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第48話 その想い

 ソレイユが転移してきてから六年が経った。

 ジンは柊剣道場の師範の一人となり、マイは医療大学で医者になるための勉強に励み、ソレイユは柊剣道場の手伝いとして働いていた。

 六年間、そして今でも、彼らは暇さえあればソレイユの仲間の行方や、元の世界への戻り方を模索していた。だがあれ以来、目ぼしい情報は得られていなかった。

 ちなみにソレイユは、住み込みの手伝いとして働いているので、ジンとは同棲していることになる。そんな彼らの進展は……


「おはよう、ソレイユ。今日も頑張ろうね」

「今日は体験会だからね。沢山人が来るだろうから、お互い頑張ろ!」


 何ということだろう。六年も同棲していたというのに、彼らの進展と言えば、タメ口になったのと呼び捨てになったことくらいだった。

 彼らの関係は、ビジネスパートナーに近しい物になっていた。共に同じ場所で働き、共に仲間を探してあちこちを駆け回ったのに、彼らはほとんど進展していなかった。

 それを聞いて怒ったのがこの男、風斗豆次郎である。


「何だよお前! もうソレイユちゃんが来てから六年だろ? それなのにまだ告白もしてねーのかよ! このへなちょこがぁ!」

「先輩酔いすぎです。落ち着いてください」


 この日、ジンはとある居酒屋で、久々に豆次郎と会っていた。豆次郎はジンの本心を見抜いているので、会うたびにソレイユとの進展を聞き、一人でキレている。


「でもさぁ、ジンさんはソレイユさんの事好きなんでしょ? それなのにどうしてずっと告白しないでいられるの? 気持ち隠したまま同棲してる方が気まずくない?」


 そう言ったのは、十七歳の時雨ナギだった。彼は恋愛とかの話が好きなお年頃故に、豆次郎同様進展をしつこく聞いてくる。


「ナギの言う事も一理あるよ。でも、だからこそなんだよ! ソレイユは住み込みで働いて

る訳だからさ、俺が告白してもしもフラれたら? そうなったら、もっと気まずい関係が続

くんだぞ?」


 ジンがそう言った途端、豆次郎とナギの顔の色が変わった。そして、物凄い速度でまくし立てる。


「お前……、なんで自分がフラれる前提なんだよ! そんな弱腰じゃ告白成功なんてあり

えねーぞ!? お前がそこまで軟弱者だったなんて……、俺は悲しいぞ!」

「そうですよジンさん! そこは強気に行かないと! そんなビビってる間に、ソレイユ

さんが他の男に取られるかもしれないんですよ? 練習でいっつもソレイユさんの事見て

ますけど、惚れてそうな男何人かいますよ? だから急いだほうが良いですよ!」


 二人が一気に迫って来たので、ジンはその勢いに押されてしまう。そして二人を一旦落ち着かせて、ゆっくりと話し出した。


「……確かに俺がソレイユを好きなのは本当ですよ。でも、ソレイユもそうとは限らない。

彼女には仲間がいるんだ。その仲間達に勝てる自信なんて、俺には無いよ……」


 ソレイユが転移してから、彼女が仲間達の事を忘れた日など一日も無いだろう。ジンは自信が無かった。彼女にとっては仲間達の方が遥かに大切な存在であり、自分など足元にも及ばないだろうと。


「ジン……」


 これには、豆次郎も何も言えなくなってしまった。だが、ナギは違った。しばらくの沈黙の後、彼は語りだした。


「ジンさん……、確かにソレイユさんにとって仲間は大切な存在でしょうけど、それとこれとは違うんじゃないですか? それに、ジンさんもこのままで良いんですか? このまま何も言わずに、ソレイユさんが元の世界に戻っていくのを眺めているだけで良いんですか?」


 ナギの言葉に、今度はジンが何も言えなくなってしまった。

 本当にこのままで良いのか。自分の思いを押し殺したままで。

 結局その日はそれ以降会話が生まれることは無く、それぞれ家に帰っていった。


「ジン、おかえり! ナギ君と豆次郎さんと飲んできたんでしょ? 楽しかった?」

「あ、あぁ。相変わらず面白い奴らだったよ」


 何故かジンはソレイユと顔を合わせた時、いつも以上に緊張してしまった。それを誤魔化すため、ジンはさっさと自分の部屋に戻り、布団の中に転がり込んだ。


(やっぱり伝えるべきなのか……? アイツらのせいで変に意識してしまう……! どうすれば良い、俺!?)


 ジンは一晩中自問を続け、結局一睡もできなかったのである。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 気付けば朝の五時になっていた。今から寝ても大した睡眠はできないし、多分自問して寝れないだろうと思ったので、いっそのこと外の空気を吸って目を覚まそうと思った。

 顔を洗って、家の外に出る。東雲時の空が輝かしい時間帯だった。


「あれ、ジン? こんな時間にどうしたの?」


 何故か隣からソレイユの声が聞こえてきて、ジンは驚いて二度見してしまった。


「……ソレイユ!? どうしてこんな所に?」


 こんな朝早くに一体どうしたのだろうか。ジンは不思議に思い、彼女に尋ねる。


「私、毎朝この時間に起きて、ここで外の空気を吸ってから仕事を始めてるんです。これ、気持ち良いですよね」


 ソレイユは優しい笑みを浮かべながら、ジンにそう語り掛けた。

 太陽が顔を見せ始めた時間帯。今、ここには彼らしかいない。

 揺らいでいた。伝えるとしたら、今が一番良いのではないか。ジンが悩んで何も言えないでいるうちに、太陽はその姿を見せ始めていた。


「……日の出、綺麗ですね」


 ジンの隣でソレイユがぼそっと呟いた。

 その一言で、ジンは決心した。決心させるには、そのささやかな言葉と笑顔だけで十分だった。


「ソレイユ。……君に伝えたいことがある」


 彼は口を開く。長年の思いを伝えるために。


「ずっと君が好きだった。出会った時からずっと。……仲間の事が忘れられないのは分かってる。でも、仲間と会えない寂しさを、俺が少しでも和らげてあげられたらって思う。……この世界での、あなたの幸せになりたいんだ」


 顔を出した太陽に照らされながら、ジンは自らの想いをソレイユに伝えた。ソレイユは少し固まった後、頬を赤らめながらジンに抱き着いて、こう言った。


「……もう、十分幸せだよ。仲間と会えなくなって、最初は絶望してたけど、今ではちゃんと幸せを感じられてる。それも全部、ジンのおかげだよ。ありがとう」


 気が付けば、二人とも泣いていた。悲しみではない、幸せ故の涙を流していた。

 六年続いたジンの想いは、無事に結ばれたのだった。

 二人はこれからの幸せな未来を想像しながら、日が昇る空を眺めていた。

 ———幸せな未来は訪れないというのに。


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