第41話 社宅へようこそ!
十一月も終わりが近づき、僕の肌を包む空気はより一層冷たくなっていた。
そんな肌寒い早朝に、僕は社宅の前にいた。
何故、こんな寒い日に、中に入らずに外で立っているのか。それは――。
「おーいレイメイ! 待たせたな! 俺復活!」
遠くの方からジョンの大声が聞こえた。そして、四秒くらいで一気に僕の所まで走ってきていた。
そう、今日はジョン達の退院日。朝早くに病院を出てこちらに向かうと聞いていたので、寒い中ここで待っていたのだ。
「ジョン、あまり騒ぎすぎるとまた怪我しますよ」
遅れてカルザ達もやってきた。カルザは相変わらずの冷静さだ。
「みなさん、退院おめでとうございます!」
僕は一人一人と握手しながら、皆の無事を祝った。
「レイメイよ、入院している間にジョンとカルザから異世界について聞いたぞ! なんてファンタスティックな世界なんだ! 素晴らしいよ!」
ビリーさんと握手したところで、彼は突然僕に詰め寄って来た。そうだ、この人何故か異
世界大好きなんだった。
「……だが、そんな素晴らしい世界が魔王とやらに乗っ取られているというのは実にバッドだな。それを倒すために、お前らは頑張ってたんだって? すごいじゃねーか! 応援してるぜ、レイメイ!」
でもビリーさんは途中で真面目な顔になり、僕達を応援してくれた。
「……そうですね。必ず元の世界に帰って、魔王を倒します!」
僕は改めて、皆の前でそう宣言した。
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「なあレイメイ、ちょっといいか」
皆が社宅の中に入ったところで、シュウさんが話しかけてきた。
「この二人ってさ、これからどこに住むんだ?」
彼の後ろには、ジョンとカルザがいた。二人は最初からここに住んでいた訳ではない。新
しく住む場所が必要だった。
「うーん、柊さんからは何も言われてないんですよね。空いてる部屋とかあるんですかね?」
「その件は私から説明しよう」
僕が考えていると、突然ジョンの後ろから柊さんがひょっこりと顔を出した。
「うおっ、社長。相変わらず神出鬼没ですね」
「ジョン君とカルザ君の住む場所なんだけど、レイメイ君、君の部屋を見てみてくれないかい?」
柊さんに言われて、僕は自分の部屋の扉を開ける。
「……何か変わったところでもあるんですか?」
「ああ。実はね……」
柊さんは部屋に上がり、本棚の前まで移動した。そして本棚の本を一冊抜き取り、その隙
間に手を差し込んで、本棚を動かした。
「……まじっすか」
黄昏さんが呆然としている。
本棚は綺麗にスライドし、その奥に新しい空間が現れた。
「実はこの部屋は、元々私がおふざけで発注した部屋でね。二人部屋なだけじゃなくて、本棚をどかせば部屋を拡張できる仕組みも搭載させたんだ。パーティーとかに使えると思ってね」
柊さんの趣味だろうか、この部屋だけ特殊な仕掛けが施されていたらしい。でも、柊さんの言いたいことは大体察しがついた。
それはシュウさんも同じのようで、「社長、まさか……」と顔を青くして言っていた。
「そう。この広くなった部屋で、四人で住んでもらおうと思ってね」
柊さんの口から語られたことで、僕の想像は現実となった。
「じゃあ、ジョンとカルザと一緒に住めるって事ですか!?」
「そうだ!」
それを聞いて、僕とジョンとカルザは三人で飛び上がった。
「やったな二人とも! これで俺たち一緒だ!」
「一回皆で泊まってみたいと思ってたんですよ! それがまさか共住になるなんて……!」
二人とも嬉しそうだったが、尋常じゃないくらい慌てふためいている人物が一人。
「社長! それつまり、三人の面倒を俺一人で見ろって事ですか!?」
シュウさんは全力で柊さんに抗議していた。
思い返してみれば、料理や洗濯、その他もろもろの家事は、今まで全てシュウさんがやってくれていた。人が増えれば、その分仕事量も増える。そう考えると、シュウさんが嫌がるのも当然に思えた。
「うん、シュウ君には悪いけど……」
「シュウさん! 僕家事手伝います!」
何としてでも四人で住むのを許可してほしかったので、僕はシュウさんにそう宣言した。
「これまで沢山シュウさんがやっている所を見てきましたから、僕にもできる事はあるハズです!」
「レイメイ……」
僕の発言を聞いて、シュウさんの瞳が若干うるんだように見えた。
「俺たちだって、爺さんの家で色々手伝いしてたから、レイメイよりは役に立つと思うぜ?」
ジョンも僕に続いてシュウさんの手伝いをすると言ってくれた。なんかしれっと下に見られた気がしたけど、まあいいや。
「僕ももちろん手伝いますよ。住まわせてもらう以上は当然の事です」
カルザも合わせて、僕達は三人でシュウさんに詰め寄った。
「……分かった、四人で住むぞ!」
「「「ヤッター!」」」
シュウさんの許可を得て、改めて僕たちは舞い上がった。
「それじゃあ、皆退院したばかりだろうから、今日はジョン君とカルザ君が住む準備だけできたら、あとは休んでていいよ。色々と話したいこともあるだろうし、ゆっくりしてね」
そう言って、柊さんは部屋を後にした。
「よし、そうと決まればお前ら、部屋整えるぞ!」
「「「おー!」」」
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僕達は意気揚々と部屋の整理を始めた。
レイメイ達の部屋を出て、ジンは電話をかけながら本社へと向かった。
『そっちから掛けてくるなんて珍しいじゃん。どうしたの、ジン』
電話の相手は、アマテラス専属の医師にして、ジンの幼馴染でもある九十九マイだった。
「ああ。……例の件、そろそろ皆に話すべきなのかな?」
『そうだな……、イングズっていう明確な敵も見えてきた訳だし、そろそろ頃合いなんじゃないか? 逆に、今を逃したらますます言いにくくなるんじゃ?』
マイの発言を聞き、ジンは一呼吸置いて返事をした。
「……そうだね。覚悟を決めるよ」
そこで二人の通話は終わった。
設定こぼれ話
ジョンとカルザは現実世界に来てから、自分たちを拾ってくれた沖野タダシの手伝いをしながら生活していたため、ある程度は現実世界の常識が備わっている。




