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第46話 東雲時の希望

 ソレイユをなだめたジンは、彼女に肩を貸しながら柊剣道場まで戻って来た。


「ジン! ソレイユちゃん無事だったんだね!」


 先に戻っていたマイが二人に駆け寄って来た。そしてソレイユの頬に涙が通った跡があるのに気づき、彼女を優しく抱きしめた。


「ソレイユちゃん、私たちでよければ何でも力になるからね」

「はい……! ありがとうございます!」


 その後、ジンは父に事情を説明し、ソレイユは柊剣道場の使っていない客間に住まわせてもらうことになった。

 部屋を整えた後、ジンとマイの二人でこの世界の常識をできる限り教えた。ソレイユは覚えが早く、二人に教わったことを次々と覚えていったが、流石に一日に覚えられる量には限界があるというもの。疲れ果てた彼女はその場にぐったりと仰向けになった。


「うぅ……、もう限界です……」

「まぁ、流石にいきなりこの量は厳しいか。無理をさせた、ごめん」


 ジンは謝ったが、ソレイユは仰向けになって以降何も喋らなくなってしまった。


「……いきなり色々教えちゃった事、怒ってる?」

「いえ、そんなことは全然ないですよ。むしろ沢山教えてくれてありがとうございます。……私がこの世界に来てこんなに恵まれてて、仲間や島の皆に申し訳なく思っちゃって。私が本当に、こんなに恵まれていて良いのかって」


 ソレイユは寂しげな瞳で天井を見つめながら言った。


「君が恵まれてても良いんじゃない? 君の仲間や島の皆は、君を羨ましがって恨むような人達じゃなかったんだろう? だったら、同じ思いを皆にもさせてあげたいって、ポジティブに考えようよ!」


 ジンが自身の思う事を伝えると、ソレイユはまた涙を浮かべかけていた。


「ジンさん……、ありがとうございます。さっきも今も、あなたの言葉は本当に素敵でした。あなたは優しい人ですね」


 ソレイユは優しく微笑み、ジンにそう伝えた。

 ジンはこの時、初めての不思議な感情を覚えたような気がした。愛情に近いようでまた違う、そんな不思議な感情を。


「やっぱりジンはたまに良い事言うよねー。……ってジン、何照れてんだよ!」

「てっ……、照れてねぇよ! お前こそ何でちょっと不満げなんだよ!」

「ふふっ、二人とも面白い!」


 こうして、三人の新しい生活が始まった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ソレイユが来てから一週間が経った。

 ソレイユは生活の中で、次々と常識や教養を身につけていった。

 ジンとマイが学校に行っている間は、ジンの両親がソレイユの面倒を見ていた。二人とも彼女をとても気に入っていた。父は彼女の高い運動能力を買って剣術を叩き込もうとしたが、彼女は剣術だけが絶望的に下手だった。それでも父は彼女への対応を変えなかった辺り、本当に大切に思っているのだろう。


「マイ、明日と明後日って空いてる?」


 ある金曜日の帰り道、ジンはマイに問いかけた。


「空いてるけど……、ソレイユちゃん関係?」

「そうだ。彼女の仲間を探しに行こうと思って」


 その一言に、マイは少しも戸惑うことなく即答した。


「もちろん協力させて! ソレイユちゃんの仲間が見つかるなら、それ以上の事は無いもん! でも、どこに仲間が転移したかなんて分かるの?」


 マイの言う事は最もだった。だが、ジンは何か手がかりを得ているようだった。


「ネットに流れてる噂を聞いたんだ。千葉県の海沿いの街で赤い髪の少年を見たって。これってきっと、ソレイユの仲間の一人のアルバ君だよね?」


 ジンがネットで見つけたという写真を見せた。映りが悪く若干見にくかったが、確かに赤い髪の少年のように見える。


「これ……、アルバ君だよ! ソレイユちゃんが言ってた特徴と似てる! 今すぐ伝えないと!」


 二人は帰り道を全力疾走し、ソレイユにこの事を伝えた。


「えっ!? アルバが見つかった!? 本当ですか!?」

「多分ここに写ってるのはアルバ君だと思う。早速明日千葉に行って、彼を探そう!」

「はい! 勿論です!」


 それを聞いた時のソレイユの顔は、この世界に来てから最も良い笑顔だったように見えた。それを見て、ジンも思わず微笑んだ。


 翌日、朝五時。三人は早めに起きて車の到着を待った。


「そういえば、今日って誰が千葉まで連れて行ってくれるの? 車で行くって言ってたけど」

「そろそろ来るはずだ。……お、来た。先輩! こっちです!」


 白い軽自動車に乗って現れたのは、二十代前半と思わしき若々しい男だった。


「風斗先輩! 久しぶりです! 今日はありがとうございます!」

「あ、なんだ。先輩って風斗先輩の事ね」


 ジンとマイは、その男とは小学校から付き合いのある先輩後輩の関係だった。


「ソレイユちゃん、この人は今日車を運転してくれる、風斗豆次郎先輩!」

「おはよーうソレイユちゃん。ジンとマイと仲良くやってくれてるみたいで嬉しいよ。安全運転で行くから、そこは安心してくれて大丈夫だぜ!」

「はい! よろしくお願いします!」


 車に乗り込み、豆次郎がエンジンを吹かす。車は動き出し、ソレイユはその初めての感覚にとても興奮していた。


「えっ、これすごくないですか!? 私たちを乗せてこんなに速く動けるなんて!」

「この世界にはもっとすごいものがあるからな。仲間たちにも今度教えてあげるよ」


 適当に雑談したり、歌を流して全員で歌ったりしながら、四人を乗せた車は千葉の海沿いに到着した。


「……綺麗ですね」


 朝六時半、千葉の海は東からゆっくりと昇って来た太陽に照らされて、美しく輝いていた。その場にいた全員が、その目と記憶にこの景色を刻み込んだだろう。


「それじゃあ、探しに行こう。皆にもこの景色を見せるために」


 四人は早速動き出した。


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