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第49話 急転

「それでは! ジンとソレイユちゃんのカップル成立を祝して! 乾杯!」


 あれからという物、物凄い速度で事は進んでいった。

 勘で二人が付き合ったことを察知した豆次郎が朝八時頃に柊剣道場に訪れ、二人は彼に事実を告げた。

 それを聞いた豆次郎はひどく興奮した様子で十分ほど叫びながら廊下を駆け回り、その後ナギとマイに連絡した。

 今日が休日だったこともあり、昼から宴会を開こうという話になって、今現在、とうふや風斗にて宴会を行っているのだった。


「ジンさんが踏み切れたのって、昨日俺達が発破かけたお陰ですよね? ですよね?」

「……確かに、そうかもしれないな。ありがとう」


 ジンにぐいぐいと詰め寄るナギだったが、彼が素直に認めて感謝したので、何とも言えない表情になってしまった。


「あれ、マイはまだ来ないんだっけ?」

「あー、少し遅れるらしい。まぁ、すぐ来るでしょ」


 皆昼間だというのに、未成年のナギ以外はビールをがぶ飲みしていた。一番酔っていたのは豆次郎だった。


「おいジ~ン、お前ソレイユちゃんの事泣かすんじゃね~ぞ~?」

「先輩酔いすぎです。頭冷やしてきてください」


 酔いすぎでダル絡みしてくる豆次郎を、いつものように躱すジン。そしてそれを見て笑うソレイユとナギ。

 そんな中、遅れてマイが到着したようだった。


「ジン、ソレイユ! 二人ともおめでとう! もう、こっちから見てたらずっともどかしかったんだから!」


 相変わらずのハイテンションだったが、ジンは彼女の頬に僅かに涙が通った跡があるのに気づいていた。


「マイ……、もしかして泣いてたのか?」

「え……、いや、そんな訳ないでしょ! それよりほら、私の酒も用意しなさいよ! 折角来たんだから、今日は沢山飲むわよ!」


 マイはジンの指摘を誤魔化すようにして、明るく宣言した。


「まぁ……、大丈夫そうか」


 ジンも、彼女を思いやってか、深く追求するような事はしなかった。


「さぁほら、酒ちょうだい! 酒!」

「マイ、飲みすぎは駄目だよ!? あと豆次郎さんも!」

「俺は! 酔ってなぁい!」

「酔いすぎですよ豆次郎さん……、水飲んでください」


 ジンは目の前に広がる、幸せな光景を嚙みしめていた。こんな風に、騒がしくも楽しい日々がずっと続いてほしい。これからもずっと。

 ジンは心からそう願っていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 結局豆次郎は酔いつぶれたが、自分の家でもあるとうふや風斗だったので、水だけ飲ませて放置してきた。ナギは高校の友人と遊びに行った。

 そんな訳で、ジンとソレイユ、マイの三人で柊剣道場に戻ってきていた。


「ジン、少しここで休ませてもらって良い? 少し飲みすぎたみたい」

「全然良いよ。折角だし、久々に泊ってかない?」

「それ良いね! 私も久々にマイと沢山お話したい!」


 マイとしても断る理由は無かったので、久々に柊剣道場に泊っていくことになった。

 とりあえずマイは一旦眠りにつき、ジンとソレイユはベランダに出て話していた。


「楽しかったね、さっきの宴会。相変わらず豆次郎さんが面白かった!」

「そうだな。あんなに楽しかったの、久しぶりだよ」


 風に吹かれて、どこからか桜の花びらが飛んできた。ソレイユはそれをキャッチして眺めていた。


「もう桜が咲く時期か。早いなぁ」

「……思えばこの六年、あっという間だったよね。ジンやマイと過ごしてた日々、あっちの世界での生活と同じくらい楽しかったな。でも、これからもっと楽しくなるよね!」


 ソレイユは桜の花びらを太陽にかざしながら、満面の笑みを浮かべて言った。

 そしてその直後、勢いよくジンに抱き着いた。


「……そうだな。これからもよろしくな、ソレイユ」

「うん! よろしく!」


 また飛んできた桜の花びらをお互い頭の上に乗せながら、二人は笑い合った。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 その夜、ジンとソレイユ、マイの三人で雑談しながら夕食を食べ、それぞれの場所で眠りについた。

 まだ寝床の準備ができていないのもあったが、ジンはまだ二人で寝るのは時期尚早だと思っていた。そんな訳で、彼はいつも通り布団にくるまって眠った。

 昨日と違いすんなりと寝付くことができたのだが、不思議な夢を見ることになった。


 ジンは気づけば、見知らぬ島の海辺に立ち尽くしていた。

 かなりの広さがありそうな島で、広い森や大きな山もあるようだった。遠目に家があることも分かり、無人島ではないことが伺える。

 ここがどこか調べないといけないと思い、ジンが歩き出したその時。

 ———彼の目の前に、ソレイユが現れた。

 だが、様子がおかしい。目に光が宿っておらず、顔色も悪い。まるで感情が抜け落ちたかのように無表情で、どこか遠くを見つめていた。


「ソレイユ……?」


 ジンは心配になり声をかけるが、反応は無い。そして無意識に、彼女の視線の先を見ていた。

 そこには船があった。島を出て、どこかへと向かっている。そして、その船のデッキには、白髪の少年が顔を出していた。どことなくソレイユと顔立ちが似ている気がする。


「ジン……、弟をお願いね」


 突然、ソレイユが口を開いた。


「ソレイユ!?」


 ジンはそれに驚いて慌てて振り返るが、彼女に異変が起きたのはその時だった。

 彼女の姿が徐々に歪んでいく。その歪みは空間にも広がっていき、ソレイユが転移してきた時の黒い穴に変化した。

 その穴から発せられた強力な吸引力に、ジンは一瞬で吸い込まれてしまう。抵抗する事もできなかった。

 穴の向こう側は、ただただ黒い空間だった。明かりも無く、何も見えない。何も聞こえない。完全な無が、そこにはあった。

 いつまでそうしていただろうか。ついに光が見えてきた。

 ようやくこの無から脱出できる。そう思い、その光に手を伸ばした瞬間、ジンは夢から覚めていた。


「ソレイユ……?」


 ひどい汗だった。拭いようのない疲労感も残っていた。

 時間は朝五時だった。

 昨日と同じ時間。

 ソレイユが外にいる時間だ。

 ジンは急いで玄関へと向かった。何故だか分からないが、物凄く嫌な予感がした。

 玄関にはソレイユの靴は無かった。

 きっと外にいるに違いない。ジンは自分にそう言い聞かせた。

 覚悟を決め、玄関の扉を開ける。


 ————そこにソレイユの姿は無かった。


「……え?」


 念のため家の周りも徹底的に探したが、彼女の姿はどこにも無かった。家の中も同様だった。

 その後目覚めたマイやナギ、豆次郎も一緒になって町中を探したが、彼女の姿はおろか目撃情報の一つすら無かった。

 ———ソレイユが消えた。

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