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第57話 波乱のカーチェイス

 スザンナに取り付けられたGPSを、シュウさん・僕・ジョン・カルザが乗る車と、柊さん・時雨さん・鬼灯さんが乗る車の二台で全速力で追いかける。GPSは人間とは思えない程の速さで移動していたが、車の速度には流石に敵わず、少しずつ距離が詰まっていっていた。


「この先は岬か……。スザンナが何を考えているか分からないが、この先にイングズの伏兵がいる可能性もある。シュウも気を付けてくれ!」


 後ろの車を運転する鬼灯さんが言った、その時だった。

 他の車が一台もいなかった道。だが、僕達の車のさらに後ろから、新たに一台の車が現れた。


「アマテラス……ではないな。GPSの反応が無い」


 今回の作戦において、全員の位置を確認するために、それぞれのスマホにGPSが登録されていた。後ろの車からは、その反応が無い。

 という事は……。


「イングズか!」


 シュウさんが気づいて叫ぶと、その車は急速にスピードを上げて鬼灯さん達の車にぶつかろうとしてきた。


「シュウ! 速度上げろ!」


 それに気づいた鬼灯さんが、一気にアクセルを踏み込んで速度を上げる。シュウさんもアクセルを全開にして、三台の車が岬への道を爆走する。


「おい! 止まりやがれ!」


 イングズの車の窓からスキンヘッドの男が顔を出す。その手には銃が握られていて、照準を鬼灯さんの車のタイヤに合わせているようだ。


「させるかよ!」


 銃を乱射する男だったが、鬼灯さんのドライブテクニックでギリギリ当たっていないようだった。


「厄介な奴め……!」

「鬼灯! 後ろ!」


 鬼灯さんの車の後ろに迫る存在を見て、シュウさんが叫ぶ。イングズの車のさらに後ろから、新たに四台の車がこちらに向かってきていた。


「援軍か……!」


 大変な事になってしまった。もしかしたら、もうイングズは社会から姿を隠そうとしていないのかもしれない。それだけ大掛かりなことをやってのけていた。

 でも、それは裏を返せばそれだけスザンナが重要だという事。彼女を取り返せれば、イングズに大打撃を与えられるのはほぼ間違いないだろう。

 そう思った刹那、後ろから巨大な音が轟いた。


「何だ!? 何が起きた!?」


 僕達が慌てて後ろを振り返ると、そこには衝突した二台の車があった。黒い煙を出し、もう動けそうにない。


「アイツら……! 自爆特攻かよ!」


 エアバッグにより重症には至らなかったようだが、鬼灯さん達が傷を負っている姿が見えた。だが、すぐに車を降りてイングズを相手に戦闘を始めた。


「皆さん!」

「シュウ君達はスザンナ君を追って! 私達でここは食い止めるから!」

「すぐにアマテラスの援軍が来るはずだから! 俺達は大丈夫だよ!」


 柊さんと時雨さんの声を聞き、シュウさんは辛そうな顔でアクセルを踏み込んだ。


「柊さん達……、大丈夫ですかね?」


 カルザが不安げに言っているのが聞こえたので、僕は彼に確信を持って伝えた。


「三人とも、特に柊さんはめちゃめちゃ強いから。三人なら絶対大丈夫だ。今は僕達の事に集中しよう。—――絶対にスザンナを取り戻すよ!」


 僕の決意に、皆が頷いてくれた。全員、覚悟は決まったみたいだ。


「……チッ、残念ながら、そうスムーズにはいかないみたいだな」


 だが、シュウさんが深刻そうな表情で舌打ちした。僕達の車の後ろから、追尾する車が二台。恐らくイングズのものだ。

 二台の車から人が顔を出して、僕達の車目掛けて銃撃を始める。


「シュウ! 急げ急げ急げ! スピード上げろぉ!」

「言われなくても分かってるよ!」


 その様子を見てジョンが慌てふためき、シュウさんが叫びながらアクセルを全開にする。さっきから最高速度を出しすぎて、エンジンが変な音を出し始めている気がしなくもなかった。

 他の車がいなかったのもあって、シュウさんは道路を縦横無尽に駆け回り、その弾丸を回避していた。あまりに勢いよく揺られるので、少し気持ち悪くなってしまう。

 そうこうしているうちに、さらに二台のイングズの車が後ろから現れていた。銃撃の数もかなり増え、避けるのにも限界が生まれてくる。


「うわっ!? やられた!?」


 後ろの窓ガラスが割れる音が聞こえ、破片がこちらに散らばる。その唐突な出来事に、カルザが焦った声を出していた。


「まずいな……、流石に数が多すぎる!」


 シュウさんがそう呟くと同時、一台がついに僕達に追いついて、真横から邪悪な笑みを見せてきた。

 男が窓を開け、こちらに銃を構える。


「レイメイ! かがめ!」


 シュウさんに言われるがまま僕は反射的にかがむ。直後、窓ガラスを割って僕の上を銃弾が通っていった。


「次で殺す……!」


 男がもう一発銃を撃とうとした、その時だった。


「シュウ! 避けろ!」


 突如、通信機にそんな音声が流れる。次の瞬間、轟音を轟かせながら一台のスポーツカーがこちらに向かって来た。

 そのあまりに異様な気配に、男も一瞬そちらを見る。


「ビリーさんに、シュトラウスさん!」

「援軍か!」


 どうやら、アマテラスの援軍が到着したようだった。ビリーさんの運転するスポーツカーが、その速度を活かして一瞬で隣のスポーツカーまで接近してきた。


「シュウ、退いたな! 派手に行くぜ!」

「おいビリー! 流石にそれはまずい!」


 僕達の車が離れたのを見て、ビリーさんはその速度をさらに上げた。そして一瞬のうちにイングズの車の前に割り込んで、横からその車に追突した。

 そのあまりに派手で危険な運転に、僕は唖然としてしまう。


「……よし、まだ動けるな。次はお前だ!」

「ビリーよせ! 落ち着けぇぇぇぇぇ!」


 荒ぶるビリーさんの声と、その異常さに発狂するシュトラウスさんの叫び声が聞こえてきた。そして気づけば、また一台の車が廃車にされていた。


「ビリーさん、相変わらずだなぁ……」

「でもお陰で隙ができた。今のうちに抜け出すぞ!」


 ビリーさんの大暴走と、追加のアマテラスの援軍のお陰でイングズの追っ手は全て足止めされて、僕達はスザンナを追う事に集中できるようになっていた。

 GPSは未だ移動を続けていたが、その先にあるのは岬だけ。これ以上は逃げられないハズ。

 思った通り、岬までたどり着いた所で、GPSの動きは止まっていた。


「……ここが最終決戦の場、って訳か」


 僕達は車から降りて、その岬を見渡した。

 海面まではかなりの高さがあるようで、視界の奥には沈みゆく太陽に照らされて赤く染まった海があった。

 そして、その夕暮の太陽を背後に、スザンナが立ち尽くしていた。


「スザンナ……。もう終わりにしよう。僕達の所に帰ってきて。話を聞かせてよ」


 僕は彼女に最後の希望を抱いて質問するが、当然のごとく彼女は無視だった。


「……やるしか無いみたいだな」

「―――うん。スザンナ、力づくでも戻ってきてもらうよ」


 僕達は暗くなりつつある空のもとで、スザンナと対峙した。


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