第52話 大波乱の作戦
作戦会議から三日後の朝。僕とシュウさん、ジョン、カルザは大杉山に出発する最終準備を整えていた。
表向きは神隠しの調査なので、記録用のカメラなどを首から下げておく。だが、実はこれは強烈なフラッシュを浴びせて一時的に相手の視界を奪えるアイテムだ。柊さんの知り合いに優秀な道具屋がいるらしく、その人に頼んで作ってもらったそうだ。
さらに、山の上はかなり寒いらしいので沢山着込んでおく。ちなみにこれも、緊急時にはすぐに脱げるようになっており、さらに下には防弾チョッキも着こんである。
そして、頭には不意打ち対策のヘルメット。登山用の物を丈夫に強化したものなので、怪しまれないし安全性も上がる。
あとはリュックにその他諸々を詰めて……よし、完了。
「レイメイ、用意できたか? そろそろ行くぞ」
シュウさんに呼ばれ、僕は荷物を持って慌てて外に出る。外では既にジョンとカルザも待っていた。
「おせーよレイメイ。まさかビビってるんじゃないだろうな?」
「そんな訳無いだろ? 僕は会いたい人にまた会うためなら何でもするって決めたんだ」
ジョンが試すように言ってきたが、僕の覚悟はとっくに決まっている。僕の答えを聞いて、ジョンも安心した様子だった。
社宅の駐車場に移動すると、そこには柊さんや時雨さん、九十九さんに鬼灯さん、ビリーさんやシュトラウスさんなどアマテラスの社員の皆が集まっていた。
「四人ともおはよう。これは我々にとって大事な局面だ。無理をしろとは言わないけど、頑張ってね」
「はい! 絶対にSを捕らえます!」
柊さんにとっては思い続けている恋人と会える大事なチャンスだというのに、それでも僕達の身を案じてくれていた。
僕はそれが嬉しい反面、絶対に負けられないと思い、気合の入った表情でピースサインを返した。
「気合い入ってるね、レイメイ君! 俺達も全力を尽くすから、皆で頑張ろう!」
重大な局面という事もあり、皆どこか緊迫した空気だったが、時雨さんがその空気を壊すように明るく言った。
「……そうだな。皆で勝つぞ!」
時雨さんに応えるようにシュウさんもそう叫んで、右手を振り上げた。そして全員で同じようにして、気合いを入れるように叫んだ。
シュウさんの車に乗り込んで、シートベルトを着ける。ジョンとカルザは初めてなので少し戸惑っていたが、問題なく装着できたようだ。
「よし、皆オーケーだな」
「シュウ、念のため俺達は少し後から付いていく。ちゃんとGPSは持ってるな?」
「ああ。問題ない」
鬼灯さんの確認に応じて、僕達は懐からお守り———中にはGPSが埋め込まれている———を取り出した。
お守りそのものにも意味はある。また大切な人達に会えるようにと願いを込めて。
「よし! それじゃあ出発するぞ!」
シュウさんの一言で、車はエンジンを吹かしながら動き出した。
僕は必ず作戦を成功させるという思いを込めて、アマテラスの皆に手を振っていた。
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皆の姿が見えなくなり、僕は手を振るのを止めた……のだが。
やたらと後ろが静かだったので振り返ると、二人とも魂が抜けたかのように気を失っていた。
「二人とも!? どうしたの!? まさかイングズに先手を打たれた……?」
そんな嫌な予感もしたが、流石にそこまでではなかった。
僕が叫ぶと、二人はすぐに目を覚ました。そしてすぐに、ギャーギャーと叫びだした。
「ちょっと! マジで二人ともどうしたの!? 落ち着いて!」
「いやレイメイ、これは落ち着けという方が無理があります! だって、僕達を乗せたこの箱が勝手に動いているんですよ!? しかも、四人分の重量を乗せて、こんなに速く! これもイングズの罠なのではないですか!?」
カルザの言い分を聞いて、僕は納得した。
そっか。二人とも車に乗るのは初めてだったか。東京の事件が起きた後に病院に搬送された時も気を失っていたみたいだし、動いているのを実際に見るのは今回が初めてのようだ。
そりゃあこんなに驚きもするか。僕だって、初めて乗った時はすごく驚いたのだから。
そう思いながら、僕はこの世界に迷い込んだ日の事を思い出していた。
柊さんの話を聞いた後だと、色々と納得できる部分は多かった。多分、柊さんや時雨さんが僕の顔を見て時々「似ている」と言っていたのは、姉さんの事だったのだろう。あの二人は初めから、僕が姉さんの弟だと気付いていたんだ。それを僕に伝えなかったのは、混乱させないための優しさだろうか。
そして柊さんが最初から気付いていたという事は、もしかしたら何かのヒントを得たのかもしれない。
姉さん達に続いて、魔王を討伐しに向かった僕達がこの世界に転移してきたのだ。僕も柊さんの話を聞いて、転移と魔王の関連性を疑いだしていた。
……それにしても、柊さんは初めて僕を見て、何を思ったのだろう。話によると、柊さんは夢で僕にそっくりな少年を見たらしいが、その少年が六年ごしに目の前に現れて。奇跡か何かかと思ったのだろうか。
でも、一つだけ感じている事がある。僕と柊さんが出会ったことで、大きな運命が動き出している。柊さんによると、僕達がこの世界に迷い込んできてから、事態が大きく動き出したと語っていた。
———もしかしたら、全ての事件が解決し、僕達が元の世界に戻れる日も遠くない……かもしれない。
「おいレイメイ、そろそろ着くぞ」
そんな事を考えているうちに、大杉山に到着したようだった。後ろの二人は早くも車に慣れ、その独特な感覚を楽しんでいるようだった。
「さ、着いたぞ。降りろ」
「えー、もう終わり? もっと乗っていこうぜ?」
さっきまであんなに怖がっていたのに、ジョンはすっかり車のとりこになってしまっていた。まあでも、素直なのが彼の良い所か。
目の前にそびえる大杉山は、一面が木々に覆われた、かなり大きな山だった。シュウさんの話によると、標高が1500メートルもあるようで、山の中腹あたりに神社があるそうだ。
都市伝説の影響もあるためか、登山客はほぼいなかった。これなら、Sとの戦闘が発生しても被害は小さく済みそうだ。
「……あれ? そういえばシュウさん、神隠しの噂って本当なんでしたっけ?」
「ん? 本当に決まってるだろ。実際、この山での行方不明者が毎年何人か報告されている。だから、見つかるまでは一応その調査もするからな」
その恐ろしい事実を聞いて、ジョンとカルザは震えあがっていた。僕も、実際に人が消えていると聞いて、鳥肌が立つ感覚がした。
「大丈夫だ。実際、俺達以外にも過去に何回か調査を行ったことがあるらしいが、そこで行方不明者は出ていない。用心していれば大丈夫だ。そう心配するな」
シュウさんを先頭にして、僕達は山道に入っていった。
山の中は沢山の木々が生い茂っていて、あまり日の光が入ってこなかった。その薄暗さが、余計に恐怖感を倍増させていた。
木々の隙間から駐車場の方を見ると、何台か車が入ってきているところだった。アマテラスの皆が到着したようだ。
「神隠しにも注意はしたいが、本命はあくまでイングズだ。警戒は怠るなよ」
シュウさんの一言に、僕達はより警戒心を強めて山道を歩く。
だが、かえって警戒しすぎると良くないかもしれない。
さっきから、鳥が飛び立ったり、枯れ枝を踏みつけてしまったり、それらの音で一々驚いてしまっている。この分だと、いくら心臓があっても足りそうにない。
「うぅ……、やっぱりここ普通に怖いですよぉ……」
あのカルザでさえ、かなり弱気になっていた。震えながらシュウさんに助けを求めていた。
「……いや、それでいい。鳥が飛び立ったり、枝を踏んだりした音で、敵の接近に気付けるかもしれない。心臓には悪いが、そのまま維持で頼む」
僕達は緊張の糸を張り巡らせながら、神社に向かって歩き続ける。
———だが、それはあまりにも突然だった。
草むらから音が聞こえる。そして次の瞬間、そこから現れた存在が僕達に襲い掛かってきたのだ。




