第16話 お勉強と襲撃の謎
今日も朝から会社に来ていたが、柊さんの姿は見られなかった。昨日言っていた通り、警察に行っているのだろう。
「よし東雲、こっちだ」
社に到着して早々、黄昏さんにある部屋に連れてこられた。一面白い壁で、縦長の机と椅子が何個かおかれている部屋だった。
「ここは会議室。今日は貸し切りにしてあるから、思う存分使えるぞ」
「…一体ここで何をするつもりなんですか?」
僕が聞くと、案外あっさりと黄昏さんは答えてくれた。
「俺たちは昨日の戦いでそれなりに怪我をした。いきなり危険な任務に出すのは危険だろうということで、今日はお前に日本語を教えろと、社長からの命令だ」
日本語、というのは僕が使っているこの言語のことだろう。何故かは分からないが、元の世界で使われていた言語と、この世界で使われていた言語は同じだった。そして僕は言語を話すことはできるが、字の読み書きができない。昨日のとうふや風斗でそれを強く実感した。
「シュウー! 説明終わった?」
「今してるところだ」
いつの間にか時雨さんと鬼灯さんも部屋に入ってきていた。二人も一緒に教えてくれるらしい。
「まあ、最低限文字は読めないとダメだろう、ということでだ。ビシバシ教えるから覚悟しろよ!」
黄昏さんの言葉通り、僕はこの後とんでもないしごきによってひらがなを覚えさせられた…。
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同日、八時五分。
警察署にやってきた柊ジンが、取調室に通された。ジンはもう慣れたという風に椅子に座り、警察の発言を促した。
「本日の事情聴取を担当します、岡田と申します。早速ですが、昨日の事件について改めてお聞きしてもよろしいでしょうか」
四十代前半と思わしき岡田という刑事もまた、慣れたという風に淡々と要件を述べた。
「まあまあ、私と君の仲じゃないか。そんなに固くしないでよ」
「…まあそうだな。それで、昨日もやっぱりいつもの襲撃か?」
「…襲撃は襲撃だ。それだけならまだいい。ただ、今回の襲撃は少し変だった」
ジンは頭を抱えながら言った。
「今回の襲撃が起きたとき、私とレイメイ君、シュウ君、ナギ君、ケンタ君は柊剣道場にいたんだ。そして私が昼食を買いにコンビニへ向かい、さらにケンタ君が本社に呼ばれたタイミングで襲撃が起きた。アイツらが私を孤立させようと動いたのは間違いないと思う」
「お前、滅茶苦茶強いもんな。プランダーズのメンバーにも聞いたが、確かにお前を孤立させる目的はあったってよ」
「なら尚更不思議だ。何故プランダーズは私が外出する時間を知っていた? 何故私が行くコンビニが分かった?」
ジンが述べる疑問を、岡田は不思議そうに聞いていた。メモ帳に記録する手はせわしなく動き続けていた。
「普通に尾行されてたんじゃないのか? それに、道場から一番近いコンビニならそこだって分かるだろ」
「今回私が行ったのは最寄りのコンビニじゃないんだ。どうしてもみんなにファミモの限定ツナマヨおにぎりを食べさせたくってね。それに、そもそも昨日私たちは道場にいた。会社じゃない。そのことすらも彼らは知っていたという事だ。そして、彼らの狙いはレイメイ君だった。でもまだレイメイ君をウチに迎えてから三日しか経ってない。アイツらの得ている情報量が多すぎる。おかしいと思わないか?」
「…それは俺も思っていた。だが、覇道の奴はいまだに一切を語ろうとしない。だが、東雲レイメイを狙っていたのは、何者かの命令によるものという事は確かだな」
それを聞いたジンは頭を抱え込んだ。そしてしばらくして、
「うん…、今は考えても全然分からない! 覇道が口割ったらまた連絡して!」
開き直った様子で席を立ち、帰ろうとした。
「っておい柊! 待て――」
岡田が言ったその時、柊のスマホにとある着信が届く。
「ん? どうした柊?」
「これは…」
ジンは送られてきた写真をじっと見ていた。見開いたまま閉じようとしないその目から、極度の衝撃が伝わってくる。
「…恐らくそうだ。まさかこんなに早く見つかるとは。…本当に、君たち警察にはいつもお世話になっている。ありがとう」
そう言い残し、ジンは岡田のわずかな隙をついて取調室を出て帰っていってしまった。
「また俺一人でカツ丼二つ食べないといけないのか…」
岡田は机の上に、ジンに用意していた分と自分の分の二人前のカツ丼を置いて、深いため息をついた。
設定こぼれ話
ジンと岡田が出会ったのは五年前。それ以来岡田は警察とアマテラスを繋ぐパイプの一つとしてアマテラスに協力してくれている。ちなみにまだ二人は一緒に飯を食べたことがない。