第51話 動き出す
「でも社長……、俺とレイメイは実際にSと戦いましたけど、アイツの強さはとんでもないです。正直、社長でも勝てるかどうか怪しいかと」
皆が柊さんの話を受け止めきれずにいる中、追い打ちのように放たれた、「Sを捕縛する」という宣言。その宣言に、シュウさんが口を挟んだ。
東京でシュウさんと戦った時のSは、異常なまでの強さを持っていた。2人がかりでも全く引けを取らず、さらにはビルをも破壊するほどのパワー。あの時はテロによって皆が避難していたから良かったが、一般人がいる中で彼女との戦闘を行えば、そっちにまで被害が出るのは避けられないだろう。
「あぁ。私も彼女をそう簡単に捕縛することはできないと思っている。だが、恐らく彼女はイングズの中でも中枢を担う者だろう。何か重要な情報を握っている可能性がある。仮にそうでなかったとしても、彼女がイングズの主要戦力である事に変わりはない。彼女を捕らえることができれば、イングズの大幅な弱体化が期待できる。だから、入念に作戦を考える必要がある」
柊さんはそう言うと、ホワイトボードに作戦を書きだした。
「私の考えた作戦はこうだ。レイメイ君、ジョン君、カルザ君、そしてシュウ君の四人には、任務を装って大杉山に一週間通ってもらう。大杉山には古びた神社と神隠しの噂があるから、その調査の名目で行こうと思っている。人気の無い大杉山に、ターゲットが何日も何日も通うんだ。イングズとしても、できるだけ事態を大きくせずにレイメイ君達を捕まえたいはずだ。この誘いには乗ってくるはず。だが、相手は異世界人三人とシュウ君。並の者では捕らえられないだろう。だからきっと奴らはSを放ってくる。Sが出てきたら、待ち伏せした我々で一斉にかかって奴を捕縛する。かなり強引な作戦だけど、現状これしか手は無いだろう」
柊さんの言った作戦は、かなりリスクが高いものだった。だが、そうでもしなければSをおびき出すことはできないだろう。
それに、僕は決めたんだ。スザンナや姉さんにまた会うためなら、何だってすると。
「———僕は構いません。絶対にSを捕まえます!」
「俺も、レイメイに賛成だ。イングズって奴ら、何が目的だか知らないが、アイツらは爺さんと船長を殺したんだ。その時点で、俺がアイツらを見逃す理由が無い。絶対に罪を償わせてやる」
「同感ですね。僕としても、イングズの悪行は絶対に許せません。自分がイングズ討伐の役に立てるのなら、僕はそれで構いません」
僕に続き、ジョンとカルザもこの作戦を承認してくれた。あとは、シュウさんだけだ。
「……俺は別に構いませんよ。そもそも、これまでだって何度も危険な綱渡りをしてきた。今更恐れる理由なんて無いでしょう? それに、レイメイ達だけで行かせる訳にはいかない。先輩として、しっかり先導しますよ」
少しの沈黙の後、シュウさんは快諾してくれた。流石先輩、かっこいい。
「シュウさん……! ありがとうございます!」
「お前らだけで行かせたら、何をしでかすか分からないからな。しっかり見張らせてもらうぞ」
僕が礼を言うと、シュウさんはぶっきらぼうに吐き捨てた。柊さんの話を聞いていた時にものすごくショックを受けたような顔をしていたから少し心配していたけど、これなら大丈夫そうだ。
「作戦の決行は明後日から。それまでに皆、準備をしておいてくれ。私もできる事は全てやる。ここが正念場だ! 絶対に成功させるぞ!」
柊さんが叫びを上げ、それに呼応するように社員全員が応えた。
イングズとの重要な一戦が始まる……!
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会議を終えて部屋を出たジンの後ろを、マイとナギが走って追いかけてくる。
「ジン……、ようやく皆に伝えられたな。ソレイユの事」
「ああ。……いきなりこんな事を伝えたら皆混乱することは分かってた。でも、今伝えないとダメだと思ったんだ。これからイングズとの戦いは本格化するだろう。そうなった時に、我々はさらなる団結を必要とされる。皆で目標を共有できれば、団結も深まると思ったんだ。時間はかかるだろうけど、皆良い人だからね。きっと受け入れてくれるさ」
ジンは微笑みを浮かべながらそう言った。彼がこの表情をするときは、ソレイユを思い出している時だ。
「……ようやく、ここまで来ましたね。俺達の願いが、やっと叶うかもしれない。そう思うと、何だか緊張してきますね」
「……私もだよ。ソレイユにまた会えるかもという希望と、万が一への恐れで体が震えている。でも、私達が信じなくて、一体誰が信じると言うんだい? ソレイユは絶対生きてる。私達は彼女にまた会える」
ジンはそう言いながら、涙をこぼしていた。自らの過去を語り、愛する人の姿をより鮮明に思い出していた。
「……ソレイユ、やっぱり君にまた会いたいよ……」
「……私も昔を思い出した。楽しかったけど、少しほろ苦かったあの青春を。ソレイユが帰ってきたら、私達またあの頃に戻れるかな?」
マイは涙が零れないように、上を向きながらそう問いかけた。ジンは涙を拭きながら、希望を抱いた声で答えた。
「きっと戻れるさ。私達の絆は、時間が引き裂けるものじゃないさ」
そう答えたジンは、心の底からの笑みを浮かべていた。
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会議が終わってからしばらくした頃。人気の無いビル群の中で、ある男が電話をかけていた。
「……ああ。アマテラスの作戦決行は明後日からだ。大杉山に向かうのは、レイメイ、ジョン、カルザ、シュウの四人。社長の目的はSをおびき出して捕らえる事。その為に山周辺に伏兵を配置する予定のようだ」
男はそこまで言ったところで、辛そうに顔を歪めた。そして、電話の向こうの人物に懇願する。
「なぁ……、これで最後にしてくれないか? 監視が目的とはいえ、流石にこれ以上はアイツらの命に危険が及ぶ。今回分かった社長の目的からも、お前らと対立するのは自然な事だが、そしたら俺はどっちに付けばいいんだ……」
『何をふざけた事を言っているんだい? 自分の立場を分かっているのかい? 君はスパイとしてアマテラスに潜入している身だろう。アマテラスの動向を我々に伝えるのが仕事であり、君の所属はあくまでこちら。我々とアマテラスが対立するような事があれば、君が付くべきはもちろん我々。裏切るような真似は許されないからね』
男の願いは叶わなかった。だが、電話の向こうの人物はそんな事気にもかけずに続けた。
『話を戻そうか。成程、アマテラスはSを狙っているのか。彼女は我々の最高戦力ではあるが……、まあ良いだろう。奴らの作戦に乗ってやろう』
「え……? 本気ですか? いくらSでも、社長とアマテラスの手練れ複数人を同時に相手するのは厳しいんじゃ……」
『Sの限界を測る良い機会というものだ。それに、Sが負けたら負けたで面白い事になる。まあ、伏兵の数人はこっそり狩っておいても良いか。我々の動きの詳細は明日伝える。何度も言うが、有事の際はこちら側として動くこと。分かったな?』
電話の向こうの人物はそう言って、一方的に電話を切ってしまった。
男は電話が切れたことを確認すると、ビルの壁に寄りかかって頭を抱えた。
「俺は……俺は……!」
ジンの想いを聞き、団結を深めたアマテラス。
裏で怪しい動きを見せるイングズ。
果たして、勝者はどちらか。
ターニングポイントとなる大きな戦いが始まろうとしていた。




