暴女
私が殴ると、風属性の異能者は背後の瓦礫の山へと背を向けて突っ込んだが、自身も浮かせるような強力な風を使い、宙に浮いた。
その間は怪魔は締められていた首が一気に解放された故、咳き込む。
「大丈夫か?怪魔」
「あ…あぁ、あんがとよ」
怪魔の元へ、傍に落ちていた鎌を拾って届けに行くグンマさん。
「2人共、こいつはあたしがやる。だから…隠れてて」
冷たく、妙に冷静さを持った声色でそう言う。
「ダメだ」だが怪魔は即答した。
「…どうして、」
「機動力を問われる範囲攻撃を連発されたら私は…何も出来ません。ですが…リア1人に任せること等絶対にできません!あの時のリアに戻させないために私たちがいるんですから」
リアは振り返り、高低差故に2人を見下ろす。
その2人の目は、まるで自分の子供を見る親の様で、リアは鋭かった目をふんわりさせた。
「…ッ、!」
そんな私達を現実に戻すように風属性は言葉を発する。
「茶番は要らない。全員殺せば住む話だ」
「2人とも…サポートよろしく!」
ーーリアは前を向き、やつへ飛びかかる。
「じいさん…!」
「はい!」
2人で左右に散り、リアのサポートへ回る。
(悔しい、)
結局俺たちは、リアの後ろにいる…、でも、それでいい。
横からの攻撃を、俺達がカバーすればいい!
リアが正面、怪魔が左、グンマが右をカバーする体勢。
(…これは…!)
敵が当然学習し、左右それぞれの攻撃量を増やしてきた。
(きっ……つ、、)
そう思いたった傍、急に右下から猛スピードで上がってくる者が層を増して見えるほどになった風を刀で真っ二つにする。
「…凛月…殿っ?!」
「まだ残ってた残党を処理して来ました!!左方向の怪魔の元には伊織が着いてます!!」
その怒号のような声はしっかりとリアの部隊へと届く。
「おぉっ!?」
怪魔の方にあった空気が凝縮された玉も、伊織の放った波動砲で打ち消される。
攻撃を捌かれ、歯ぎしりをしながらどんどんイラついて行くーー
「ーーざけるなよ…」
「…??」
目の前まで迫っていたリアがその間に挟まれた空気の壁を破ろうとする。
「ふざけるなよ…平和ボケした日本でのほほんと生活して来たお前らに…、、五属性の力を持った人間の宿命も知らないお前らに…!!」
そう最後の一言を言い終えるまで、辺りはどんどん勢いの強くなる風に目も開けていられなくなる。
「リア!!逃げろ!!!」
「ーー負けるわけには…!行かねえぇんだよぉぉぉ!!!」
その瞬間、周囲に放たれた風は全てを薙ぎ払った。
屋根の瓦、無様に転がっている異常事態を知らせる鐘もどこかへ吹き飛ばされ、砂や埃も切り飛ばす。
「うっ、、そっ…!」
伊織はスコープをやられ、怪魔、グンマ、凛月は周囲の家へと飛ばされてしまった。
風属性だけが全てを見下ろす中、至近距離でなぎ払いを受けたリアが敵の前にたっていた。
「…リアっ、!」
それを見た怪魔は自分が感じた予感を信じてリアの前に力を振り絞って飛び出す。
リアへ向けられていた空気弾は飛び出して来た怪魔へ直撃した。
その空気弾内部へ仕込まれていた細かい風の刃が怪魔の体へ小さい切り傷を大量に刻んだ。
「…ぁ、」
横から飛び出した勢いを止められず、ダメージを負いながら地面へ倒れる。
「怪…魔、」ただ、リアは単調にそう語る。
すると、風属性は無慈悲にも奥の人だかりへ目を付けた。
容赦なく手の平をそちらへ向け、今日1番の力を込めて空気弾を作り、放った。
その場に居た皆、上空を飛んでいく空気弾を焦りながら目で追う。
リアもその1人で、ふとある事を思い出した。
すぐ端まで行き、ある名前を叫ぶ。
「すずっっっっ……ちぃぃぃぃ〜!!!!」
「連絡…確認しましたっ」
敵に見つからないように隠れていた物陰から飛び出して、こちらへ来る気弾を視認した。加え、先程伊織から貰ったパワーグローブを、教えられた通りの操作をして防御モードへ移す。
これともうひとつの銃剣兵器を作ったのか…すげーな伊織。
後ろを見て、避難民達と目が合うーー。
(今度こそっ!)
そう決意し、気弾を手のひらで受けた瞬間、銃声のような音が周囲に響き渡る。
「ぐ…っっ、ぁああああぁぁぁあぁぁあ!!!」
少しでも踏ん張りを解いたら後ろの海へと飛ばされるのが身に染みて分かる。
だがどんどん、俺の体へ掛る負担が減っていった。
「あれは…涼風!!」
あれはまずいーー!そう伊織が叫ぶ頃にはもう遅かったのだ。
「1人…居ないのは分かっていたからな。そこに居るとは思っていたよ…」
風属性が淡々と喋り、リアはそれを睨む。
その後、とどめを刺すようにこう言った。
「ーーボン」
その瞬間、涼風が受け止めて居た気弾は…
すごい勢いで爆ぜ、奥へ奥へと勢いを持った風を発生させた。
涼風はその瞬間を、銃で撃たれたと思い込んで目を閉じた。駄菓子その間に感じた感覚は、撃たれたと言うより ”飛んでいる” だった。
「ーーえっ」
目を開けて自分の真下にもう地面や建物は無く、ただただ真っ青の水が広がっていた。
真横に飛びながら、曲線を描く様に海へ落ちるーー
その寸前、おれは大きく息を吸う。
(いや…やべえ、早く上がらねぇと…!)
そう思って水中で顔を上げ、あるものを見て…俺は吸って貯めた息を全て吐いてしまった。
「ーーごぶっぉぁあ!!」
場所的に海上都市の真下、
都市丸ごと背負う形で巨大な生物が巨大な目を開けてこちらを見ていた。
俺の頭は最初、亀?と考えたがそのどデカい目でこちらを無感情で見てくるそいつに深い恐怖を覚えて頭が真っ白になる。
そしてだんだん視界がボヤけ、俺は最後に黒い水面を見上げて意識が一時的に無くなった。
※※※
「ーーろ!!ーーきろ!!!」
、、どこからか声が聞こえる…
「起きろ!!!」
「ッ!!、ゲホッ、がっ、ぁ」
うつ伏せになりながら肺に入った水を咳き込んで出す所を自分で見て、血が滲んでいるのを知った。
「…ここは?」
顔を見あげると知らない男と、少し前に手合わせした少年が居ため、「あ、」と小声で言う。
「ここは…地下だ。僕の名前はライバー。よろしくね」
「ライバー…あぁ、、あ?なんでここに居る、んですか?」
ーーその名前を聞き、答えのわかりきってる拍子抜けの問を持ちかける。
「奴らから、そこの…カーラという少年に言われて隠れているんだ。」
「ライバーからの護衛任務で組織に潜入してたんだ俺は。俺だけじゃテロ組織は倒せないから、ライバーが先進国の日本へ来てくれと頼んだわけ。」
俺は、動き出したばかりの脳みそで必死に考えた。
先ずは、ライバーが日本へ話をもちかけて…護衛任務自体は海外の別の異能組織的な人達に頼んだ…?
俺はそこですぐ立ち上がって、「俺はここで…どんくらい寝てた?」と、今出せるだけの声量で言った。
「…対して経っていない。すぐお前を回収して治療したからな」
「そう…それは有難いけど、俺を早く、ここから出してくれ」
そう言っている間にも俺はゲホッと血の混じった痰を吐いた。
「今動くのは危険だぞ?お前を素早く回収したっつったって少しの間はまじで死にかけてたんだ!」
「僕が口を離すのは筋違いかもしれないが、彼の言う通りだよ。ここは安静に、」
体感もクソもないけど、だいたい30分は過ぎてるくらいか。
「……聞こえなかったのかよ。出せって、言ったんだ」
根負けした彼らは、地上の扉を開けて俺は歩き出す。
ツー…と頭への痛みを感じ、伊織から貸してもらった機械を外してから鼻を触ると、鼻血が出ていたことに気づいた。
拭くものも無く、垂れ流して外の光に当たって見渡す。
ーー、地獄だ。
ただ単純にそう思った。宮殿辺りからは巨大な竜巻が回転して居た。
俺は迷いなく、それに向かって走り出す。
「はぁ…はぁ、、はっ…」
結構ある道のりを、所々ぐちゃぐちゃに崩れた家を覗いた屋根を飛び移りながら走る。
もうこれ以上近づけない。凛月は…?伊織は…?
リア、怪魔、グンマ、
失礼にも呼び捨てで脳内で不安げに呼びかける、聞こえている訳でもないのに。
「涼風!伏せろ!!」
右から凛月の声が聞こえ、絶大な安堵の気持ちに襲われるのも束の間、戦場から爆音が聞こえて体がビクッと飛び跳ねた。
だが…段々と竜巻だけでなく風自体の勢いが死んでゆく。
頭で分かるのではなく、感覚、直感で…勝った、やったと思い込んだ。
ーー気づいた時にはその場へ安心感を持って、勝ち誇った様な気持ちで向かい、現場を目にする。
目にしたその戦場は、勝ちなんてもんじゃ無かった。
大怪我ばかりして横たわる怪魔。
瓦礫を背もたれにして座っているグンマ。
死にかけて怪魔と同じように横たわっている風属性を見下すリア。
リアは鋭い目つきで今にも死にそうな風属性の頭へ、拳を降る。
本当に何度も、何度も降り…その度にグシャッ、グシャッっと音がしては、周囲に血が飛ぶ。
無表情無感情無慈悲、全てが今のリアに似合っている…ただひたすら相手を殴り、死に至らしめる。
ーこれが「暴女リア」の、やり方である。




