第54話 絶望の大乱闘開幕
……え?
あまりに突然の事すぎて、僕は反応することができなかった。Sの奇襲攻撃をもろに受けて、向こうの木の方までぶっ飛ばされてしまう。
「レイメイ!?」
「何でこのタイミングでSが……!?」
皆その唐突な出来事に、全く反応できずにいた。
殴り飛ばされた僕はそのまま木々の間を通り抜けて、一本の木に衝突してやっと止まった。同時に背中に強烈な痛みが走る。
後ろでミシミシという異音が響いた。何事かと振り返ると、僕を受け止めた大木が根元から折れて倒れていた。
大樹の重量が地面にぶつかり、爆音を轟かせながら土煙を散らした。
あの一撃で、いとも容易く大樹が折られてしまった。相変わらずS、とんでもない馬鹿力だ。
三人は無事か!? 僕は慌てて三人とSの元へと戻る。
「クソッ、いくら何でも強すぎる!」
僕が駆けつけると、ジョンが中心となってSと格闘戦を繰り広げていた。
Sは怪力自慢のあのジョンと互角に並び立つどころか、ジョンを相手しながらカルザとシュウさんをもいなしていた。その圧倒的な戦闘力に、僕は怖気づいた。
だが、ここで足踏みするわけにはいかない。皆を助けろ。そして、スザンナや姉さんにまた会うんだ!
「そこまでだ、S!」
僕は地面を強く蹴りだし、Sに向かって飛び蹴りを喰らわせる。視界の外からの攻撃には流石に対応しきれなかったようで、Sは飛ばされて木に衝突した。
「皆! 大丈夫!?」
「あぁ、何とかな……。なぁレイメイ、何だあのバケモンは? パワーもスピードも桁違いだぞ?」
何かとビビりなジョンだが、戦闘においては自信家だった。そんな彼が、戦闘において圧倒的な恐怖を感じている。
本当に僕達はこの化物を、捕まえることができるのか。
「シュウさん、アマテラスの皆は!?」
「それが……、もう既に帰路についてしまった者も多いようで、全員が集まるには少し時間がかかりそうだ。……それまでコイツをここに引き留め続けないといけない訳だが、行けそうか?」
増援にもしばらく時間がかかるなんて。やはり、皆油断していたんだ。そして、油断で形勢が乱れたタイミングをピンポイントで突かれた。完全にイングズの掌で躍らされている。
「できるできないじゃなくて……、やらなきゃいけないんでしょう? 僕の願いもそうですけど、社長達の願いを叶えるためにも、この勝負は絶対に勝たないといけない!」
僕はそうやって己を鼓舞して、改めてSと向き合う。
Sは今回はローブではなく、動きやすそうな服装をして、仮面で顔を隠していた。その後ろからショートカットにした金髪が風になびいていた。
まだ駐車場に残っている車もあったから、増援は一番早くてあと一分くらいだろうか。だが、この化物の前では、それさえもとんでもなく長い時間に感じられた。
「絶対に稼ぎきる……! 皆、力を貸して!」
僕は決意を込めて皆に頼み込む。三人とも、無言で頷いて了承してくれた。
先に動き出したのはSだった。圧倒的な早さで踏み込んで、僕の目を潰そうとしてくる。
「させるか!」
だが僕はギリギリで伸びてきた腕を掴んで、逆に投げ飛ばしたやった。
しかし、そう甘くないのがSだ。投げ飛ばしたにも関わらず空中で姿勢を整えて、木の枝を蹴ってこちらに急降下してカルザに蹴りを喰らわせようとしてきた。
「そうはさせません!」
カルザは腰に差していた木刀を引き抜き、それでSの足を受け止める。だがSはそれを土台にして飛び上がって、カルザの頭に直接蹴りを入れた。
カルザも反応することができず、鼻から血を流しながら倒れてしまった。
「カルザ!」
「レイメイ! 来るぞ!」
カルザが心配で一瞬彼の方を向いてしまったが、それが隙となってしまった。
Sの前では僅かな隙でも命取りになりうる。僕の腹目掛けて、物凄い速度で拳が飛んできていた。
「させるかよォ!」
拳が僕の腹に到達するギリギリでジョンが僕とSの間に割り込み、両手でその拳を受け止めた。その圧倒的な威力に、ジョンの表情が歪んだ。
「ジョン! 大丈夫か!?」
「レイメイ今だ! 周り込め!」
ジョンがSを止めているうちに、僕とシュウさんはSの横に回り込んだ。そして、左右から同時に攻撃する。
「……マジかよ」
シュウさんが唖然とした声を上げる。驚くべきことに、彼女はジョンのロックを無理矢理外して、両腕で僕らの攻撃を防いでしまった。そして一瞬のうちに、ジョンも倒されてしまっていた。
「流石にヤバい……!」
大技を警戒したが、遅かった。気づいた時には、僕もシュウさんも弾き飛ばされてしまっていた。
再び木に勢いよくぶつかり、吐血する。物凄い痛みを伴った。
……まずい、早く戻らなければ、ジョンとカルザがまたイングズの手に渡ってしまう。
そんな事は絶対にさせない!
僕はポケットからマッチを取り出して火をつけ、それをそのまま飲み込んだ。
体の奥底で炎が燃える感覚がする。元の世界で魔法を使っていた時の感覚が戻る。
体は先程よりも尚早く動き、一瞬でSの元まで戻ってきていた。
「絶対に二人はやらせない……!」
僕は全力を振り絞り、Sに喰らいつく。高速で拳が飛び交うが、何故か全て奇跡的に避けられていた。
……何故だ? あの時もそうだった。東京で戦った時も、似たような感覚を覚えた。
だが、そんな事はどうでも良い。これは僕にとって最高のアドバンテージになっていた。
攻撃の軌道を読み切り、僕はSの顔に一撃を入れる。
仮面に僅かにヒビが入り、Sは吹っ飛んだ。その勢いのまま、追撃で飛び蹴りを喰らわせる。
だが僕は反撃を喰らい、地面に叩きつけられてしまった。
そして僕の頭にSの拳が飛んできた、その時———
「武御雷型『武勝雷裂!』」
雷のごとき速さでその間に割って入り、Sの拳をはじき返した存在が現れた。
「遅れてすまない、皆!」
柊さんを始めとした援軍が、戦場に到着した。




