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第53話 急襲

草むらから現れた存在の正体を見て、僕達は唖然とする。

 そこに現れたのは、体調二メートルを超える巨大な熊だった。腹が空いているのか、充血し赤く染まった目をこちらに向けながら、よだれをまき散らして僕達に襲い掛かってくる。


「熊!? なんでこんな所に!?」


 イングズではない、あまりにも突然な熊の襲来に、シュウさんもひどく驚いている様子だった。だが、その対処はあくまで冷静だった。

 シュウさんは咄嗟にカメラを取り出し、フラッシュを焚く。そのあまりの光量に熊はよろめき、目を抑えた。


「レイメイ、麻酔銃!」

「———はい! 了解です!」


 シュウさんから迅速に指示を受け、僕も慌てて麻酔銃を取り出して、熊の首元に撃ち込む。巨大だった為一撃では倒れなかったが、麻酔の効果で動きがよろめいていた。

 その隙にシュウさんが電撃銃を取り出して、熊に電撃を与えて気絶させた。


「ふぅ……、危なかったな。多分この熊、普通に人も殺して喰うぞ」


 熊の様子を見ながら、シュウさんがそう言った。確かにこれほどの巨体なら、人を襲って喰っていても違和感は無いかもしれない。

 ……あ。もしかして。


「シュウさん、もしかして神隠しの噂の正体って、この熊じゃ……」


 僕は倒れた熊を指さしながら言った。シュウさんも同じ考えに至っていたようで、僕の質問に首を縦に振っていた。


「恐らくな。近年の行方不明者の原因はコイツだろう」

「すげぇデカい熊だな……。島にもこんな奴いなかったぞ」


 倒れた熊に近づいてその体を触りながらジョンが言った。確かに、島でもここまでの大きさの熊は見たことが無かった。


「……あれ? というかシュウさん、近年っていうのは?」


 僕はシュウさんの発言に違和感を感じて、聞いてみた。そして帰って来たのは、最悪の答え。


「あぁ、実は神隠しの噂は江戸時代頃からあるんだ。コイツみたいな熊がこの山で人知れず生きていて、代々人を襲っていたのかもしれないが、他の理由もあると考えて動いた方が良いだろう。警戒しておいてくれ」


 ジョンとカルザはそれを聞いて酷く震えあがっていた。僕も、超常的な何かが働いているような気がして鳥肌が立った。


「とにかく、今はこの熊を何とかしないとな……。気絶してるだけで息はありそうだし、早急になんとかしないとな……」


 確かにこの熊は人の命を奪ったかもしれないが、だからと言って殺すのは少し抵抗があった。生き物の命を奪う覚悟が、僕にはできていなかった。


「……とりあえず社長に保護団体を呼んでもらった。あと一時間くらいで着くらしいから、それまでコイツが暴れださないように見張っておくぞ」


 シュウさんの指示に従い、僕達は熊を見張りながら業者が来るのを待つことにした。勿論、この間にイングズが襲ってくることも警戒して、全員で周囲を見張りながら。

 シュウさんが熊が目覚めて暴れだしそうになるたびに電撃銃で気絶させて、周囲から鳥が飛び立つ音が聞こえるたびにジョンもカルザも震えあがる。

 そうしている内に、特に何も起きることなく、業者が到着した。

 巨大な熊は業者たちに運ばれてトラックに乗せられ、どこかへと去っていった。そして僕達も、少し話を聞かれることになった。

 近くの事務所で話がしたいと相手が言って来たので、作戦現場から離れ、作戦を中止することになってしまう。柊さんに確認を取ったところ、従わないと色々と不味い事になるという事で、離脱が許可された。さらに、今日は業者の人達がここを訪れたことで目撃者が出来てしまったので、イングズも襲ってこない可能性が高いという。

 そんな訳で、今日は一旦作戦終了となったのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 業者との話が終わり、僕達は四人で外に出る。柊さんとの繋がりがある業者とのことで、麻酔銃や電撃銃の事について詳しく聞かれなかったので、それなりに早く出てくることができた。


「……で、これからどうします?」


 カルザがふと放った問いに答えられる者はいなかった。

 そう、時間があまりにも微妙すぎるのだ。

 今は十五時。今日の作戦はもう終わりで良いと言われたが、だからと言ってすることも何もない。

 安全の為社宅に戻ることは確定していたが、今すぐに戻っても時間を持て余すだけだった。

 かといって、どこかに寄って帰るのも、それはそれで帰りが遅くなってしまう。

 僕達は悩みに悩んだが結局何も浮かばず、とりあえず車に乗って社宅に向かおうという事になった。


「まあ……、適当にドライブでもするか」


 シュウさんが車を走らせながら言った。丁度車の感覚にワクワクしている様子のジョンとカルザには丁度良いだろう。

 周囲の山々を眺めながら、窓を開けて風を切りながら進む感覚を味わう。肌に触れる少し冷たい冬の風が心地よかった。


「……なぁ、あまりにも突然で申し訳ないんだけど、お前らの元の世界での事について教えてくれないか」


 風の感覚を味わっていると、シュウさんが突然そう言った。


「よくよく考えたら、俺はお前らがどんな関係なのかあんまり知らないなって思って。お前らの想いを知れば、俺もお前らと同じくらいこの作戦に熱くなれると思ってな。……どうしても、俺だけこの作戦に対する熱意が違うような感じがしちまうんだ。まあ、お前らからしたら仲間とまた会えるチャンスな訳だからな。熱くなるに決まってるよな」


 そう言ったシュウさんの姿は、少し悲しそうだった。


「……そんな事無いですよ。シュウさんはまだまだ未熟な僕達の分まで頑張ってくれてます。シュウさんの熱意、僕達にもちゃんと伝わってますよ」

「レイメイ……」


 僕が自分の想いを伝えると、シュウさんの表情は少し明るい物になった。そして僅かに微笑みを浮かべると、僕達に向かってこう言った。


「……ありがとな。でも、やっぱりお前らが元の世界ではどんな風だったのか知りたいんだ。教えてくれないか?」

「勿論ですよ、シュウさん! だよね?」

「あったり前だ! 俺達の日常、いくらでも教えるよ!」

「ですね。団結を深める意味でも、伝えておいた方が良いでしょう」


 僕達は三人でシュウさんに、元の世界で楽しかった事や辛かったこと、スザンナや姉さんのことなど、色々な事を伝えた。そうして楽しく喋っているうちに、丁度良い時間になっていたみたいだ。


「よし……、遠回りのドライブはこれくらいで良さそうだな。時間つぶしにもなったし、面白い話が聞けた。お前ら、ありがとうな」


 シュウさんは僕達にそう言った後、僕に近づいてこっそり耳打ちした。


「お前も、次にスザンナに会った時の為に覚悟は決めておけよ。社長みたいに渋って後悔してからじゃ遅いからな」


 突然シュウさんにそう言われ、僕は緊張で固まってしまった。

 船の上でも彼女に想いを伝えようとしたが、残念ながらそれは叶わなかった。でも、それがまた会えれば叶うかもしれない。

 イングズを追えば、スザンナに関する情報も得られる可能性が高い。もしかしたら、また彼女に会う日も遠くないのかもしれない。

 その日の為に、覚悟を決めておかなくては。

 僕はそう思い、彼女への言葉を考えながら車を降りた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 翌日もまた大杉山に向かったが、イングズの襲撃も神隠しの調査も特に何もなかった。

 それどころか、本当に何も起きない数日が続いた。警戒を続けるものの何も起こらず、無意識のうちに警戒が緩んでいるような気さえしてきた。

 そしてついに最終日まで、襲撃が行われることは無かった。


「結局Sどころかイングズの一人も現れませんでしたね」

「まあ、アイツらもそう簡単には姿を見せないだろうよ。実際、社長が五年間も調査を続けても尻尾がつかめなかったんだ。根気強く調査しないといけないって訳だな」


 そんな話をしながら、僕達は下山していた。アマテラスの皆も既に帰宅を始めており、作戦が終了したことを物語っていた。


「まだチャンスはある。諦めずに頑張ろう! 絶対にイングズを捕まえるんだろ?」

「……そうですね。戻ったらまた新しい策を考えないと!」


 僕はイングズを捕まえるための考えを必死に考え出した。

 Sが僕の隣の草むらの中から強襲してきたのはその時だった。


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