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番外編 戦士の恋愛事情

 レイメイ達が魔王討伐に出発する二ヶ月前。彼らは島で修業に励んでいた。


「俺たち、二ヶ月後についに魔王討伐に出発するんだよな!」


 その日の訓練は終わり、既に夜になりかけていた。四人が各々の家へと帰る中、ジョンが言った。

 今日、彼らは魔王討伐に出発する日を隊長から伝えられていた。ついに自分たちの努力が報われる日が来ると、皆浮き足立っていた。


「ああ。やっと魔王を倒して皆を自由にしてあげられる!」


 レイメイが心の底から湧き上がる喜びを放出するかのように言った。彼は特段優しいから、縛られている島民の姿を見るのが本当に苦痛だったのだろう。しかも、彼の姉は魔王討伐に向かったきりである。一層魔王討伐に心を燃やすのも無理はない。


「それまでに、やりたいことはやっておかないとですね。幸いにも明日は久々の休みですし、皆で何かしますか?」


 カルザが淡々と言ったが、彼も心の奥底にある喜びを隠しきれていない。なんだかんだ言って彼は感情豊かなのだ。


「あーカルザ、その件なんだけどさ、ちょっと俺に付き合ってもらえないか? 少しやりたいことがあってな」


 ジョンがカルザに耳打ちした。それを見たスザンナが、


「ちょっと、二人とも何コソコソ話してるの! 気になるから私にも聞かせて!」


 二人の間に割って入った。


「ちょっ! これは特にお前にゃ聞かれちゃまずいんだ! カルザ、行くぞ!」

「えっちょっまっ」


 ジョンはカルザを軽々と担いでせっせと走っていってしまった。


「もう…、魔法まで使って逃げちゃって。レイメイ、あの二人何しようとしてるんだろう?」

「あっ、えーと…、ごめん。僕にもわかんないや」

「うーん…、まあいっか!」


 二人のことは気にせず、レイメイとスザンナは二人並んで帰っていった。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ちょっとジョン! いきなりどうしたんですか!?」


 島にある山の頂上近くまで登って来たジョンとカルザ。そこでやっとジョンはカルザを降ろし、話を始めた。


「カルザ、単刀直入に言う。お前の休み、俺にくれ!」


 普段はふざけているジョンがあまりにも真剣に頭を下げたので、カルザは面食らって断ることができなかった。


「…それで、何がしたいんですか?」

「…これはあくまで俺の推測だが…、レイメイとスザンナは両想いだと思う」


 ジョンのあまりに突飛な発言に、カルザの脳内の宇宙がビッグバンを起こした。星々は暗黒の空間で輝き、それを巨大な衝撃波が呑み込んでいき、そして何も残らない無がそこに残る。そしてその末にカルザは…


「…よく聞こえなかったのでもう一回お願いします」

「聞いてなかったんかい!」


 その後ジョンはもう一度カルザに説明し、カルザは天地がひっくり返ったくらい驚いた。


「成程…、それで二人をくっつけるための策を考えてほしいと。」

「そうだ。そして明日は休みだから大チャンス! 頼んだぞ、カルザ!」


 カルザは少し頭を抱えた後、ジョンに向き直って言った。


「僕もあの二人には幸せになってもらいたいです。やっぱりすべきことは魔王との戦いの前に済ませておかないと。協力しますよ、ジョン!」


 カルザは笑ってピースサインを突き出して承諾した。


「よし、じゃあ早速考えるぞ!」


 二人は策を講じた。夜遅くまで考え続け、そしてついに、最強のデートプランが完成したのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その日は良い晴天になった。明るく照り付ける光は、何か楽しいことが起こることを予感させる。


「レイメイ、スザンナ! 昨日俺とジョンでこの島を巡る計画を考えてきたから、一緒に回ろうぜ!」

「魔王の元へ旅立つ前に、しっかりとこの島を記憶に刻んでおくべきだと思いますよ」


 ジョンとカルザは早速レイメイとスザンナを誘っていた。ここで断られてしまったら元も子もない。


「面白そうじゃん。行ってみようよ、レイメイ!」

「…うん。みんなで行こう!」


 二人とも乗り気のようで、ひとまずは胸をなでおろした。だが本番はここからだ。ジョンとカルザの手で、二人を良い感じの方向に誘導しないといけない。


「よし、じゃあ最初の場所に向かうぞ! ついて来い!」


 四人が最初に向かったのは長い橋だった。橋からその下にある川までの高さはそれなりにある。橋の古さもあり、島内でもほとんど近づかれることが無い場所だ。


「魔王と戦うための度胸試しってことで、俺とカルザ、レイメイとスザンナでここを渡ってもらうぜ!」


『好きな人と極度の恐怖感と緊張感を感じると、相手を頼りたい、もしくは相手を守りたいという思考が生まれるかもしれません。なので二人にあの橋を渡ってもらって、良い感じの空気になってもらいましょう』


 昨日の作戦をジョンは思い出す。カルザ曰く、自分たちが渡った後に渡ってもらえばさらに焦りが強まり、好意が強まる可能性があるらしい。だから、まずは自分たちが渡り切らなくては。

 ジョンとカルザの二人は橋に一歩踏み込む。

 見下ろせばはるか下に荒れ狂う激流。橋は非常に不安定で、一歩進むたびに大きく揺れて恐怖心をあおる。


「うぅ…、思ったより怖いな…」


 ジョンは想像以上の恐怖に震えていたが、カルザはもっとひどかった。顔は青ざめてガクガク震えている。それでも作戦考案者か。


「…あああ! もう限界です!」


 ついに恐怖に耐えきれなくなったカルザは、魔法で橋を丸ごと凍らせてしまった。それにより多少滑りやすくなったものの、強度は圧倒的に上がり、恐怖は感じなくなってしまった。


「カルザァァァァァ! 何やってんだァァァァァ!」


 ジョンは怒った。これでは作戦が台無しだ。


「…すいません、想像以上に怖かったのでつい」

「おっ、これなら余裕そうだな。カルザ、ありがとな!」


 案の定、レイメイとスザンナの二人は大して恐怖することもなく、あっさりと橋を渡り切ってしまった。


「チクショー、次だ次!」


 彼らが次に向かったのは海辺だった。ちょうど漁に出ていた船長、ロールが戻ってきていた。


「船長、おはようございます! 今日は大漁でしたか?」

「ああ、今日は大漁だ! たくさん食べろよ!」


 ロールは魚が大量に入った袋を掲げて言った。


「次は船長にも協力してもらう。船に乗って海を見に行くぞ!」


『綺麗な物を好きな人と一緒に見ると、一体感が高まって良い空気になるはずです。なので船長に協力してもらって海に連れて行ってもらいましょう。僕たちも海の景色はあまり見たことがないので、きっと効果があるはずです!』


 昨日カルザが言っていたことを思い出す。ジョンも海の景色は気になっていたので、一石二鳥だった。


「よーし、出発するぞ!」


 ロールが船を出した。少しずつ透明な水の下にクリーム色の砂が見えてきて、徐々にそれは見えなくなっていく。


「下を見てみな。魚が沢山泳いでるぞ」


 ロールが海の下を指して言った。やや不透明ではあったが、海の下で元気に泳ぎ回る小魚やカラフルな海藻が舞踏会でもしているかのように舞っているのが見えた。


「すごい、綺麗!」

「こんなの初めて見たよ!」


 レイメイとスザンナの二人も喜んでいるようである。だが、彼ら以上に興奮していた人物が一人。


「…素晴らしい! これほど沢山の種類の魚たちをこの目で見られるなんて…! 僕は最高の気分です!」


 カルザが普段からは想像できないほど興奮していた。そして、ジョンは彼に魔力が集まりつつあるのを見た。


「おいカルザ! やめろ!」

「これは…、この上なく最高だッ!!!」


 カルザが両手を広げると同時に、辺りの海面一帯が凍り付いてしまった。魚たちは一斉に逃げ出し、海の下も見えなくなってしまった。


「カルザァ…」

「…すいません、僕としたことが興奮しすぎてしまいました。これほど多種多様な生命を間近で見られたのが初めてだったので…」


 これには流石のカルザもうなだれていた。これ以上彼を責めても仕方ないだろう。


「船は氷が解けたら回収するから大丈夫だ。この氷の上を歩いて海岸まで戻るぞ。幸いまだそこまで距離はない」


 四人はロールと共に船を脱出して海岸へと戻って来た。


「…仕方ない、次に移るぞ!」


 次に四人が向かったのは森の入り口だった。ジョンは大きい木の実を四つ、持ってきた。


『誰が木の実を一番早く割れるかの勝負をしましょう。勝負の中で互いをより繊細に認知していい感じになるかもしれません。あ、ジョンは魔法で筋力強化しちゃダメですからね』


 四人は石を持って木の実と向き合った。


「よし…、よーいドン!」


 ジョンの掛け声で四人は一斉に木の実を石で叩き始めた。


「負けないからね!」

「僕だって!」

「勝つのは僕です!」

「うおおおおお!」


 四人とも真剣勝負だった。しかし、熱が入りすぎた。ジョンは気合が入りすぎて、手加減していたことを忘れて、自慢の剛力で木の実を叩き割ってしまった。


「ごふっ!?」


 あまりに勢いよく割れたので、木の実が隣にいたレイメイにぶっ飛んで顔にヒットした。


「ジョン…、魔法使うなって言いましたよね…?」

「うん…、ごめん。力みすぎた」

「ジョンー! 顔に汁ついて気持ち悪いよ! どうしてくれるんだよ!」

「ハハハハ! レイメイ、顔すごい面白いよ!」


 その後も何個か試したが、どれもジョンとカルザがやらかしてしまい、失敗に終わってしまった。そして、二人に告白させることなく、夜になってしまった。


「ハァ、ハァ…」

「いやー、今日は滅茶苦茶だったね。特にジョンとカルザが大暴れでさ!」


 一日中遊びまくって疲れた四人は砂浜に寝そべっていた。


「…にしても、星が綺麗だね」


 スザンナが呟いた。彼らの視線の先には、無限を彷彿とさせるほど深い黒の中でぽつぽつと光り輝く星々があった。


「…レイメイ、スザンナ。ごめん。俺たちが間違ってた」


 ジョンが唐突に言った。あまりに突飛だったので、二人は一瞬ぽかんとしてしまう。


「やっぱり俺たちは仲間だ。裏でコソコソするのは似合わねぇ。四人でいる時が一番楽しいって、今日改めて思ったよ。…三人とも、ありがとうな」


「ちょっ…、どうしたんだよ急に。…まあでも、僕もやっぱりみんなが一番大事だよ。今日は本当に楽しかった。ありがとう」


「私も楽しかったよ! レイメイの面白いところも沢山見れたし。ずーっとみんなと一緒にいれたらいいのになー!」


「…僕も、皆と馬鹿騒ぎするのは楽しかったです。また、こうやって遊びたいですね」


 四人がそれぞれの思いを呟いた。ジョンとカルザの策は失敗に終わったが、それでも確実に得られたものはあったと思っていた。


「おーいお前ら! 晩飯作ったから食べろー!」


 ロールが手を振って駆けてきた。彼が来た方からは魚の良い匂いがしていた。


「よっしゃ! 飯だ飯!」

「ちょっ、ジョン待ってよ!」


 四人は飯目掛けて駆け出した。星は彼らの未来を見守るかのように輝き続けていた。


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