第37話 アマテラス敗北
時は現在に戻る。
シュウの脳裏に巡った、弟を失った記憶。
彼はまた、守れなかった。目の前でバディを殺された。
その時になって、シュウは初めて気づいた。自分が無意識に、ハルトとレイメイを重ねていたことに。二人はよく似ていた。
シュウの記憶の奥底に刻まれた、弟を失った瞬間の激しい憎悪。それが今、蘇った。
「あああああああああ!!!」
シュウは半狂乱になりながら、銃を乱射した。だが、その銃撃は正確に、四人の心臓部分に着弾した。
「防弾チョッキ、着てない訳ないだろ!」
だが当然と言うべきか、全員防弾チョッキを装着しており、致命傷にはならなかった。
「だから何だよ」
シュウはそんな事、意にも介さなかった。
「お前」
シュウは一番近くにいた、レイメイを火の海に落とした大男に狙いを定めた。
そこからの行動はほぼ一瞬だった。
大男がシュウを捕まえようと動くが、それより尚速く、シュウはそれを避け、背後に回り込んだ。
そして、防弾チョッキで守り切れていない両腕と両足にそれぞれ二発ずつ弾丸を直に撃ち込んだ。
「———!」
大男はそのあまりの痛みに、声も出せぬまま気絶した。
「——シュウ!」
暴れ狂うシュウの姿に、かつてと同じものを感じたナギとケンタが、彼を止めようと動き出す。しかし、それを阻む者がいた。
レイメイを撃った眼鏡のスナイパーは、今度はナギとケンタに狙いを定めていた。
そして、走り出しの直後を狙い、撃ち抜いた。
「くっ…! またお前か!」
足を撃たれ、地面に倒れこんだナギが吠えた。
「おいビリー! こっちの相手をしてる場合じゃない! まずはあのスナイパーを何とかしないと、オレたち全滅するぞ!」
シュトラウスはスナイパーを標的に定め、彼がいるビルの入り口に近づいた。しかし、革命軍がそれを黙って許す訳がなかった。
「…チッ、ただで行かせてくれるって訳ではないか」
入り口前に二人が立ちふさがり、ビリーとシュトラウスの行く手を阻む。
「ビリー! 上からの狙撃に注意しつつコイツらを倒す!」
「言われなくても分かってらぁ!」
ビリーとシュトラウスは男二人との戦闘を開始した。肉弾戦を主としながら、隙を見て銃
を撃つという戦いが繰り広げられた。
だが、ビリーとシュトラウスは目の前の男二人だけでなく、上からの狙撃にも警戒しなく
てはならなかった。スナイパーの存在自体が脅威となっていた。
「クッソ、意識を集中できない! 気が狂いそうだ!」
ビリーがしびれを切らし、一気に勝負を決めにかかる。
ビリーは銃を構えた。男はそれを見てすぐに避けようとする。何度も繰り返した光景だ。
「お前じゃねぇよ、バーカ」
だが、ビリーの標的は目の前の男ではなく、シュトラウスが相手していた男だった。
予想外の方向からの攻撃に、シュトラウス側の男は反応しきれなかった。足を撃たれ立ち尽くしていたところを、シュトラウスによって倒された。
「よそ見してんなよ!」
考えもしなかった行動に驚いた男は、一瞬固まってしまった。だが、歴戦の猛者であるビリーの前では、その一瞬が命取りとなる。
ビリーは瞬時に男の足を撃ち抜き、首元に手刀を叩き込んで気絶させた。
「よし、さっさと中に―――」
ビルの入り口に走ったビリーだったが、その瞬間、横から足と肩を撃ち抜かれた。
「彼はデリケートなんだ。狙撃に集中させてあげてくれよ」
シオンが銃片手に、こちらに迫っていた。全員、彼がフリーになっていることに気が付かなかった。
「お前…!」
シュトラウスはすぐさま反撃に出ようとしたが、今度はスナイパーによる上からの狙撃で足を撃ち抜かれ、立つのが困難な状況に追いやられてしまった。
「さて、あとはお前だけか、狂犬」
シオンは、相手していた男を完膚なきまでに叩き潰していたシュウを見据えて言った。
「…殺す!」
シュウは走り出した。シオンが銃を乱射し、スナイパーが狙うが、シュウには当たらなかった。
「…やっぱり偉大だよな、復讐の力って」
シオンはシュウの姿を見て、何故か誇らしげに言った。
「うるさい喋るな!」
シュウは牽制として一回発砲した後に、一気にシオンに近づき肉弾戦を開始した。
「お前のマシンガンは近距離じゃ使えねェだろ?」
激しい拳の打ち合いが両者の間で繰り広げられる。だが、極限の怒りと集中で血の色に染まっているシュウの目は、シオンのわずかな隙を見逃さなかった。
シオンの顔面に、渾身の拳を叩きつける。シオンは驚いた表情を浮かべながら、鼻血をまき散らし体勢を崩した。
「死ね…!」
シュウがとどめを刺そうとしたとき、彼に異変が起きた。
シュウは突如動きを止め、苦しそうに息をした後、その場に倒れてしまった。
「……普通ではありえない程の激しい運動を怒りで強引に続けた結果、失神したか。ざまぁないね」
シオンはシュウが気絶したのを見て、安心した様子で近づいてきた。
「本当は君たちを、アマテラスとの交渉材料に使おうと思っていてね。だからスナイパーにも頭は狙わないように頼んでいたんだ。それなのに君は、私たちを容赦なく殺そうとした。君だけは生かしておくわけにはいかないよ」
シオンがシュウに銃を構えた。
アマテラス敗北。それでしか言いようのない光景が広がっていた。
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…あれ? おかしい。
僕は足を撃たれ、火の海に落とされた。
でも、何故か熱さは少しも感じなかった。むしろ感じたのは、懐かしさだった。
かつてイリベルタ島にいたころ、僕は炎の魔法を扱っていた。
空気中に漂う魔力を吸い込み、全身に行きわたらせ、極限の集中により炎を発生させる。
その感覚に似ていた。
九十九さんが僕の手当てをしてくれていた時、こんな事を言われた。
『君の体…、特に肌はだいぶ特殊だね』
九十九さん自身、どこが特殊なのかはよく分かっていなかったみたいだが、やっと理解した。
僕の体は炎に耐性がある。これまでは魔力から発生させた炎しか使ってこなかったから分からなかったが、それ以外の炎に触れて初めて分かった。
僕の肌は一瞬だけ焼けただれたが、それらはすぐに治っていった。それだけじゃない。撃たれた足の傷も、少しずつ回復していた。
これなら、行ける。
僕は皆を助けるため、火の海から飛び出した。
その戦士、炎を纏いて戦場を駆ける。




