第40話 そして続く
十一月十八日。東京を襲った未曾有のテロから三日が経った。
柊ジンは、とある高級レストランにてとある男と待ち合わせをしていた。
「遅れて申し訳ありません、神宮さん」
ジンよりも早く席に座っていたのは、今回のテロのターゲットとなった張本人、環境エネルギー党の党首・神宮ヤマトであった。
「いえいえ、私が時間よりも早く来すぎただけです。お気になさらず」
神宮は笑みを浮かべながら、ジンに席に座るよう促した。
「報酬の方は、たんまりとお支払いしますよ。私が想定していたよりも遥かに大きな被害が出てしまったし、何より彼らがいなければ私も死んでいましたからね」
神宮は改めて、ジンに礼を言った。このレストランでの食費も彼が持つようだった。
「それで、わざわざこの為に私を呼んだわけではないですよね? 何か私に、聞きたいことがあるんじゃないですか?」
「……正直気になってまして。本当に潔白な政治家が、ここまで恨まれる物かと。今回の革命軍の連中の行動は常軌を逸しています。貴方を殺すためにここまでやるなんて、何か相当大きな恨みがあるのだと思いませんか? 神宮さん、心当たりがあるなら教えてください」
スープが届いたあたりで、ついにジンが本題を切り出した。
「…成程。政治家というのはいくら健全に活動をしていても、人から恨みを買ってしまう時がある。私が偶然どこかで、そのリーダーであるシオンの恨みを買ってしまい、偶然そのシオンが、私を殺すためだけにこんなテロを起こすほど狂った人間だったというだけだと思いますけどね」
神宮はスープに口を付けながら淡々と述べた。
「先日、シオンの取り調べが始まりました。彼の本名は木犀シオン。この名前に聞き覚えはないですか? 奴は詳細こそ黙秘を貫いていますが、貴方を恨んでいるという事は何度も伝えてきました」
メインディッシュの肉に手を付けながら、ジンは神宮に疑いの目を向けた。
「さあ? 特徴的な苗字ですし、会ったことがあれば覚えているはずですが、そんな名前は聞いたことが無いですね。やっぱり彼の逆恨みじゃないですか?」
神宮は肉をたいらげながら言った。
「…そうですか。ところで話は変わりますが、環境エネルギー党の資金の流れを調べさせていただきました」
ジンは話題を変え、鞄から数枚の資料を取り出した。同時にデザートが届いたので、食べながら話を進める。
「党の収入のほとんどが、この『新エネルギー開発』に使われているみたいですが、これは一体何をしているのでしょう?」
驚くべきことに、環境エネルギー党の収入の七割以上が、その一つのみに注がれていた。
それを見せられた神宮は、一瞬言葉に詰まったような気がしたが、すぐに語りだした。
「見ての通り、新エネルギーの開発ですよ。環境を破壊しない、持続可能な様々な発電方法などの研究に、我々も尽力しているんです。我々は政党であると同時に、地球の未来を救うために活動する研究者でもあるんです。もちろん、政治活動には資金面ではほとんど影響は無いので、そこはご安心ください」
神宮はそう言うと同時に、デザートを完食したようだった。
足早に立ち去ろうとした神宮だったが、それを止めるようにジンが話し出す。
「それだけじゃありません。貴方の経歴も調べさせていただきました。十五年前から二年間、貴方の経歴に空白があった。そしてその二年のすぐ後に、自身の政党を立ち上げている。一体貴方はこの間に何をしていたのですか?」
ジンは詰め寄るが、神宮は鬱陶しそうに彼をいなすと、鞄を手に取った。
「では、この後も予定がありますので私はこれで。あ、ここのお代です」
神宮は話を終えると、さっさと支度を整えて、二人分の食事代を置いて店を後にした。
「…また駄目だったか」
ジンは鞄からある一枚の写真を取り出して、それを感傷に浸りながら眺めていた。
そこに映っていたのは、金色の髪をした美しい女性だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あのテロ事件から四日が経った。僕も十分休みをとり、体力が回復してきたので、今日はやっと病院に皆のお見舞いに行くことができる。
僕は柊さんの車に乗せられて、まだかまだかとその時を楽しみにしていた。
「お、そろそろ着くね」
柊さんがそう言って、前を指さした。この辺りでも大きな病院のようで、整えられた自然の中に沢山の人が集う憩いの場になっていた。
「えーっと…、皆の病室は、三階か」
柊さんに着いて行き、階段を上っていく。一段上るたびに、心臓の鼓動が高まるのを感じた。
「お、みんな同じ病室にいるみたいだね」
柊さんが病室のドアに手をかける。僕はもう待ちきれずに、その手をどかして病室の中へと入りこんだ。
「レイメイ!」
病室に入って、真っ先に僕に気付いて声をかけてくれたのはジョンだった。彼は病院のふかふかなベッドで、思い切りくつろいでいるようだった。
「ジョン! 怪我は治ったのか!?」
僕は嬉しくて、ついベッドの上のジョンに飛びついて抱き着いていた。
「ちょっとレイメイ、いてーよ! これじゃまた怪我するだろ!」
ジョンは顔をしかめながらそう言うが、声はとても嬉しそうだった。
「おいレイメイ、一応病院だ。あまりうるさくするな」
カーテンを開けて僕に注意したのはシュウさんだった。寝ていたところを起こしてしまったらしい。
「そういえばジョン。お前はこっちに流れ着いた後、どうしてたんだ?」
僕はずっと気になっていたことをジョンに聞いた。
「それは僕から説明しますよ、レイメイ」
突然隣のベッドのカーテンが開き、そこからカルザが顔を出した。
「カルザ!」
「僕たちがあの渦潮に巻き込まれた後、目を覚ましたのはどこかの海岸でした。周りを見渡してもジョンしかいなかったので、僕は魔法で助けを呼ぼうとしたんです。…そしたら、空気中に魔力が無いことに気が付きました」
「その後、どうしようかと悩んでたら、突然遠くから船長が走って来たんだ。何故か物凄く混乱していて、とにかく『逃げて隠れろ』としか言ってなかったな。それだけ言ってすぐにどこかに行っちゃって。途方に暮れてたところを、爺さんに助けてもらったんだ」
爺さん。イングズに殺されてしまった沖野タダシさんの事だろう。頭を銃で撃たれて即死だったようだ。
「爺さんはこの世界で右も左も分からない僕たちを拾ってくれて、とても優しくしてくれました。爺さんにこの世界のいろいろな事を教えてもらって、僕たちは爺さんの生活の助けをする。質素でしたが、とても平和な生活でした。そんな日々が続くと思っていたのに、イングズに襲撃されて、爺さんは殺された。僕たちも戦おうとしましたが、麻酔を打たれてしまい、何もできなかった…!」
カルザは悔しそうに顔をゆがめた。
タダシさんは、僕にとっての柊さんのような人だったのだろう。二人を助けてくれた事には感謝しかない。
「…僕も、お礼を言いたかったなぁ。『二人を助けてくれてありがとう』って。」
「やっぱり、生きてるってすごく偉大な事なんだな。俺も、こうしてレイメイに会えて、レイメイの仲間たちとも会えて、本当に良かったと思ってるぜ!」
ジョンが僕の肩を叩きながら言った。
「よし、それじゃあレイメイ君とジョン君、カルザ君の再会祝いと、俺たちの退院祝いで、退院したらとうふや風斗で宴会しようぜ!」
いつの間にかカーテンから顔を出していた時雨さんが堂々と宣言した。
「おおっ! とうふや風斗! 最近行けてなかったからな、大歓迎だぜ!」
「おいビリー! ここは病院だ! 少しは声のボリューム下げろ!」
ビリーさんとシュトラウスさんはいつもの言い合いを始めていた。
「はぁ、なんでこいつらはいっつも喧嘩するんだよ…」
それを呆れた様子で、鬼灯さんが眺めていた。
「でも本当に、みんなでまた会えて良かった!」
僕は、皆で生きてこの時を分かち合えることが本当に嬉しかった。
島の仲間も、アマテラスの仲間も、どっちも僕の大切な人達だから。
第二部 完
作者の炭酸おんです。第二部最後まで読んでくださりありがとうございます!
第二部はかなり激動だったと思います。レイメイのバディであるシュウの過去も明かされましたしね。レイメイが仲間と再会できて何よりです。
そして第三部は「東雲時の断罪」史上最も大きな衝撃展開が待っています。伏線回収&衝撃展開の連続になるかと思います。
第三部はかなり自信のあるシナリオなので、そちらもまた読んでいただければ嬉しいです。
では、また第三部で会いましょう!




