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第59話 暗く深い闇の夜へ

 銃声のような大きな音が響き、ジョンは目を覚ました。どうやら岬に設置された灯台にぶつかって気を失ってしまったらしい。

 灯台の壁にはヒビが入っており、どれほど強力な力で彼が吹っ飛ばされたかを物語っていた。

 背中を中心として、まだ体中が痛んだが、一人だけ休んでいるわけにはいかない。レイメイ達は今も、スザンナの為に戦っている。

 ジョンはそう思い、背伸びで体をほぐしてレイメイ達のほうへ向かおうとした。

 だが、その時上を向いて気が付いたのだ。灯台の上に潜む男の存在に。

 細身なその男はスナイパーライフルをその手に握っており、ジョンは先程の銃声はコイツの仕業だと理解した。

 遠くからレイメイ達の邪魔をされてはたまったものではない。ジョンは真っ先にこの男を仕留めることにした。


「レイメイ達はやらせねぇ! 俺が相手だ、ヒョロガリ!」


 ジョンは男にそう叫ぶと、助走をつけて勢いよく飛び上がる。その跳躍は人間の物とは思えない程の高さがあり、比較的低い灯台とはいえ、眺望台までひとっ飛びでやってきてしまった。


「おい! 逃がさねぇぞ!」


 男はスナイパーライフルで抵抗しようとしたが、それよりも早くジョンがライフルを奪い取り、海に投げ捨てる。

 得意の格闘に持ち込まれては、最早男になすすべはない。ジョンの関節技を喰らい、男はあっけなく気絶した。


「よし……、早くレイメイ達のところに行かないと……!」


 そう思い、眺望台からレイメイの場所を確認しようとしたジョンは目撃する。

 岬の先端で手を伸ばしたまま気絶しているレイメイの姿を。


「レイメイ!? おいレイメイ! 大丈夫か!?」


 ジョンは慌てて彼の元へと駆け寄る。彼の体の下には血の海が出来上がっていた。だがジョンはそんなのお構いなしに、自分の足を血で濡らしながら彼に駆け寄った。


「レイメイ、大丈夫か!? スザンナにやられたのか!?」


 ジョンはレイメイを揺さぶるが、彼からは何の応答も無い。

 そしてジョンは目の前のレイメイの安否ばかりに囚われて、大事な事を忘れていた。この場には、無慈悲な殺戮者と化してしまった仲間がいることに。


「―――! スザンナ!」


 少し遅れてそのことに気付いたジョンは慌てて周囲を確認するが、ある事に気が付いた。


「……? スザンナが、いない……?」


 彼が見渡す限り、スザンナの姿はどこにもなかった。まるで霧が晴れるかのように、忽然と姿を消してしまっていた。


「―――いや、今はレイメイが危ない! 救急車呼ばねぇと!」


 ジョンとカルザは今回の作戦の為に携帯電話を支給されていた。まだ細かい使い方は分からなかったが、緊急連絡先に登録されていたお陰で、救急への通報はすぐにできた。


「―――今の場所? えーと、岬だ! 灯台のある岬! ……は、それだけじゃ分からない? とにかく早く来てくれよ! レイメイが危ないんだ!」


 感情に任せ、乱暴に叫ぶジョン。そんな彼の元に駆けよる存在がいた。


「―――場所は横浜市の大杉岬。患者は東雲レイメイで—――、腹部を銃で撃たれた事による大量出血で命が危ない状態です。年齢は十八歳。俺は黄昏シュウ、電話番号は—――」


 シュウはレイメイの状況を素早く確認し、冷静に救急隊に助けを求めた。そして電話を終えると、レイメイの応急処置に当たり始めた。


「ジョン、スザンナが消えた。俺はレイメイを見てるから、お前はカルザと一緒にスザンナを探してくれ!」

「了解……! レイメイ、死ぬなよ!」


 ジョンはスザンナを探すために駆け出した。だが、彼女がどこに行ったかの手がかりなど何処にもない。

 そう思い思案したところで、一つの妙案を閃く。

 ジョンは再び勢いよく跳躍し、眺望台の上に飛び乗る。そして気絶していた男をひっぱたき、無理矢理起こした。


「……あ? 何だよ」

「お前イングズだろ? お前なんだろ? レイメイを撃ったのは。レイメイと戦ってたスザンナ—――お前らがSと呼んでる女だ。彼女はどこに消えた!?」


 鬼気迫る表情で男を睨みつけるジョンに対し、男はへらへらとした様子で答えた。


「あぁー、S? あのお方からの指示でな。アイツはもう用済みだから、処分しちゃっていいってさ。それで俺がここに来たわけ」

「……は? 用済み? 処分? どういう事だ詳しく聞かせろ!」

「まあまあ落ち着けって。Sを殺ったのは俺じゃねぇ。あのレイメイって男だよ」


 男は邪悪な笑みを浮かべて、倒れているレイメイの方を指さした。


「お前、何言ってんだ? レイメイがそんな事するわけ無いだろ!」

「うるさいなぁ! 冷静に考えてみろよ! なんで今Sがここにいないんだよ! 答えは簡単、レイメイがスザンナを海に突き落として殺したから!」


 ジョンは目の前でヘラヘラと笑いながら大切な仲間を貶した男が許せなくなり、渾身の拳で頭を強打した。その一撃で、男は白目を剥いて気絶した。

 ジョンは急いで灯台を降りて、岬の先端へ向かった。


「ジョン、スザンナの居場所が分かったのか?」

「……信じたくないけど、アイツの言ってたことが正しいなら……」


 ジョンは恐る恐る、崖のようになっている岬の下を覗き込んだ。

 下の方の岩は、上から何か重い物が落ちてきたかのように砕けており、さらにそこは血で染まっていた。


「おい……、これってまさか」

「レイメイ……、嘘、ですよね?」


 ジョンと同じように下を覗き込んだシュウとカルザが恐る恐る呟いた。

 誰もそう思いたくはなかった。だが、人間の脳は無駄に優秀なもので、点と点を勝手に結びつけて、一つの憶測を見せつけてきた。


「レイメイが、スザンナを突き落として殺した……?」


 皆、言ってはいけないと思っていた。だがついに、ジョンが言ってしまった。

 完全に日が沈み、夜の暗闇が四人を包み込む。

 そして真実も、希望も、その闇の中に呑まれていった。


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