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番外編 社長・刑事・店主の会談

 十一月二十日。東京を襲った未曾有のテロから五日が経った。

 早いもので、東京は少しずつ復興が進んでいた。環境エネルギー党も、自分たちにも責任があると言って、積極的に復興支援を行っているようだ。

 そしてここ、アマテラスが本社を構える横浜の街の一角にある隠れた名店、とうふや風斗では。


「ふぁー、今日もよく寝たぜ!」


 とうふや風斗は一階が店、二階が従業員用の部屋(現在住んでいるのは豆次郎と妻の二人だけ)になっている。その二階から、二代目店主・風斗豆次郎が降りてきた。

 支度を整えてきた彼は、厨房に足を運び、そこに置いてあったタオルを頭に巻き付けて、下準備を始めた。

 豆腐の在庫確認、その他調味料の仕込みなど、やることは多い。

 そして二時間が経ち午前七時、大方の準備を終えた豆次郎は、豆腐を取り出して料理を始めた。

 この店は朝の営業はしていない。だから普段は自分と妻の分しか作らないのだが、今日の豆次郎は違った。いつもより多めの豆腐を準備し、テキパキと料理を始める。

 まずは妻の分の料理を作り、先に食べてもらう。そして食事を終えた彼女は買い出しに出かけていった。


「……よし、行ったぞ」


 豆次郎が言うと、店に二人の男が入って来た。

 一人はとうふや風斗のお得意先、アマテラスの社長・柊ジン。もう一人は、アマテラスと深い繋がりを持つ刑事・岡田。

 二人とも、それぞれで店に訪れることはあったが、二人一緒に来たのは初めてだった。


「豆次郎さん、わざわざ開けてくれてありがとうございます」


 ジンは豆次郎に感謝の意を述べた。


「気にすんな。それで、わざわざ誰もいない朝の時間帯に来たって事は、やっぱり何かヤバい事について話すのか?」


 豆次郎が聞くと、二人は静かに頷いた。

 ちなみに豆次郎は、何だかんだあって話を聞くのを許されていた。二人とも彼を十分信頼している。


「もう朝飯は作ってあるぞ。ほら」


 豆次郎はジンと岡田に朝食を振る舞う。炊き立ての白米に焼き鮭、そして豆腐とわかめの味噌汁という、とても質素だが食欲をそそる献立だ。


「相変わらずの腕前だな、風斗さん!」


 岡田はそう言うと、茶碗を手に取り白米を口に入れた。その余りの美味しさに表情が緩んでいる。


「岡田さん、それで今回の件なんですが……」


 同じく白米に手を付けていたジンが本題を切り出す。岡田は表情を戻して聞く姿勢を整えた。


「そもそもの始まりは、環境エネルギー党が私たちに依頼をしてきたことなんだ。最初は私も、ただの脅迫程度にしか思っていなかったんだけど……。奴らは選挙当日、実際に行動を起こした。そして同時刻、福島に隠れていたジョン君とカルザ君が誘拐された」


「成程。確かテロを起こしたのが革命軍、ジョンとカルザの誘拐をしたのがイングズ、だったな。つまり今回は、この二つの組織が複雑に絡んで起きた一連の事件、って訳か」


 岡田が状況を整理しつつ相槌を打った。


「はい。そしてジョン君達を誘拐したイングズはそのまま東京に向かった。その後は岡田さんも知っていると思いますが、革命軍が環境エネルギー党を襲撃、そして東京各地でテロを開始。イングズはジョン君達を追っていた岡田さん達を妨害し、Sをけしかけてきた。そしてS達イングズはそこで手を引き、革命軍を無力化したことで、今回の件は無事に鎮圧された」


 一通り状況を語り終えたジンは、味噌汁を口に流し込んだ。丁度いい温度の液体が食道を

通りながら体全体を温めていく。


「まぁ、偶然革命軍がテロを起こした日と、イングズが誘拐を決行した日が同じだったってところだろ。実際イングズは革命軍に対して何もしてない訳だし」


 岡田は箸で鮭の身をほぐしながら食べていく。焼き時間を秒単位で調整した鮭の焼き加減はまさに至高であった。


「ただ、革命軍はイングズに危害を加えているんだ。岡田さんがテロの平定に向かった後、レイメイ君達はイングズの車を追ったみたいだけど、そこでイングズの車ごと爆発が起こったと。革命軍とイングズは敵対関係にあると見て良いと思っている」


 ジンはそこまで話すと、一旦口を止めて麦茶を飲んだ。少し冷えた麦茶が、長時間話して疲れた喉を癒してくれる。

 そして一息つくと、再び語りだした。


「革命軍の今回の動機は、『環境エネルギー党党首・神宮ヤマトへの恨み』という事しか分かっていない。ただ、並々ならぬ恨みがそこにはあったと思う。そこで調べてみたところ、神宮の経歴に怪しいところがあって……」

「それがこの、党設立の前の二年間にある謎の空白か」


 岡田は渡された資料を見ながら言った。


「はい。調べたところ、その二年間で、神宮の姿は一度も目撃されていないそうで。当時彼が所属していた政党も詳細は全く知らないらしく、ある日突然消えて、ある日突然帰って来たと。そして帰って来たと思ったら、突然独立して政党を作った。……私は神宮に何かあると思っている。そして多分、その二年間に何か鍵がある」


「神宮か……、アイツと繋がりがある警察上層部の人間はそれなりにいると聞く。もし万が一のことがあったら、そっちは俺が何とかする。だが、革命軍の奴らがそこまで怒り狂うなんて、神宮は一体何をしでかしたんだ?」


 岡田もジンも、丁度完食したタイミングのようだった。箸を置いて、ジンがその問いに答える。


「それはまだ分からない。だが、奴の真実は必ず暴いてみせる」

「……あのー、さっきから話が突飛すぎて全く内容が入ってこないのですが、神宮さんが何かやらかしたっていうのは本当なんですか?」


 話に全く着いて行けず、何も言えていなかった豆次郎が質問した。


「彼が何をしたのか、そもそも本当に悪事を働いたのか、それはまだ分かっていない。でもそれを抜きにしても、神宮の空白の二年に、環境エネルギー党の異常な資金繰りなど、怪しい点が多い。風斗さんも、環境エネルギー党に票を入れるのは念のため控えてください」


 ジンからはそれだけだった。


「風斗さん、今日はわざわざ店を開けて、美味しい朝食まで振る舞ってくれてありがとうございました。これからも得意にさせてもらいますね」


 そう言って、ジンと岡田は帰っていった。

 ジンは神宮の謎について考察し、岡田はようやくジンと一緒に飯を食べられた喜びに身を躍らせ、豆次郎は圧倒的な情報量に困惑しながら、彼らは残りの一日を過ごしたのだった。


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