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第18話 征く

 社宅に帰り準備を整えた僕たちは、黄昏さんの先導に従って巨大な建物の前まで来ていた。

 目の前に佇むその巨大な建物は、周囲では大量の車が流れるように出入りし、ガラス張りの壁は陽の光を反射し白く輝いており、定期的にガタゴトという轟音が鳴り響いていた。


「ここが駅だ。今からここに来る電車に乗って福島まで向かうから、絶対に騒ぐんじゃねぇぞ」


 黄昏さんが強く警告した。今までにないほどの圧を感じたので、仕方なく僕は興奮を抑えて静かにすることにした。


「お待たせ―。まあでも五分前か」


 少しして柊さんも合流した。急いで来たのか、少し汗をかいていて、髪も少しぼさついている。


「社長、何かあったんですか?」

「実はこの件の報告を受けて事情聴取を途中で抜けて戻って来たんだ。それであの後、また事情聴取に呼ばれちゃって…。結構時間ギリギリになってしまった。ゴメン」


 柊さんが平謝りする。誰も咎める人はいなかった。それだけ、柊さんは信頼されているのだろう。


「さ、もうすぐ電車が来る。準備しよう」


 その後のことはよく分からなった。柊さん達は駅の人達とよく分からないやり取りをし、いつも以上に迷路のように思える駅の中を、ただただ柊さん達を見失わないように必死に歩いた。そして、気が付いたら随分と開けた場所に出ていた。僕たちがいる場所は大きな凹みに挟まれていた。


「お、もう来た。やっぱり少し遅かったかな?」


 突如、遠くの方からさっきのガタゴトという音が聞こえだした。その音は段々と大きくなっていき、耳をふさぎたくなった。


「何ですか!? また襲撃ですか!?」

「落ち着け東雲! 電車が来ただけだ!」


 黄昏さんが僕に言ったが、音のせいでよく聞こえなかった。


「このままじゃ僕たち全員死んじゃいますよ!? 早く何とかしないと…!」


 慌てた僕は、例の溝の中に飛び降りようとした。


「はっ!? おい馬鹿何やってんだ!」


 でも、全員が僕の事を必死で組み付いて止めた。


「一番死にそうなのはお前だよ! いいから下がってろ!」


 流石に四人の組み付きには抵抗できず、僕はずるずると後退させられた。


「ああ…終わった…みんな死んじゃうんだぁ…」

「いやいい加減落ち着け。ほら来たぞ」


 黄昏さんが言った瞬間、建物の影から巨大な何かが現れた。正面はほぼ平な形をしていて、とてつもなく長い四角のようなものだった。


「コイツが電車。車と同じで乗り物だ。危険はない」


 しばらくすると電車は停止し、ドアが開いた。そこから沢山の人が降りてくる。


「何ですかこれ!? 全部避けろっていう試練ですか!?」

「落ち着けっつってんだろ!」


 僕はついにブチ切れた黄昏さんの拳骨を喰らってしまった。視界がわずかに揺らいだ気がする。


「ちょっと黄昏さん! 何するんですか!?」


 僕は助けを求めるように柊さん達を見たが、


「うーん…、今回ばかりはレイメイ君も少し騒ぎすぎたかもね…」

「レイメイも少し悪いと思う」

「二人とも暴れすぎ! もう少し落ち着いて!」


 どうやら味方はいなさそうである。

 後から聞いた話だが、どうやら駅や電車の中のような公共の場では、静かにしなければいけないらしい。さらに、電車の速度は速いから、さっきの溝の中に入ってしまうと電車に轢かれて大けがを負うことになってしまうらしい。それを聞いて僕は自分の行動がどれほど愚かだったか知り、深く反省した。


「まあまあ。初めて見たんだったらああなるのも仕方ないよ。そんなことより、窓見てみなよ!」


 時雨さんに言われ、僕は窓の外に目をやる。高速で動く電車の中から見るので、景色は物凄い速さで移り変わっていったが、高所から見る数多のビル達は白く輝いていて、非常に美しかった。


「改めて確認だけど、私たちは今からレイメイ君の乗っていた船の船長、ロール・ハレさんに会いに行く。でも彼はまだ話せる状態じゃないから、近くの温泉旅館に泊まって待機することになった」

「ずっと気になってたんですけど、温泉旅館って何ですか?」


 温泉旅館、という言葉がたびたび登場していたので僕は聞いてみた。


「アマテラスではこういう遠征の時は温泉旅館に行くのがお決まりなんだ。温泉旅館はホテルみたいに泊まれるところ。まあ行ってみれば分かるだろう。滅茶苦茶すげー場所だから」


 鬼灯さんが説明してくれた。以前泊まったビジネスホテルですらあんなにすごかったのに、果たしてどれほど凄いものなんだろうか。考えるだけで興奮で体の震えが止まらない。


「ロールさんの状態が安定したら、彼から話を聞く。彼もこっちに迷い込んできた当事者だ。何か知っていることがあるかもしれないし、レイメイ君の仲間を見つける大きな手掛かりを得られるはずだ」


 局面が大きく動いたのを感じた。多分、船長との再会は、僕たちの運命を大きく動かすことになる。そんな不思議な予感がしてたまらなかった。


「今説明できることはこれくらい。ロールさんもそこまで重症ではないらしいから、遅くても三日後くらいには話を聞けるんじゃないかな。とりあえず、着くまではゆっくりしてていいよ」


 そこで柊さんの話は終わった。僕は窓の外の移り行く景色を眺めながら、皆の事を考えていた。


設定こぼれ話

アマテラスでは遠征の時の温泉旅館のように、仕事内容が滅茶苦茶危険な代わりに、サービス面が充実している。給料もすごく良いらしい。

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