤退はこちらにしたら好都合すぎる出来事で、異能団の上位勢はその後を追う事を緊急任務とされた。警察の怪物処理班との協力もあり、最初の出現数の4分の1まで来た所で問題は起こった。
街の方でなにかが神々しく光を放ち、同時に爆発音が響いた。皆に聞こえる程の音量での爆発など、滅多には起きない事だ。
不審に思っている涼風隊の伊織の元へ、まさかの宇久白が現れる。
「よっ。伊織」
「あ…!宇久白さん…!!今までどこに!」
「悪いね。やっぱこのタイミングで来ると思っててさ、少し準備をしてたんだ。」
そう言って宇久白は何やらUSBを投げ、綺麗な放物線を描いて伊織の手中にかたっと落ちる。
「今から言うことを守って欲しい、そのUSBは俺の全部が入ってる。それを誰にも見せるな。話すな。中身を見て理解したら即刻処分してくれ。」
ーー俺の目なんて見ずにスタスタと先程から光が見える方向へ迷い歩みで進んでいく宇久白。
その背中はなにかの覚悟を決めたようだが、覚えているようでもあった。
「待ってくれ!!そんなんじゃ…っ!!…っ!!」
俺が叫ぶと、ゆっくりこちらを振り返る宇久白に眉がピクっと上がる。
「伊織には色々押し付けて悪いと思ってる…でもこれからの時代…理想や綺麗事を言ってられなくなる。その時の若者に、手を差し伸べてやって欲しいんだ。伊織にはさ」
「っ!!」
最後に見たその目は少し涙を孕んでいて…助けを求めているようだった。
俺は瓦礫の上を走り、光の元へ行く。ビルが倒壊し、周りにいた警察は皆、心臓を高濃度の電気で撃ち抜かれていた。
「他のみんなはどうした」
「呼んだ方が良かったのか?俺とお前。2人でやるべきだろ」
少し裂け気味の口元を見せびらかすように、ニヤッと宇久白に向かって笑った。
「お前の異能を…あれからずっと考えていたよ。考えて考えて…異能団のデータを盗んでまでやった。お前の異能は…過去の人物の技術模写だ。」
「…御明答。よく分かったな」
「これを知って…俺はさらにお前を殺したくなった。人類の歴史に頼って…なんだってできはずだ…あいつらがあんなことになる前に止められたはずだ…!」
「あぁ…それも悪いと思ってるよ。俺は今も昔も、歴史に囚われたまんまだ。だから、終わらせに来た。」
「俺を殺すってか…!?やりたくも、なりたくもない悪役を、自分の正義感に強制された!!お前なら…なんとかできたんじゃねぇのか!!!」
大声と共に自身の身体を稲妻へと変化させて宇久白へ襲いかかる。
ーー雷は宇久白が避けると思っての攻撃だったはずが、宇久白は避けずにそのまま雷の拳を取った。
両手を掴み、左へ雷の体ごと持って回してビルの上層階目掛けてぶん投げる。
雷が窓ガラスを突き破ってビルの一室へと入ったあと、そこへ宇久白も思い切り地面を蹴って到達した。
ーー入るとそこには雷が半透明に透けて、いかにも攻撃の体勢だった。
「来たの間違いだったな」
雷による攻撃が、室内で何本も宇久白へ畳み掛けられている状況。宇久白は雷の成長に少々驚いていた。
「あの時より、格段に強いな。ーー何があった?」
雷による猛攻は依然止まらず、なんなら勢いを増しながら言った。
「そりゃ…強くなるだろ」
「!!」
1度室内へ入ってきた宇久白の腹へ攻撃を仕掛け、外へ飛び出した。
宙を舞いながら落ちていく宇久白へ、雷は他のビルを経由して全方向からの稲妻を向けた。
ここまで強くなってるとは思わなかった。確かに、雷はあいつのお気に入りだったし、特別に訓練されていた。
ーー俺を狙うビームのような稲妻を、俺は空中で体をうねらせてかわしていく、上から下に落ちていく葉のようにクルクルと回転しながら。
着地し、車などの障害物を伝って雷から距離を置くが、猛攻が絶えることは無い。
雷が吹き飛ばした車がコロコロと地面を転がる瞬間、俺は身を隠す。
「…?!何処だ…!」
はるか昔に1度だけ、雷が自身の体も雷化する事に成功した時、銃弾を撃ち込んだ事が経験がある。
その銃弾は雷には当たらず、そのまま奥へ悲しげに進んでいくだけだった。
だから、雷の体を半透明から実態を持たせなければいけない。体を完全には雷へ変換させることは出来ない性質上、必ず息つく瞬間が存在する。
それを狙って、肩を狙った。
「みんなご存知、白い死神…。シモ・ヘイヘだ」
懐に隠し持っていたライフルではないものの、ピストルを取り出す。
ーー周囲に銃声が響き、雷の肩から流血していた。
宇久白は衝動的に雷の元へ突っ込み、殴りを入れてしまった。宇久白は雷との格闘技での戦いを繰り広げ、拳を捌いては打ち込むを繰り返していた。
足をかけ、転ばせてから膝蹴りを入れようと試みたりしたが、それも雷にかわされた。
ーー何がおかしい。こっちの攻撃が読まれている、
「!!」
俺はあることに気づき、解消する為に雷の隙をついて抱きつくように体を縛り付けた。
体の周りを蛇のように這い回り、首元へスタンガンを当てようとする。すると、勢いよく武器が弾け飛んで手足の痺れをかなり重度に感じた。
すると、周囲が勢いよくバンっと弾むと同時に、吹き飛ばされた。先程感じた痺れはもうバカにできないほど強くなっていた。
「ガっ!!ぁっ…!!!」
地面に膝をつき、ガクガクと震える手足に動けと命令を送っているが、なかなかそれ通りに動いてくれない。
「宇久白…お前…どうやってそれを解いた?」
宇久白は息遣いは荒いものの、何やらやってやったぞ。という風潮で立って雷を見つめていた。
「手こずったわ…、気づかねえうちに頭ん中電気信号送って大体の行動を支配してた訳か。なんつー技だよ」
「初めての使用で、その相手がお前か。だがーー」
「…?」
ピクっと手が反射的に動いた。そこで、宇久白は生存を諦める。
「さよならだな。宇久白。色々ありがとう」
ーー頭の奥がピクピクと疼いて震えている。
宇久白は久々に、本物の恐怖を感じた。でも宇久白は、その恐怖には屈しない。
だって…宇久白ははなから死ぬつもりで雷にダメージを負わせるつもりであったからである。
全身を稲妻の様に透過させておける訳では無い。なら、実態のある部分への直接攻撃で、ダメージを負わせれるはずだ。透過状態は実態部分が他に比べ脆くなっている。
何も迷いなく、宇久白は地面を蹴って雷へ近づいた。
拳銃を向けながら近づいてくる宇久白へ、雷は特に何も思わなかった。
強いて言うなら、昔のライバルがこんなにも実力を発揮せずに死んでいくのが心細かったのだろうか。
ーー宇久白は忍ばせていたスタンガンを雷の体の内部へ入れて起動した。
発射された電撃は雷の体を突然ショックさせ、雷は大声で叫び出す。
自分を中心に、周囲へ衝撃波を与える事で、宇久白を吹き飛ばしながらスタンガンも取り除くことに成功した。雷は自分の体がしっかり動くかどうかを確認し…ところどころに違和感を重大に感じ取った。
「宇久白…お前…」
頭への損傷を負っている宇久白は、車へもたれかかって血の混じった痰を吐いて苦しんでいる。
「元から俺を殺す…又は弱体化する気で居たな?」
「せーかい」
カチャりと取り出した銃を撃つより早く、雷の電撃が拳銃本体へ届いてはじき飛ばした。
地面を滑る銃をスルーし、雷の電撃は宇久白の喉で破裂するーー
周囲へ血が飛び散り、傷口から泡のように血が吹き出している宇久白の姿。これを見たかった筈だ。そのはずなのに…なんだ。この、この…後悔は?
「任せろよ宇久白。あいつらはしっかり導くから」




